第12話
披露宴会場の外で僕とシャルは入場のアナウンスを待っていた。司会進行は魔王の友達、堕天使さまだ。
『それでは、新郎新婦の入場です』
会場は人族ゾーンとエルフ、魔族の混在ゾーンに分かれている。何故そうしたかというと、エルフは食べない肉を魔族にあげて、魔族は嫌いな野菜をエルフにあげる。まさにwin-winの関係がみてとれたので、そのようにした。
『乾杯の音頭は、新郎新婦の友人である。タンヤオさまにしてもらいます』
「ふぉふぉふぉ。この度は新郎新婦、おめでとうなのじゃ。わらわは――」
20分後
「――ということじゃ。では乾杯じゃ。かんぱーい!!」
(長かったな。タンヤオ……同じ話を10回も繰り返さなくていいんだぞ)
みんな楽しそうに食べて飲んでいる。しかし……。
(なんで僕らに挨拶に来ない。この世界はそういうものなのか)
『皆さん、注目のほどを。これから新郎新婦の初めての共同作業。粘土入刀です』
(陶器を作るんだな。きっと……)
余興は面白かった。魔族による火あぶりマジック、溺死マジック、箱の中に剣を刺すやつなど、人間がやられたら致命傷になるものばかりだった。ウンディーネたち四精霊による舞は、とても美しく綺麗で、タンヤオの挨拶よりずっと見ていたかった。
そしてメインイベント。セーラによるウイリアムテル。リンゴを的にして弓で打ち抜くという難度の高い技の披露だ。リンゴはもちろんロンの頭の上にある。
最初に放たれた矢は、リンゴには当たらずにロンの右頬近くに。そして次はロンの左頬脇をかすめる。
(どうみても、狙ってやっているよね。これ拷問だよ)
セーラが眉をひそめ打った矢は綺麗にリンゴに当たり、会場からは拍手が巻き起こる。
そして披露宴の結びに、公爵様の挨拶があった。
「シャル――わしは認めん」
これにエルフ達が激怒。魔族が必死に公爵様を守るという乱闘騒ぎが起こり、各国の代表は「シャロー王国を敵に回してはいけない」と思ったそうだ。
◆
「じゃあ、2次会参加者はオレについてきてくれ」
ロンの呼びかけに、みんな移動する。場所は――。寺院脇の路上。
(これさぁ、日本のハロウィンで見たことあるよ)
飲めや歌えや、皆楽しく過ごしている。本当にみんな祝福してくれているのだと改めて思った。
◆
「じゃあ、6次会参加者はオレについてきてくれ」
空はもう明るくなっている。いいかげんに帰らせてくれとロンに言いたかった。
6次会の様子をみているとチー姉が現れる。男の人に腕を絡め、幸せそうな顔をしていた。
(なんかよさげな雰囲気だな)
6次会が終わり、皆解散。こうして、僕らの式が無事に終わった。
◆
根城に戻り、僕がシャルに新婚旅行について相談していると、いつの間にかロン達がやってきた。それにチー姉も。
「ジンよう、まさか自然遺産とか見に行かないよな? シャロー王国の91.02548パーセントが森と湖の自然豊かな所なんだから」
(ロンさぁ。そこは90パーセントでいいんだよ)
「ふぉふぉふぉ、わらわのオススメスポットはヘブンと極楽じゃ」
(殺す気ですか?)
「ネマール城の地下牢とかいいわよ。三角木馬もあるし」
(チー姉、新婚旅行でそんなところを勧めないでください)
「ジンちゃん。サラマンダーと所縁の深い、ビブリル火山と火山灰の降り積もった遺跡群なんか、行ってみるといいわ」
(ポンペイ遺跡だな。まるで)
「あっ、そうだ。謎かけをしてくる不思議な像があるから。そこへ行くのはどうだ?」
(スフィンクス??)
「ふぉふぉふぉ、魔族領もいいぞよ。植物すら育たん、マグマと間欠泉の絶景がある」
(イエローストーン国立公園?)
「奴隷を猛獣と戦わせる闘技場もある。亡き父が大好きだった」
(コロッセオだな。そういえばチー姉知ってるかな? タンヤオがチー姉のお父さんを殺したことを)
「ああぁ! ジンちゃん。全長が1メートル超えの猫がいる森を知っているわ」
(たぶん、猫じゃない。虎かチーターだよ)
そんなこんなで、みんなの意見を聞いて、ほとんどボツだったが新婚旅行の行き先が決まった。
「じゃ、オレらも旅の準備するか」
(ロン。こうなることは、うすうす気づいていたよ)
「旅の移動は大変じゃからな」
(タンヤオ。お前はワープできるだろ)
「ごめん。彼氏がいるから、私お留守番するわ」
(チー姉。幸せになってね)
「あたい、宰相に国王の代理を頼んでくるね」
(セーラ。本当はそいつが国王だろ。僕とシャルの為にありがとう)
◆
「ジンさまー、こっちです。早くしないと機関車に乗り遅れますよー」
「ちょっと待って。今行くー」
僕は
シャルロットに呼ばれて
駅に向かう。期待とワクワクに満ちた、新婚旅行の始まりだ。
(あああ。ロン。タンヤオ。セーラ。マジで邪魔すんな!)
――――――(終)――――――
「終わりじゃねぇよ!! ちゃんと新婚旅行の様子も描け!!」
「あたいもいかないとね。ロンとタンヤオが何するかわからないから」
「ふぉふぉふぉ。食い倒れの旅か――楽しみじゃのう。わらわはたくさんお菓子を食べるぞよ」