アルハラ ベースボール
慰労会 飲めぬ人には 疲労会
20●●年
SMCB プロ野球 日本シリーズ
押売 巨珍 ジーヤンツ
vs
大阪 ホンマや デイズ
両チーム3勝3敗で迎えた第7戦
舞台は、ジーヤンツドーム
試合開始前
一塁側、ジーヤンツベンチ
[大根監督]
うちの4番の姿が見えないが。
[毛林ヘッドコーチ]
酒井君ですか。
まだ、球場入りしてないようです。
[大根監督]
何をやってるんだ。
こんな大事な日に。
[毛林コーチ]
噂をすれば、酒井君から電話です。
[大根監督]
(電話に出る)
どうした?
[酒井]
監督、スイマセン。
今日、試合が無い日と勘違いして
家で、たらふく酒を飲んじゃいました。
ですから、今日は試合に出れません。
[大根監督]
なに〜。
お前、それでも、
伝統あるジーヤンツの4番か!
(ガチャン、電話を切る)
[大根監督]
まったく、呆れて、ものが言えん。
[毛林コーチ]
代わりは、どうしましょうか?
[大根監督]
球界一のパワーヒッター
太多君でいくか。
[毛林コーチ]
イヤ、イヤ、太多はダメでしょう。
ヤツは、走れないし、守れない。
今日は、DHはないので、
先発起用は無理ですね。
[大根監督]
わかった。
オーダーの組み替えは、君に任せるよ。
[毛林コーチ]
かしこまりました。
[実況アナウンサー]
試合は7回裏を終って、1対3。
デイズが2点リードして
いよいよ終盤へと突入します。
[大根監督]
まずいなぁ。
このままいくと、
アイツが、出てきてしまう。
[毛林コーチ]
デイズの守護神、倉毛 光
[大根監督]
何か、対策はないものかねぇ。
[毛林コーチ]
倉毛、変わったヤツみたいですよ。
チームメイトと殆ど口をきかない。
今年のリーグ優勝の祝勝会にも
参加していません。
[大根監督]
へぇ〜。
そういえば、倉毛は、ごく稀に
投球が乱れることがあるよなぁ。
何か、理由があるのかなぁ。
[毛林コーチ]
そりゃぁ、人間ですから、
たまには、調子の悪い日も
あるんじゃないですか。
[大根監督]
いや、そんな感じじゃないな。
何か、精神的に病んでいるような。
毛林君、わるいが、球団事務所を通じて
彼のピッチングの動画や写真を
いくつか持ってきてもらうように
頼んでくれ。
[毛林コーチ]
かしこまりました。
(しばらくして)
[毛林コーチ]
届きました。
[大根監督]
(いくつか、見比べて)
う〜ん。
うん?これを見ろ。
彼が調子の悪い時は
必ず、バックネット裏の観客席に
酒を飲んでいる客がいる。
ほら、この時は、たまたま
ビールの売り子が来ている。
そういえば、彼は、確か、
中阪大出身だったよなぁ。
[毛林コーチ]
はい。
中阪大、野球部といえば
新入部員に、強烈なアルハラを
することで、有名です。
[大根監督]
アルハラ、トラウマによる酒恐怖症。
なるほど、
だから祝勝会のビールかけにも
参加しないんだ。
[毛林コーチ]
間違いないようですね。
ただ、残念ながら、今日は
バックネット裏の観客席はガラガラで
酒を飲んでる人もいないですね。
コロナのせいですかね。
[大根監督]
う〜ん、それは困ったなぁ・・・。
そうだ。
アイツを呼ぼう。
[毛林コーチ]
アイツ?
[大根監督]
うちの4番だよ。
酒井君に、今すぐ、酒を持って
球場に来るように、伝えてくれ。
[毛林コーチ]
はい。
[大根監督]
さすが、うちの4番。
こんな時でも、ちゃんと
チームの役に立ってくれる。
[大根監督]
それと、毛林コーチ、わるいが
球団事務所を通じて
バックネット下のフェンスの広告を
SMCBから、酒の広告に変えるよう
頼んでくれ。
[毛林コーチ]
かしこまりました。
[大根監督]
よーし、
これで倉毛対策は完璧だ。
[実況アナ]
試合は9回表を終って、1対3。
デイズの2点リードで、9回裏。
マウンドには、デイズの守護神
倉毛 光の登場です。
[大根監督]
よし、よし。
[解説者]
予定通りですね。
[実況アナ]
ピッチャー倉毛、第一球投げた。
ストライク。
球速なんと155キロ。
[大根監督]
うんっ?
[実況アナ]
3球三振、ワンナウト。
[毛林コーチ]
あれっ?
[実況アナ]
続くバッターも3球三振。
二者連続三振、
ツーアウト、ランナーなし。
[場内]
あと一人、あと一人。
[大根監督]
どうやら、
[毛林コーチ]
ハズしたようですね。
[実況アナ]
第2球、ストライク!
ツーストライク、ノーボール。
[場内]
あと一球、あと一球。
[実況アナ]
3塁側、デイズベンチ
選手全員、身を乗り出し
栄光の瞬間を
今か今かと、待ちわびております。
[大根監督]
まずい、なんとかしないと。
・・・・・・。
[場内]
あと一球、あと一球。
[実況アナ]
バッテリー、サインの交換を終え、
さあ、次の一球で決めるかー!
