ドミニク、バズりたい女を勧誘する!
「あーしの名前はアーヤ。よろよろ」
俺の自己紹介に笑顔で答える褐色女。先ほどまで目玉摘出を行っていた手とナイフが血と油で濡れているのがシュールだぜ。それさえなければいいシーンなんだろうな、これ。
「しかし【呪紋】か。これだけのゴブリンを一気に呪い殺すとかたいしたスキルだぜ。流れの冒険者か?」
「すきる? ぼうけんしゃ?」
相手の長所を褒めていい気分にさせてムードを作る。そんな俺のトーク術は小首をかしげられて回避される。おいおいおい、ここは『そんなことないわ。あなたも強そうね』から『あーしも強いよ。ベッドの中でもね!』とかくる流れだろうが!
「ねえねえ、すきるって何? ぼうけんしゃって何?」
「いや、お前が今使ったじゃないか。【呪紋】と目玉にかけた【死霊術】。その『技種』を食べたんだろ? 特に【呪紋】は見た人特化で呪いがかけられるようにカスタマイズされるし」
「はへ? すきるしーど? かすたまいず?」
なんですかそれ。全身で分かりませんと戸惑うアーヤ。……おいおいマジか? 『技種』とスキルのカスタマイズ知らないとかどんな田舎者だ? しかもスキル自体はしっかりカスタマイズされてるし。
からかってるというわけでもなさそうだ。会話の流れで説明する俺。女に優しいのは紳士の務め。田舎娘がつまらない男に騙されないようにいろいろ教えてあげないとな。お前が言うなって? 騙されてるって気づかれなきゃいいのさ。
ふぅ、今回は説明会になりそうだ。こんな話は面白くないからスルーされるのに。やれやれだぜ。
「昔この世界には、大魔王と超勇者っていうのがいたんだ」
「だいまおうと、ちょうゆうしゃ」
俺の言葉にオウム返しにいうアーヤ。話が突飛になったが、この話をしないと世界中に流布しているスキルの説明ができない。
「詳細は省くが大魔王と超勇者が戦って、両者は相打ちになったんだよ。その際に二人の身体はバラバラになって世界中に飛び散ったのさ。大魔王と超勇者の持つ力が光の欠片になって世界中に広がり、そして大地に根付いた。
そこから生えた植物から採れる果物。それが『技種』だ。それは大魔王と超勇者の力――二人が持っていたスキルが込められているんだ。それを食べた物は、その果実に応じたスキルを身に着けることができるってことさ」
果実そのものは珍しくない。俺の持つ【挑発】や【蝶の舞踏】も一般流通している。俺もそれを食べてスキルを得た。
「はへー、そうなんだ」
「なんでアーヤ、お前も【呪紋】と【死霊術】の技種を食べたはずだ。そうでないとそのスキルは使えないからな」
「そう言えば、10歳の時に大人の仲間入りってことで村で食べた気がする。そしたら大人の人と同じように肌にエモいのが出てきたわ」
エモい、というのがよく分からないがおそらく肌の紋様の事だろう。村という事は村そのものに技種が生えた木があるという事か。
「技種を食べて得たスキルは使うことで変化していく。食べた者の意図をくみ取り、より自分に適したスキルに変わっていくのさ」
俺の【挑発】なんかは成長に成長を重ねて俺の華麗なるトークで相乗効果を得るようになった。如何なる魔物も俺の口先三寸で転がされるようになったのさ。勇者共には嫌われたが、音楽性の違いだな。
それがカスタマイズ。スキルは使用するたびに変化していくのだ。使わない要素を削り、その分よく使う要素が育っていく。そうやって体になじんでいくのである。
「ふーん。あーしのエモエモもそんな感じなの?」
「エモエモっていうのが【呪紋】の事ならそういう事だ。俺が知る【呪紋】は体に紋様が生まれて、自分が使う呪いの効果を増すぐらいだ。紋様を見せることが条件で相手を呪うとか、かなりのカスタマイズだぜ」
「あーね。他の子はそんな感じだった」
