ドミニク、門番に止められる!
アーヤを仲間に入れ、元々の目的であった『ゲッコウソウ』を手に入れてホームにしているバランの街に戻る俺。
ところが街の門番で少し揉めることとなった。町の外で活動する時に顔を合わせる顔なじみだ。名前は……まあ男だし門番でいいや。
「その格好は……まあ、そういう恰好の冒険者もいるが【呪紋】持ちはなあ……」
アーヤの胸と腰しか隠していないエロエロバーバリアンな格好と、肌に浮かぶ【呪紋】はさすがに見とがめるという事だ。
「硬いこと言うなよ。破壊力とかで言えばフォルカーとルカの方がおっそろしいぜ。おおっと、硬くしてるのは下半身か? 悪い悪い。モテない男はつらいぜ」
「オマエな……」
軽いジョークに拳を握る門番。おいおい、この程度軽く受け流してくれよ。男なんだから察してやるって言ってるのにさ。
「勇者様と賢者様は人格的に問題ないからな。どこかの誰かと違って」
「全くだ。あいつらはマジメが服着て歩いてるからな。俺みたいに少しは羽目を外すことを覚えないと人生楽しめないぜ」
「オマエが外しているのはその真面目服だろうが」
「はっはっは! うまい事を言うな、さすがだぜ。門番するよりも女相手にトークして稼いだらどうだ? 何なら夜の店でも紹介するぜ。女の子にモテモテだ」
俺の軽快なトークには劣るけどな。だが他人の才能を見切って適材適所を進める俺、天才。【人材鑑定】なんてなくても他人の事を見て理解できるんだからな。ふ、俺の才能が怖いぜ。
「妻子持ちなんで遠慮する」
「そんなの気にするなよ。浮気の一つや二つや三つや四つは英雄の語り草だぜ。奴隷剣闘士から王になったかの冒険王ヴィクターは34人の女に愛されたって話だ。羨ましいねぇ!」
「女と言えば聞いたぞ。グランダファミリーに追い掛け回された話。『青の天馬乗り亭』のリンダに手を出したんだってな」
「男の過去は詮索するなってママンに教わらなかったか? そういうことだ」
話の形勢が悪そうなのでこの話はこれでストップだ。くそぅ。結構広まってるな、あの噂。だがチェルシーの話はまだ広まってないからセーフ。
「話を戻すが、アーヤの格好が不味いのか?」
「どちらかというと【呪紋】だな。呪い系のスキル持ちはいい顔をされないぜ。何せ魔法と違って導線が目に見えない。それにどう見ても流れ者だしな。なにもしないと言う信用がない」
呪い系のスキルは忌み嫌われる。
剣などの武器や魔法の炎と違い、呪いは目に見えない。避けることも防ぐこともできないのだ。そういう事もあっていろいろ偏見は多い。
そして呪いはその内容が多岐にわたる。ただツイてないようにする呪いから、アーヤみたいに見たものを衰弱死させるものまである。町全体が厄介な呪いに包まれ、それに気づかず男十年も生活していたというケースまである。ま、そいつは俺(含む勇者たち)が解決しがたな!
閑話休題。ともあれ『見えない不吉』は敬遠される。誰だって厄介ごとに巻き込まれるのは嫌だからな。もしかしたらアーヤの部族はその辺もあって交流を絶っていた可能性もある。
当然、俺もその辺りは理解している。何せ俺は歴戦の冒険者。酸いも甘いも極めた熟練の男だからな。おい、若くないとかおっさんとか言うな。まだまだ現役だぜ、俺は。夜の方も枯れちゃいねぇ!
