愛のかたち
隣の部屋のやかましい音で起きた。
ベランダに出て様子を伺うと何やら二人の男が口論をしているようだ。
私はそれに聞き耳をたててみるが、上手く聞き取ることができない。
そこで工具を使い、こっそりと壁に穴を開け、覗いてみることにした。穴は上手くあけることができた。
覗いてみたら、やはり二人の男が口論をしていた。
一人は素っ裸、一人は半裸。
彼らは取っ組み合ってかなり興奮している様子だった。どうやら話を聞いていると、二人は兄弟らしく、仕事の件で口論になっているようだ。
兄と思われる方は弟に対し、お前もプロなんだから自覚をもて! と何度も繰り返していた。
弟の方は、おれはもううんざりなんだ! と繰り返していた。
話の詳細はさっぱりわからないが、面白いことに気づいた。取っ組み合いをしている彼らの密着度合いがどんどん強くなっていることに。
半裸の方の弟はとうとう素っ裸になり、遂に抱き合うかたちになった。
口論も徐々に、言葉が減ってきて、ほとんど体で会話をするような感じになっていた。
激しい息づかい、ほとばしる汗。
よく見えないが、キスをしているようにも見えた。
しばらくして、兄の方が弟にこう言った。
「仕事なんかやめて、ここから逃げ出して、二人で誰もいない世界に行こう」
弟は目を潤ませて、嬉しそうな表情で、
「うん」
と、答えた。
その後二人は、旅立ち。
二度と帰ってくることはなかった。
【今回のお題】
プロの死
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