うんうんと頷くアーヤ。会話から察するに、村の人は皆【呪紋】を持っていたのだろう。おそらくは【死霊術】も。スキルに対する知識不足を考えれば、人との交流を絶っている部族的な村ってところか。
「あーしは『なんかバズりたい!』とか考えてたらなんかこんな感じになったわ。他の人に見られてるとよいちょまるな気分になって、そのうち見られてるとテンアゲでキャパい気分になって、わちゃわちゃしてたらエモエモがウネってエグちな形になったの。ダンスしたら超いいねされてアゲアゲだったわ」
よくわからないアーヤの言い回しも、隔絶された部族ならではを感じる。
意味は分からないが、見られているうちにアーヤの気持ちに応じて【呪紋】が変化したのだろう。見られたいという気持ちに反応して、見られることで効果を発揮するようになったのか。
「そのうちあーしだけをずっと見てほしくなって、イケてるパイセンの目玉をえぐったの」
ん? なんかいきなりおっそろしいこと言いだしたぞこの褐色女。スキルの話じゃなかったか? 顔を紅潮させて、頬を押さえている。とろんとした瞳で明らかに高揚していた。
「でもおめめってすぐに崩れちゃうから、村の秘術を使ったの。死体を動かす村長の秘術。最初はうまく行かなかったけど、すぐに目玉は腐らずになったわ。ほら、これがそのおめめ! キレイでしょ?」
腰の水筒から取り出したのは……目玉だ。丸い眼球。黒目も白目もあるアレな。
【死霊術】で保存しているのか、奇麗な球状を保っている。触る気はないがブドウの実のような柔らかさだ。
「えへへ。これであーしのことずっと見てくれるんだぁ♡」
【死霊術】を使っているという事は、そこに魂がこもっているわけである。死んでもなお見続けるような、そんな【死霊術】のカスタマイズ。
アーヤの想いにスキルが変容したのだろう。目玉のみに特化した【死霊術】に。
「お、おう……。そうだ。それがスキルのカスタマイズだ。ずっと見てほしいっていう想いと努力に応じて【呪紋】と【死霊術】が変化したんだな」
「そっかぁ……。スキルって凄いんだね♡」
悦びの色を込めてスキルの重要性を理解するアーヤ。うむ、俺の説明に感激したようだな。少しばかり予想と違う形だが、世間知らずの娘に世界のことを教えることで心の距離を詰める作戦自体は成功したみたいだ。
「でも村の人達は激おこで出て行けって言われて追い出されたの。ぴえん」
「天才異才はいつだって受け入れられないもんだからな。それで放浪してたってことか」
異常性癖に目覚めて目玉をえぐるヤツは追い出されて当然だが、それを正直に言うほど俺も非道ではない。そう、俺は紳士で優しい男なのさ。田舎娘を騙して利用するとかそんなことは考えてないぜ。褐色ムチムチとか最高だぜ。
「ってことは行く当てもないってことか。どうだいアーヤ。俺と冒険者をやらないか?」
「ぼうけんしゃ?」
「冒険者っていうのは、まあ荒事を解決する仕事だ。商人の護衛や魔物退治。遺跡探索に人探し。ロマンあふれる仕事だぜ」
テンプレート的な冒険者の説明だ。メチャクチャ美化しているが、奇麗事ばかりじゃないのが冒険者。護衛などを正規の騎士団に頼むとお金がかかるので、安く雇おうと生まれたのが冒険者だ。
「ろまん?」
だが美的な話は田舎娘には理解できないようだ。なので俺は言い方を変えてみる。
「いろんな仕事をすればいろんな人の視線を受けることができるぜ」
「やる!」
手をあげて笑顔で答えるアーヤ。よし、勧誘成功!
いろいろ性格に問題はあるが、一人目のパーティーメンバーゲットだぜ。超英雄になる予定の新生ドミニクパーティ、その第一歩がここに刻まれたのさ!
イケメン英雄ドミニク様のナンパテクニック。このトーク術、読者もマネしてもいいんだぜ。サービスサービス。