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後編

 大伯母の誕生日の祝いには数々の著名人が集う。


 それは大伯母の無き夫の交友関係であったり、亡き弟である私の祖父の交友関係もある。最近ではクローディアの商売関係で知り合いになった方々も多いのだが、大伯母からすればすべて自分のおかげで集ったと思っているだろう。


 その誕生祝いに大伯母のお気に入りである弟の孫であるエドワルドがずっと控えていて、実子であるはずの父のいとこである公爵はそっと距離を置いている。


 エドワルドの傍には婚約者ではない女性が傍に控えているのを訝しげに……婚約者であるクローディアの知り合いなどは特に顕著に女性を見ている。


「今日はお集まりになって誠にありがとうございます」

 大伯母は機嫌よく挨拶をして、

「わたくしの誕生の祝いと共にもう一つ大事な事があります」

 なんだなんだとざわざわと気にする人たちとすでに話を聞かされている者たちと反応が分かれる。


 そんな中私たち家族と大伯母の息子。つまり公爵家はただ【無】になっていた。


 すでに話し合いをして、互いに了承してあったのだ。


「わたくしの弟の孫であるエドワルド・オルヴィスとクローディア・ナイディル侯爵令嬢との婚約を破棄して、キャナル・マルゴーン男爵令嬢と婚約を結ぶことになりました!!」

 名前を呼ばれてキャナル嬢は頭を下げる。一瞬だけ勝ち誇った笑みを浮かべて、クローディアを見つめるキャナル嬢にクローディアは全く動じない。


「クローディア。お前は女のくせに商売などと男のようなことをして、婚約者を立てる事も出来ないそんな者に()()()()として、役割を果たせないだろう。そんなお前は俺の婚約者として相応しくない!!」

 高らかな宣言。


 それに対して……。

「婚約破棄の件了承しました。ですが、おひとつ尋ねたいのですが、なぜ、わたくしが侯爵夫人になるのでしょうか?」

 不思議そうに首を傾げ、

「わたくしは、伯爵夫人になると思っていましたけど」

 と確認してくる。


「なんだ。身の程を弁えていたのか!! そうだな。お前程度なら伯爵夫人が妥当……」

「婚約者ではなくなったのですが、あえて呼ばせてもらいます。エドワルドさま。貴方様は成人したら侯爵家の分家として伯爵になるとお聞きしていました。侯爵家はご長男であるラインハルトさまが継ぐはずですよね。なぜ、侯爵夫人という言葉が出てくるのでしょうか?」

 意味が分かりませんと首を傾げる様に、大伯母の息子である公爵が、

「まさか母上。いとこの三男に我が家の分家として爵位を与えるおつもりではないでしょうね」

 ぎろりと視線を向けて詰問する。


「な、何が悪いのっ!! だって、わたくしの可愛いエドワルドのためなんですから」

 悪びれずに実行に移そうとしているのを会場に集った者達が信じられないと話をしている。


「――母上。公爵家当主は私です」

 公爵の声と同時に、

「我が家の不利益になる事を言われるのは本当に困りますよ」

 彼はずっと母を隠居させたかった。政略結婚ではあったが、実家の弟の孫を溺愛して、その孫のために公爵家を利用するさまに。


 そして、いとこである私の父も自分の子供を誘拐同然に手元に置き、好き放題我儘に育てていることに頭を抱えていた。


 それゆえ、二人は大伯母を、実の母を排除しようと計画を立てた。


(だが、その先陣をまさかクローディア嬢にとられるとは)

 それに対して残念な気持ちもあるけど、同時にそれこそクローディア嬢だとついずっと抑えていたとある感情が沸き上がってくる。


「衛兵」

 実はずっと控えさせていた兵士を公爵が呼ぶと同時に兵士たちが大伯母を連れて会場を後にする。そして、それはエドワルド達にも及ぶ。


「なっ、なんでだっ⁉」

「お前には爵位を簒奪しようとしたのではないかと疑いがあるからな」

 必死に抵抗するエドワルドに父が告げる。


「そうでなければ、ラインハルトが継ぐはずの侯爵という言葉は出てこないだろうし、まさか本当に公爵家から爵位を奪おうとしているのならもっと問題だ」

 お前に与える爵位ではない。

 父が断言するとエドワルドが視線を助けを求めるように動かしているが、当然誰も助けようとしない。


 クローディアに視線が向けられた時にとっさにその視線から庇うように前に立つと。

「お前だな」

 憎しみを宿した視線で人が殺せるなら殺せそうなほどの迫力の宿したそれでこちらを睨んで、

「お前の所為だろうっ!! レイモンド!! お前のような魔力持ちがこんな状況を作ったんだっ!! 悪魔めっ!! 大伯母さまの言ったとおりだ!! 双子の兄は弟からすべてを奪う悪魔の存在だと!!」

