今は、まだ。~トライアングルレッスン:D~
(……どうしてこうなったんだっけ)
華やかで楽しげな音楽が流れる中、たくみの背中を追いかけながら、私は頭を抱えたいのを我慢していた。
最初は確か、数日前に学校の廊下でたくみに引き留められたのだ。親戚がテーマパークに行く予定だったのだが、行けなくなってしまったので、チケットを譲り受けたのだと言った。
三枚あるから、ひろしも誘って次の日曜日にでも遊びに行かないかと言われて、私は二つ返事で了承した。テーマパークなんて久し振りだし、何より三人でなら絶対に楽しいと思った。
それなのに。当日の朝、待ち合わせ場所に行ってみると、そこにいたのはたくみ一人だった。なんでもひろしは用事ができたとかで、来られなくなったという。
それでも遊びに行けるのならと二人でテーマパークに入ったは良いが、そこで気がついてしまった。
二人きり、ということは、もしやこれは〝デート〟ということになるのではないだろうか。
そう思ったらなんだかドキドキしてしまって、いつものように振る舞えなくなった。
私って、いつもはどうやって笑っていたっけ。喋っていたっけ。
考えれば考えるほど分からなくなって、いつもの私とはどんどん離れていく気がする。
「おい、ゆいこ」
「へ?」
名前を呼ばれると同時に手を引っ張られて、たくみの身体にぶつかりそうになった。びっくりする私に、たくみが少し怒ったような口調で言う。
「ぼーっとしてたら危ないだろ。迷子にでもなったらどうすんだ」
その台詞と手の温もりが、昔の記憶と重なる。
『まいごにならないように、手をつないでいような』
(ああ、そっか。小さい頃に家族同士でここに遊びに来た時と、今も大して変わらないんだ)
そう思ったら、ふふっと笑みが零れた。
「何だよ、急に」
「別に」
その後は、いつもの私でいることができた。
いつか本当にデートができる時がきたら、きっとまたドキドキするのだろう。だけど今はまだ、いつもの二人でいよう。