第13話 Ⅲ.望んでいない珍道中 ネマール帝国
僕らは機関車から見える景色を堪能したあと、ネマール帝国帝都の付近の駅まできた。
「へぇー、こんな感じなんだ」
「ジン、ここはネマールでも23本の指に入る、有名な都市だぞ。知らないのか?」
(ロン、23本は足の指を入れても足りないよ)
ロンとそんな話をしていると前方に、屈強な男に腕を掴まれている女の子がいた。そして路地裏へと消えていく。
「あれって?」
「ジン、お前の想像通りだと思うぞ」
「じゃあ」
「あぁ。タンちゃん、一緒に来てくれ。ババアはお嬢の護衛を頼む」
セーラが激おこプンプンだったが、急いで女の子のいる路地裏へと向かう。
「やめて、はなして!!」
「いいじゃないか。俺たちと気持ちいいことしようぜ」
「兄貴、倒したら腕を押さえればいいですか?」
「おう、俺が楽しんでから、お前らにくれてやる」
「そのあとは――」
「あぁ、いつもの所に売りに行く」
「娼館ですか? 兄貴、もっと楽しみましょうよ」
裏路地に入ると、先ほどの女の子と男が3人いた。
「タンちゃん。男ども捕まえて、検問所に連れていきたいから、あいつら眠らせてくれ」
「わかったぞよ。永眠させればいいんじゃな?」
(タンヤオ、殺しちゃダメだよ)
タンヤオが男達の元へ行くと。リーダーらしき男から、
「なんだ、おまえ?」
「ふぉふぉふぉ、わらわはタンヤオ。そなた達を眠らせにきた」
「はぁ?」
「兄貴、この女もやっちまいましょ」
タンヤオは男達に近づき、水鉄砲を唱える。
「ほう、水鉄砲か、そんな魔法効かないぜ」
タンヤオが唱え終わると、長いホースが出てきた。
「いくぞよ!!」
タンヤオは強烈な水を男達に浴びせる。
(まるで消防車の消火活動だな。火の粉があの子に降りかかっていたし)
「いててて」
「やめ――」
男達は痛烈な水を浴び、この場から逃げていった。
「ふぉふぉふぉ、まるで蟻じゃ。ふぉふぉふぉ」
「あ、ありがとうございます。えーっと、お名前――」
「ふぉふぉふぉ、名乗るほどではないぞよ」
(『わらわはタンヤオ。そなた達を眠らせにきた』って言ってたよね?)
「タンちゃん。追いかけるぞ」
「ん? なんでじゃ?」
「他にも娼館に売られっちまう、女の子がいるかもしれん」
「娼館とはなんじゃ?」
「女が裸になって、男たちを気持ち良くする所だ」
「ほう、サキュバスを呼べばいいんじゃな」
「まぁ、いいや。いくぞ!」
どうやら僕達の新婚旅行は初っ端からトラブルに巻き込まれたみたいだ。
一方その頃シャルとセーラは、
「あのバカ、殺す」
「セーラさん、落ち着いてください」
「シャルちゃん、この前サラマンダーと契約できたの。だから」
「サラマンダーにお願いしてみたいと」
「ピンポーン!」
「あのー、ジン様との新婚旅行なんですけど……」
「いいじゃない。思い出に残る新婚旅行になるわ」
◆
男達が立ち去り、僕が裏路地で佇んでいると、シャルとセーラが来た。
「女の子無事みたいね。ジンちゃん、結局何があったの?」
「タンヤオが男達を追っ払って、ロンが追いかけていった感じ」
「ふーん」
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
女の子は僕にお礼の言葉を言った。
「大丈夫だよ。それに僕何もしていないし」
「いえ、本当に助かりました。たぶん、あの人達はこの辺りで悪いことで有名な人達です」
「悪いこと?」
「はい、噂では金の為なら暴力で脅し、女性達をいかがわしいお店で働かせているみたいです」
(そうか、だから通行人は見て見ぬふりをしていたのか)
女の子とそんな話をしていると、ロン達が戻ってきた。
「いやー、見失っちまった」
「ふぉふぉふぉ、わらわの言った南南西に行かなかったのがいけないのじゃ」
(裏路地でその方角はわからないよ。というか羅針盤持ってないだろ)
「なぁ、ジン。オレ達で娼館ぶっ壊しちまおうぜ」
「たぶん、悪手かな」
「はっ? なんでまた?」
「男はさ、性的に発散させないといけないだろ。娼館が潰れたら強姦とか増えるよ」
「そう言えばそうか。でもよう攫われた女の子が可哀そうじゃん。お嬢が攫われたらお前イヤだろ」
「当然だよ」
「救ってやりてぇんだけど、どうすっかなぁ」
「そうだね。ロンとりあえず通りに出ようか」
僕達は通りに出た。ロンは娼館の情報を集めようと行き交う人達に聞く。
「へい、そこの君! オレとお茶して、喋らなーい?」
(ロン。それはナンパだ。やめてくれ恥ずかしいから)
30分ほど通行人に聞き、娼館の場所や男達のアジトであろう場所の噂を得ることができた。
「ジン。オレ、これからタンちゃんと一緒に突入するわ」
「ロンとタンヤオだけでいいの?」
「シャルがいるからお前は連れていけないし、ババアには護衛を頼むから」
「わかった。ホテルで待っているよ」
「あいよ。天辺(12時)」までには帰ってくる。ゆっくりしていてくれ」
僕はロンとタンヤオを見送って、シャル達と一緒に高級ホテルへと向かった。
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〈おまけ〉
「ジンちゃん! 本当にここに泊まるの?」
「そうだよ。スイートルームとったから」
「あたいは普通の部屋だよね」
「申し訳ないけど、そうだね。ロンとタンヤオもそう」
「ロンは修道士だから野宿で充分よ。タンヤオはあっちに帰ればいいし」
「そうですね、セーラさん。ジン様、ロンさんとタンヤオさんの部屋キャンセルしましょう」