「んなことはわかってるよ。だから俺が保証人だ。コイツの【呪紋】内容は把握している。服で隠せば呪いは発動しないぜ」
アーヤの【呪紋】は見た人間限定だ。当人も理解はしていないが間違いない。何せあれだけ見られたい願望が表に出てるからな。特化しすぎてるおかげで呪いの効果も高いが、その分対処も簡単だ。
「本当か? 適当言ってるんじゃないだろうな?」
「おいおい信用ないなぁ。俺がウソを言ったことがあるか? 俺はウソと泣いてる女だけは許せないタチなんだぜ。長い付き合いなんだし信用してくれよ」
「思いっきり信用できないが、実績はあるんだよなぁオマエ……」
苦虫をかみつぶしたような表情で言う門番。
「当然だぜ。多くの人を救った勇者パーティの一翼だからな、俺は。追放された? 口が悪い? そんなことは些細なことさ」
「それは勇者の功績であってオマエの功績じゃない。けど……書類上はオマエの評価でもあるんだよなあ」
冒険者ギルドは依頼の正否を記録し、その冒険者にある程度の特典を出している。社会的な保証もその一つだ。功績を出したパーティとそのメンバーの言動はそれなりに優遇される。
「オマエ単体の評価はクズ男だぞ。飲む打つ買うの三点セット。飲めばケンカで、打てば大負け。買った女は二度とオマエに会いたがらない。
口は悪いしトラブルも呼ぶ。借金まみれツケだらけ。恨む奴らは両手の指じゃ足りないぐらい。勇者の威光がなければこの町からとっくに追い出されてたんじゃないか?」
「はっはっはっ。誉めるなよ」
「これが誉め言葉に聞こえる時点で信用できねぇ……」
ため息をつく門番。何言ってんのさ。信頼があるから追い出されないって話だろ? 誉め言葉だよ。
「他人の評価を真に受けるなってことだよ。多くの魔物と戦った俺が信用できないってか?」
「ムカつくけど、それだけは否定できないんだよなあ」
言いながら赤い石がついたネックレスを差し出す門番。町の住人ではない人間を示すタグだ。これをつけていないと不法侵入と言うことで問答無用で捕まってしまう。
「これが許可証だ。一ヶ月の滞在許可だから銀貨3枚だ」
「あいよ。すぐに冒険者登録させて実績をつませるぜ。俺がサポートすれば精鉄級冒険者の合格はすぐだぜ」
「普通は三ヶ月ぐらいかかるぞ。そんなに強いのか?」
強さに関しては問題ない。ゴブリンの集団を一網打尽にできる呪いの使い手。使用条件が厳しいが、俺の手にかかれば最高の戦力になる。俺以外だと持て余すがな。ヒュー! 俺最高!
アーヤにネックレスを首にかけさせて、門を潜る俺たち。マントを着せて、肌の【呪紋】を隠す。
「あーしのエモエモ隠すの納得いかなーい」
口を尖らせるアーヤ。多くの人に肌と【呪紋】を見られたい願望をもつこいつからしたら、マントで隠すのは不満のようだ。
「解ってねえな。アーヤのエモエモはもっときれいな目玉を持つ相手に見てもらう方がいいだろうが。その方が気持ちいいぞ」
「マ!? マ!?」
「まー、まー」
適当なことを言ってごまかす俺。いきなり町中で呪い炸裂は真っ平ごめんだ。騒動を起こせば保証人の俺ごと追い出される。せっかくの戦力とエロ褐色ボディを手放すわけにはいかない。
「あはぁ。ゴブゴブに見られるより気持ちいいとか、どんなんだろう? あーし、想像するだけでお腹キュンキュンしてきたわ」
強さは間違いなく折り紙つきの呪術師。俺のサポートがあれば、精鉄級冒険者どころか黄金級冒険者の賢者に匹敵するぐらいの遠距離戦力になるだろう。
「きっとワイルドでキレイなおめめなんだろうね。それを抉って取り出してずっとあーしの事を見てもらうようにして。そしたらスゴく感じちゃいそう!」
ただし性格はぶっ壊れ。見られて興奮する変態。しかも目玉収集癖。倫理も常識もない未開地蛮族娘。
「さっきの人の目もキレイだったし、来て良かったー!」
門に着く前に『俺に任せてな。何もせず喋るなよ』と言い含めて正解だったぜ。門番に襲いかかりたくてウズウズしてる気配が漏れてたからな……!
「そいつは良かったな。
あ、俺の目玉は勘弁な。最高の男の目玉は最後にとっておくのがいいだろ? メインディッシュってやつさ」
「ドミドミの目は色々濁って腐ってるから要らない」
なん……だと……?
女の気持ちは分からないもんだね。読者もそう思うだろ?