1話 知らなかったことを知る
お願いします。
義務教育のその先とは。
何故、先生は教えてくれなかったのか。
何故、親は教えてくれなかったのか。
何故、小説、漫画、ゲーム、ドラマ、映画から読み取れなかったのか。
何故、ブラック労働のニュースに映されなかったのか。
何故、国内の大半にこの労働環境が蔓延っているのだろうか。
平成の終わり。
春。
1人の男子が高校を卒業し中小企業へと就職した。
在学中、アルバイト経験はあった。ファーストフード店で接客を行い、客の評判は上々。
出会いは多々あったが、陰キャにはチャンスが分からなかった。
2次元に恋していた。
そんな男子が就職したのは中小企業。
就職はすぐに決まった。貴重な新卒カードを使い、男子は中小企業を選択したのだ。
男子は己の優しさから中小企業を選択した。
学業の成績が悪かった自分にはこの位がお似合いだと。休みが多くても仕方がないから……
年間休日105日でも良いと。
業種は建設業。
面接はスーツであり、男子の親は安くない買い物をした。息子の晴れ着である。安くは無いが安い。それが親だ。
男子は大人になったらスーツを着て働くものだと思っていた。親に買ってもらったスーツに袖を通し、大人の仲間入りを果たした気分を味わう。
その、何となくの思いの通り仕事の研修所へはスーツで通えた。
偽りの儀式着とも知らずに。
ここで一つ考えてほしい。
本物とはスーツを着続けることなのか。
それは違う。
保育園、幼稚園の先生方。
学校の先生方。
スーパーの販売員様。
お菓子屋様。
飲食店様
公務員様。
医療従事者様。
アルバイト時代の上司。
男子が関わってきた大人達。
本物に触れてきていたことを、大人になる節目にたまたま忘れてしまっていた。
偽りの儀式着とはあくまで男子の主観であることを読者の皆様にはご承知置きいただきたい。
研修所へは電車通勤だった、
田舎育ちの男子は、18歳まで自分1人で電車に乗るという経験が無かった。
これもまた、男子を大人に成長せしめたと錯覚させる要因の1つであった。
4月末。初の給料日。
手取り10万円。
アルバイト時代よりも高額な給料に男子は喜び、初任給で両親を焼き肉へ連れていった。
そうして。4月から数えて3ヶ月間の研修所生活が終わりを迎えた。
男には上司から工具で頭を殴られる現実が待っていた。
パワハラ?
そんなものは存在しない。
クーラー?
そんなものは屋外での仕事に存在しない。
日傘?
そんなものは存在しない。
雨を避ける為の傘?
そんなものは存在しない。
カッパはあるが汗で関係ない。
雪……?
屋根。
男は人生で初めて屋根の有り難みを知った。