第11話
僕とシャルは精霊達が作ってくれた小さなお城での生活を始めている。小さなお城と言ってもキャッスルではなく、外観はヨーロッパにあるような4階建てのレンガ作りの住居で、1階には台所や風呂などの水回りと使用人達の部屋。2階にパーティーを行うため大広間があり、3階には会議室やゲストルーム。4階が僕とシャルの住居スペースだ。公爵様の部屋もある。
今日はいつものメンバーが集まって、結婚式に向けての会議をしている。
「で、司会進行なんだけど、オレじゃダメなのか?」
「うん。ロンにはゲストとして結婚式に参加してほしい」
(司会進行の神父をやらせたら、コントが始まるでしょうよ)
「わらわはお願いしたぞ。魔王に司会をしてくれと」
(おい)
「タンちゃん。それいいね!」
(おい)
「あたいも賛成」
(そんな――セーラまで)
「ジン様、みんながこう言っているので司会は魔王様にしましょう」
(カオスだよ。カオス。この世界の常識は考えられないや)
結婚式と披露宴会場はこの前寺院に行って下見をした時に確認したが、これ以上ゲストが増えたらどうしようかと思っているところ、ロンが出席者の確認をしてきた。
「でだな、お嬢の方のゲストは公爵や各国の宰相などでいいな?」
「はい。ロンさん、大丈夫です」
「するってぇと、ジンの方はエルフ達と魔族だな」
(まぁ、この世界へ来たから、親族と呼べる人はいないけど――なんだかなぁ)
そんなこともありつつ月日は流れ、結婚式当日を迎える。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日は結婚式。私はしーちゃん、いやシャルロット王妃の付き人をしている。化粧を手伝い、王妃にウエディングドレスを着てもらう。すると、ノックの音がしてロンが部屋の中に勝手に入ってきた。
「おう、姫さん。神が言っていたぞ」
急にロンにそんなことを言われ、私は戸惑う。
「今日、姫さんをずっと見てくる男がいたら、姫さん、その男に自分の名前を言いなさいってさ」
「ストーカーだったらどうするのよ」と言ったが「神の言葉だ」とロンはそれしか言わなかった。
式が始まり、新郎のジン・シャロー国王が入場する。次に司会(魔王)の言葉で、王妃の入場となり、私は王妃を祝福すると共に羨望の眼差しを向けていた。
(いいなぁ。もう皇女じゃないただの侍女だから、こんな結婚式は挙げられないのかぁ)
式はつつがなく進行し、その中で視線を感じ振り向くと、年が同じくらいの青年がこちらを見ていた。
(この人に自己紹介すればいいのね)
新郎新婦の口づけのときには、魔族の方々が「ちゅー。ちゅー。ちゅー」と言っていて、子供だなぁとつい思ってしまった。
式が終わり、新郎新婦が退場する。本来ならば王妃のあとに、ついていかなくてはならないが、彼が披露宴に参加しないかもしれないので、王妃に断りを入れて彼の元へいく。
「すみませーん」
男は立ち止まりこちらを見る。
「初めまして、私、チーと申します」
「えっ、チー? チー・ネマール皇女?」
「はい」
「マジで! 覚えている? 俺カンだよ」
「えっ」
「いやぁ、バリアナの捕虜になったって噂を聞いていたから酷い目にあっていたんじゃ――」
「ううん。王妃が助けてくれたの。私の侍女になりなさいって」
「そうか。よかったよ。いい人がいて」
彼は私の幼馴染。10歳のときネマールから出ていったから、本当に会うのは久しぶりだった。
「ねぇ。披露宴には参加するの?」
「いや、参加はしない」
「そうなんだ……」
「参加するのか?」
「うん」
「じゃあ、俺待ってるぞ。久しぶりにいろんなこと話したいから」
「本当!」
私は嬉しい。この式でお母さま以外の知っている人に会えるなんて思ってもいなかったから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ。疲れたぁ」
結婚式が終わったあと、僕は緊張がとけて椅子に座ったまま考えごとをする。
(この世界には新婚旅行の概念がないのかな、歴史ある由緒正しき場所を巡ってみたいんだけど)
「ジン様」
ノックの音に気づかず、急にシャルの声が聞こえてビックリした。
「早く披露宴会場に行きましょ、みんなが待っているので」
「わかった、行こうか」
僕はいったいどんな波乱が待っているのだろうと思いながら、シャルと一緒に披露宴会場へと向かった。
――――――――――――
〈おまけ〉
「よし!! 新婚旅行、ってものに、ついていこう」
「わらわもついていくのじゃ」
「はぁ、あんたたちね。ついて行くなんて旅行のお邪魔虫になるだけだわ」
「心が狭いんだよババア。そんなんだから男ができねぇんだよ」
「出でよ!! イフリート!!」