第10話
シャルは王妃になるための教育を受けている。他国との交流がある際、必要なことだとのアドバイスがあったからだ。
それで教えているのは誰かというと……。
「ネマール帝国の西にはブレッサンド王国。それから、シャロー王国の南にある山脈を越えると獣人の里があり――って聞いてるの? しーちゃん?」
「うぅぅ。チー姉さん。私は地理が苦手です」
「うほん。あなたジン国王の妃になるんでしょ? それにここでは先生と呼ぶ。いい?」
「はい、先生」
そう、教えてくれるのは戦争に負けたネマール帝国の捕虜、チー・ネマール元皇女だ。
「しかしよう、姫さんもお嬢には当たりがキツイなあ」
「そう? あたいはチーちゃんが厳しく教育してくれるから嬉しいんだけれど」
「ふぉふぉふぉ、わらわには甘いぞ。チョコレート麩菓子を沢山くれるぞよ」
シャルが一生懸命勉強している脇では、ロン達が呑気にお茶を啜っている。
「そういえば、結婚式には誰を呼ぶのか、ババア知ってるか?」
「何度も言っているけど、うら若き乙女にババアはない」
「いいじゃねえか、オレがどう呼ぼうと」
「はぁ、何を言っても無駄か……」
「で、誰を呼ぶのか、わかるか?」
「あたいが知っていることは各国の宰相クラスが出席することだけね」
「ふーん」
「わらわは頼んだぞ。四天王に出席してくれと」
「タンちゃん。何してくれてんの?」
「ん? わらわは主の眷属、主は王のシモベじゃろ。仕える者が出席して当然じゃろ」
「混乱するだろ。各国の来賓が出席するのに、魔族がいたら」
「教会ではやらんのじゃろ? 魔族を差別するんじゃないのじゃ」
(あのー。僕らの結婚式なのにカオスなことになっているんですけど)
「あとな四天王だけじゃなく、魔王も来るぞよ。それと魔王の親友の堕天使も」
(神の領域、一歩手前だな)
「あっ、そうじゃ! 主、生贄も準備するのじゃ!!」
(結婚式じゃなくて、儀式だな)
◆
「はい。じゃあ、今日はここまで。お疲れ様でした」
「先生、ありがとうございます」
「次回までには授業用のプリントを作ってくるから、ちょっと待っててね」
「授業料払っていないですけれど、いいんですか?」
「いいのよ、しーちゃん。その代わりに今度の結婚式で王子さま達が来ていたら私に紹介してね」
「チー姉さん。チー姉さんなら、紹介しなくても向こうから来ると思うのですけれど」
「そうかもね――しーちゃん、そろそろドレスの仕立て屋さんが来るんじゃない?」
「あっ、そうでした! 忘れていました」
◆
「注文のありました純白のウエディングドレスの他に、サンプルを持ってきたのですが、その説明をさせていただいても、宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「まずは、シャルロット様の髪色に合わせた赤系のこのドレスと、湖をイメージした青系。森をイメージした緑系を準備させて頂きました」
「あの、仕立て屋さん」
「何でしょうか?」
「サラマンダーとウンディーネ、シルフで赤青緑は大丈夫なんですが、ノームの為にブラウン系のドレスもお願いしたいのです」
「なるほど、では出来上がり次第サンプルを持ってきます」
「はい。各2着ずつ計8着買いたいと思っています」
「シャルちゃん、王妃になるんだから、もっと買った方がいいわ」
「セーラさん。民のために無駄遣いはしたくないのです」
◆
「ジン様」
「ん?」
その日の夜、僕が国の方針を考えているとシャルが部屋にきた。
「あの、今夜一緒に寝たいのですが――」
「えっ」
「これから夫婦になりますし、寵愛を受けたいので」
「わかった。もうちょっと国のことを思案したいから、1時間後に、寝間着を持ってきて」
「はい、よろしくお願いいたします」
1時間後、僕はベッドの上でシャルの多大なる愛情を感じ、愛を込めてシャルを抱き返した。今、シャルは気持ちよさそうに眠っている。幸せな気持ちで満ち溢れている中、僕は国の未来が明るくなるよう、神に祈りを捧げた。
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〈おまけ〉
「おう、ジン。神が言っていたんだが、お前、大日本帝国ってところの出身なんだって?」
「そうだね。昔はそう言っていたよ」
「じゃあ、帝王って名乗っても良かったんじゃないか?」
「うーん、どうだろ。エルフと関係を深めるから、国王の方がしっくりくるな」
「ほー、そうなんか。それとな――」
「わかっているよ。シャルのことだろ」
「正解。で、どう――」
「ウンディーネ。あいつの口を塞いで、溺死させても構わないから」