 ばしんっ

 弟の声は大きな音によって終わった。そう、クローディアが思いっきりエドワルドの頬を叩いたのだ。


「……努力をせずに甘言ばかりしか聞かずにいた人が言う言葉ではありません」

 冷たい声。


「魔力があるからと言ってもその魔力を自由に使いこなすにはどれだけの努力が必要だと思いますか? すべてを奪った? はっ、家族の苦言から遠ざかり都合のいいことばかり告げる人に甘えて縋って何もしなかった人が切り捨てられるのも当然でしょう。自分勝手な事はいい加減にしなさい」

 鼻で嗤い、現実を直視させる鋭い声。


「お前みたいな男を引き立てることをしない生意気な奴が僕を馬鹿にするつもりかっ⁉」

「引き立ててほしいなら引き立ててもいいと思わせる魅力を持ちなさい!! 大伯母さまにおんぶで抱っこな赤ん坊以下がっ!!」

 喚いてクローディアを責め立てるが、クローディアからすればそれは負け犬の遠吠えにしか過ぎなかった。


「自分の状況を嘆くならどうしてそうなったか自分で気づきなさい。貴方のような人がレイモンドさまを責め立てる事などおかしいのですからっ」

 クローディアの言葉にますます怒り狂うエドワルドだったが、エドワルドがこれ以上しゃべるのが煩かったのか猿轡が嵌められる。


「この度はお騒がせしました」

 公爵が頭を下げる。

「いえいえ。――良い余興でしたよ」

 そんな言葉で返すのは大伯母に辛酸を舐めさせられていた前公爵の知人。元公爵夫人にはよく思っていなかったが、前公爵と今の侯爵とは友誼を結んでいる人である。


 そんな彼を皮切りに、

「よく決断されました」

「お見事です」

 と褒め称える人が多い。中には複雑な思いを抱いている人もいるようだが好意的に受け入れられてこの計画で今後の事が不安だったが何とかなりそうで安堵する。


「クローディア嬢すみません。こんな茶番に巻き込んでしまって」

「いえ、お気になさらずに。それよりも」 

 クローディアの視線の先にはエドワルドの新たな婚約者になったキャナル嬢がそっとこっそり会場を後にしようとしているのが見える。


「せっかく婚約したのですからきちんと結婚出来るようにしてあげないと可哀そうですわ」

 にこやかに微笑んで告げると、

「キャナル・マルゴーン男爵令嬢との結婚を認めてあげてください」

 慈悲深いように見えてのささやかな仕返し。


「ああ。それはいい」

 それに了承するのは父。兄も頷く。


「ひぃぃぃぃっ⁉」

 会場から逃げようとしたキャナル嬢が悲鳴を上げるが、会場にいる全員に宣言したのだ訂正も出来ずにそのまま婚約の流れになったのだった。



 後日。大伯母は公爵領のとある場所で蟄居になった。

 エドワルドは除籍。大伯母と一緒に暮らしてもいいかと思ったが、そちらは我が家で処分したので別々に暮らすことになった。


 で、

「レイモンドさま。あのわたくしは………」

 婚約を一方的に破棄されたはずのクローディアは戸惑ったようにテラスに用意されたお茶を見て問い掛けてくる。


「考えてみたら、エドワルドに会いに来ていたのではなく、母上に会いに来ていたのであの愚弟の一方的な婚約破棄で慰謝料は払いますが、縁を切るのは違うと思ったので」

 ちなみに慰謝料は愚弟からしっかり毎月徴収させてもらっている。一応目の届くところで働いてもらっているので二度と馬鹿げた事は出来ないだろう。


 あの愚弟は女、貴族は働かなくても贅沢できると思い込んでいたみたいだからその馬鹿な考えを改めさせないといけないと生かさず殺さず日々を送らせている。


「ここで縁を切るのは寂しいので……クローディア嬢もそう思いませんか?」

 情に訴えると。

「そうですね……。確かにエドワルドさまは約束の日は何故か留守でした。――婚約していたのも信じられないくらい希薄関係でしたね」

 二人で居た時間を思い出そうとしているが全く思い出せなかったようだ。


「あんな愚弟の所為で関係を断ちたくないので」

 きっぱりと告げるとクローディアは顔を赤らめる。


「そんな視線を向けて言われるのは卑怯では………」

 と恥ずかしげに視線を外すさまを見て可愛らしいと笑ってしまう


 あの大伯母には困ったものだが、一つだけ正しいことを言っていた。


 双子は互いに奪い合う。

 ああ、あいつの婚約者だからと諦めようと思ったが、あいつが大事にしようとしないなら奪おうと思って手を回した。


 あいつが大事にしないのなら大事に大切に関係を築いた。後は、彼女の気持ちが完全にこちらに向かせるだけだ。


 虎視眈々と機会を狙い、関係を深めていこうと計略を練るのであった。




その内クローディア視点も投稿したい

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