[大根監督]
あっ、そーだ。
毛林コーチ、
急いで、このサインを
バッターに送ってくれ。
[毛林コーチ]
承知しました。
(サインを送る)
[実況アナ]
ピッチャ第3球投げた。
1球はずして、ボール。
[大根監督]
今のサインを、出し続けてくれ。
[毛林コーチ]
はい。
[実況アナ]
おっーと、フォアボール。
ツーアウト、ランナー1塁。
[解説者]
ちょっと、力入っちゃいましたかねー。
なにせ、勝てば
球団史上初の日本一ですからねぇー。
[大根監督]
次のバッターにも、同じサインを。
[毛林コーチ]
かしこまりました。
[実況アナ]
二者連続フォアボール。
ツーアウト、2塁1塁。
しかし、3塁側デイズベンチ
動きません。
[解説者]
デイズには、もう、いいピッチャーが
残っていませんからねぇー。
[毛林コーチ]
監督、このサインはいったい
何なんですか?
[大根監督]
試合が終わったら、ゆっくり話すよ。
次のバッターにも同じサインを。
[実況アナ]
三者連続フォアボール。
ツーアウト、満塁。
3塁側、本間監督、
たまらず、ベンチを飛び出し、
ピッチャーの交代を告げます。
[大根監督]
よっしゃー。
[毛林コーチ]
ここは、うちはアイツしか
いませんね。
[大根監督]
太多君を温存しておいて、よかった。
[球場アナウンス]
デイズの選手の交代をお知らせします。
ピッチャー、倉毛に代わりまして、
骨川、ピッチャー、骨川。
背番号92。
[大根監督]
骨川?聞いたことないなぁ。
うわぁ、すごい痩せてる。
お化けみたい。キモい。
川の字、間違ってない?
大丈夫なのかなぁ。
[毛林コーチ]
相手チームの選手、心配して
どうするんですか。
[大根監督]
知ってる?
[毛林コーチ]
えぇ。
骨のシナリを利用した、ポキポキ投法
とやらをする選手で、梅雨の時期に
時々、中継ぎや、ワンポイントで
起用されています。
[大根監督]
梅雨の時期?
[毛林コーチ]
おそらく、湿度の高い方が
骨のシナリが、いいんじゃないですか。
[大根監督]
それでは、念のため、
球団事務所を通じて、ドーム内の湿度を
下げるように頼んでくれ。
[毛林コーチ]
かしこまりました。
(デブン、デブン、デブン・・・)
[実況アナ]
さあ、太多が、バッターボックスに
ゆっくりと向かって行きます。
[解説者]
すごい足音ですね。地響きしている。
まるで、力士のような選手ですね。
[場内]
デブ〜ン、デブ〜ン、デブタ。
ブッヒ、ブッヒ、デブタ。
[実況アナ]
さあー、1塁側スタンド、
太多コールが沸き起こっております。
ここで1発が出れば
逆転サヨナラです。
[太多]
この、骨のお化け。
粉々に砕いてくれるわ。
[骨川]
黙れぇー、このクソデブ、豚ヤロー。
[太多]
テェーメェー。
[実況アナ]
ピッチャー振りかぶって
第1球投げたー。
(デブーン)
[実況アナ]
3塁線、ファール。
(ドーン)
[解説者]
すごい打球ですね。
フェンスに穴が開きそうだ。
[実況アナ]
ピッチャー、第2球投げた。
(デブーン)
[実況アナ]
打ったー。
打球はレフト方向、タカーく上がった、
伸びる、大きい、大きい。
入るか、入るか。
[大根監督]
いけ〜。
[実況アナ]
ボールは、ポール際、わずかに切れて
ファールボール。
[毛林コーチ]
おしい。
[太多]
ガイコツヤロー、次が勝負だぁ。
逃げんじゃないぞー。
[骨川]
望むところだ。
俺の渾身のポキポキストレート
受けてみろ〜。
シナレー、俺の骨。
[実況アナ]
ピッチャー、第3球投げた
(デブーン)
[実況アナ]
打ったー、センター前ヒット、
3塁ランナー、ホームイン、2対3。
2塁ランナーも3塁を回ってホームへ。
おっーと、その前に
なんと太多が1塁でアウト!
試合終了ー。
大阪 ホンマや デイズ
球団史上初の日本一達成です。
[大根監督]
おしかったなぁー。
[毛林コーチ]
ですねぇー。
[実況アナ]
本間監督が宙に舞います。
[大根監督]
骨川君も、胴上げに参加してるよ。
大丈夫かなぁ。
ちゃんと食事は、しているのかなぁ。
煮干しばっかり、食ってたりして。
[毛林コーチ]
もう、骨川はいいですから、
さっきのあれ、教えてくださいよ。
[大根監督]
さっきの?
ああ、倉毛君のね。
あれはだなあ、
ピッチャーのオデコのあたりを
凝視しろというサインだ。
もう、わかっただろー。
[毛林コーチ]
もしかして。
[大根監督]
あのハゲしい反応からして
ほぼ間違いないだろう。
倉毛君には、大変失礼なことを
してしまった。
でも、あの追い詰められた場面では
あれしか、なかったんだ。
祝勝会のビールかけに出ないのも
騒ぎの中のドサクサで
アクシデントが起こるのを
恐れてのことだろう。
[毛林コーチ]
しかし、よくあの場面で
それを思いつきましたねぇ。
[大根監督]
それは、私もヅラだからだよ。
[毛林コーチ]
えっ、あっ、ナルホド。
完