第1話 シャルロットに呼ばれて Ⅰ.帝国との戦争
僕はどうやら死んだみたいだ。昔から歴史が好きで「賢者は歴史から学ぶ」という言葉が僕を肯定していた。
だから僕は高校生になっても勉強し続けた。人というのは今も昔もそれほど変わらないはずだから、歴史を学べばきっと人生に大きく役に立つのであろう。
でも、死んだら何も残らない。そう、魂の行き先は歴史では証明されていないから。そう考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お父様。この戦いで負けたら、私はネマール帝国の捕虜になってしまうのですか?」
お父様は悲痛な表情をしていた。ネマール帝国との戦いで形勢が不利になっていたからだ。
「すまぬ、シャル。わしの力ではどうすることもできない」
バリアナ公国は大陸でも、力の無い国だ。先月、ネマール帝国から進軍があり、戦争が勃発した。捕虜になると私は男達に犯され、拷問を受けるであろう。
誰も助けてはくれない。でも、この国の為にどうすればいいのか。神様お願いします、どうかこの国の未来を救ってください。私は捕虜になっても構いませんから、お願いです。
『その願い叶えてしんぜよう』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん、うーん」
気づいたら僕は草むらで寝ていた。ここは天国なのか、はたまた地獄なのか、さっぱりわからなかった。
草むらから舗装されていない道にでて、ここは何処なのか、わからずにいると馬車がこちらに来ているのが見えた。
「うーん。空が青いな。地獄ではなさそうだ」
仰ぎ見れば、青い空にワイバーン。ん? ワイバーン?
混乱していると先ほど見えた馬車が目の前で止まる。
馬車の幌から、騎士が数名と女が2人出てきた。そして騎士の男に言われる。
「おぬし、転生者か」
「転生者?」
「そう聞いている」
(なるほど)
どうやら僕は死んで、まだ見ぬ世界へ転生者として来てしまったみたいだ。
「たぶん、そうだと思います」
そう答えると、質素ではあるが品のいい服を着ている赤髪の女の子から、こう言われた。
「賢者様、どうか私達に力を貸してください」
「賢者? 僕、賢者なの?」
「はい、神様から賢者が現れるから、この場所にきなさいと啓示があったのです」
「うーん。賢者なのかどうかわからないけど、君は誰?」
「申し遅れました。私はバリアナ公爵の娘、シャルロット・バリアナと言います」
「えーっと、ジンです」
「ジン様ですね。お願いがあります」
「お願いって?」
「はい、私の住んでいる屋敷で詳しく説明いたしますので、馬車に乗って頂けないでしょうか?」
僕はシャルロットの綺麗な声を聞いて、この人は悪巧みをするような人ではないと思った。
なので、彼女の願い通り馬車に乗り、バリアナ公爵邸へと向かうことにした。
◆
「こちらになります」
シャルロットの案内で公爵邸の中に入る。中庭があり、まるでインドにある邸宅みたいだった。
「お父様、賢者様を連れて参りました」
「おお、お主が賢者か。わしはルーセント・バリアナだ。名を何という?」
シャルロットの父親らしき人物に賢者かどうか、そして名前を聞かれたので「ジンといいます。たぶん賢者だと思います」そう答えた。
すると、バリアナ公爵から、僕にお願いしたいこと説明された。
バリアナ公国はネマール帝国との間で戦争になっていて、負けるとシャルロットが捕虜になるそうだ。戦況はバリアナ公国側の形勢が悪く、このままだと戦争に負けてしまうだろう。そうなるとシャルロットは男達に犯されて、さらに拷問も受ける。なので戦争に勝って、シャルロットが捕虜にならないように、力を貸してほしいと。
「そうですか、僕にできることは限られています。今ある知識を伝えることしか……そうか」
僕の知識が戦争で役に立つかもしれない。
「聞きたいことがあります。戦争はどうやって戦っているのですか?」
「騎士の者達が剣や槍を持って戦っている。それがどうしたと言うのだ?」
「投擲武器を使い戦っているなど、何か工夫はしていますか?」
「投擲武器とは何だ?」
これなら役に立てる、歴史上における武器に関しての本を好きでたくさん読んでいた。
何度も繰り返し読んでいたので、設計図なども頭の中に入っている。
「バリスタとカタパルトはご存じですか?」
「ん? 聞いたこと無いぞ、バなんとか」
「では、木を扱う大工などの職人を集めてください。僕が投擲武器を作り、使い方を教えて、戦場へ配備したいと思います」
戦争は始まっている、時間が勝負だ。公爵様の呼びかけによって、半日ほどで職人が集まった。
「賢者様、何か私にできることはありますか?」
シャルロットは余所行きの服から着替えていて、女性らしい体のラインがわかった。
(いかん、いかん、何を考えている。今は戦争中なんだ)
大きな胸に目がいくが、国をどうにか救いたいという彼女の思いを踏みにじることはできない。
僕は彼女に絵を描いて説明する。
「ここの部分の材料が欲しいんだ。伸び縮みする、そう弾力のあるものが欲しい。集めてくれないか」
「わかりました侍女達に言って、集めます」
「ああ、できるだけ早くお願い」
「わかりました。賢者様」
◆
夜、屋敷にある与えられた部屋から空を眺める。不思議なことに、夜空には月が2つあった。
それを見て僕は改めて異世界に来たのだなとそう思えた。
死んだはずなのに、ここにいる。きっとこの世界での使命があるのであろう。