脱出
尼僧は京都・平等院に勤めていた。出家したばかりで、雑用ばかりを任される毎日。いつになればまともな作業をやらせて貰えるようになるのか。そんな憂いがため息として出る。そんな時だった。中庭の方から眩い光が発され、光が収まると謎の人物が立っていた。狐の様な耳が頭にはついており、臀部からはふさふさとした尻尾が数本生えていた。尼僧は小耳に挟んだ事があった。この京都・平等院には伝説の妖怪、『白面金毛九尾の狐』が封印されている、と。噂でしかないものと思っていた為、尼僧は後退りをしその場を後にしようとする。だが九尾の鋭い感覚で気付かれ声を掛けられてしまう。「女、今は何年だ? 我は幾程眠っていたのだ」。切長の妖しげな目付きでじっと見られ、尼僧は冷汗を垂らしてしまう。そして、現在は2000年代だと告げどうか殺さないでと懇願する。九尾は愉快そうに笑みを浮かべ何やら手を振りかざそうとした瞬間、大空から黒い影が現れた。巨大な振動と共に中庭に着地し、九尾はそちらを振り返り、「我の妖気につられ来たか。鵺よ」と言葉を発する。そして尼僧に向かって、「こいつを殺せば見逃してやるぞ尼僧。現代の僧の実力も見たいし丁度良かった」と発する。冗談じゃない。尼僧は当然そう思うが言葉には発さず近くにあったモップで立ち向かう事とする。逃げたところでこの伝説の妖怪に恐らく殺されるだろうし彼の性格からして惨たらしく殺されかねないしでならば頭が猿で体は虎で尻尾が蛇のキメラ生物に挑み殺された方がよっぽど良かった。尼僧には武道経験もなければ喧嘩の経験もなかった。妖怪退治なぞ尚更だった。それでも果敢に尼僧は立ち向かい、ぼろぼろとなっていく。九尾はそれを横で見、何やら思う様な顔つきだった。鵺の攻撃が尼僧に完全に直撃する刹那、尼僧はつい目を瞑ってしまう。そして何やら何事も起こらず目を開く。鵺の体は八裂きになっており、九尾が一瞬にしてどうやらコレをやったようだった。何故助けたのか。それが分からず尼僧はしばらく呆気にとられていたが、九尾が言葉を発する。「我の尾を見よ。九尾本来はある筈なのだが、四尾しか無い。我が眠りについているをいい事に盗人が現れた様だ。我は自身の半身を取り戻す旅へ出るが……お前も来るか?」。九尾は不敵な笑みを浮かべ尼僧に問いかけて来た。とは言え先程の悪意しか無い笑みとは違う。何やら三日月のような優美さがそこには在った。僧はこれは断ってもいいのかも知れないとも考えた。だがーーーー
気がついた時には頷いていた。
続く→