似た者同士
「似た者同士」 咲夜編
まだ少し寒さが残る3月に、長年想いを寄せていた人に振られた。
日が暮れた帰り道に、人気のない公園に寄って、ベンチでぼーっとしていた。
まだ夕暮れのオレンジを惜しむ空から、心地いい風が吹いていたけど、何だか少し肌寒く感じた。
ベンチの背もたれまで冷たく感じる。そんなに薄着してるわけでもないのに。
年季の入った想いは、予想していた通り無残に散りはてた。
思うことは山ほどある、でもそんなこと置いといて、とりあえず虚無感でいっぱいだった。
「咲夜くん!」
ふいに声をかけられて、目の前の景色にピントが戻った。
「やっぱり咲夜くんだ、何してるの?こんな時間に・・・。」
「あ~・・・小夜香ちゃん。えっとねぇ・・・」
知り合いに遭遇した時のことを全く考えてなかった俺は、咄嗟の言い訳が思いつかなった。
「まぁ・・・なんていうか・・・きっぱり振られた帰り。」
俺が誤魔化すように笑うと、小夜香ちゃんの明るい顔は真顔に変わった。
そしてふっと優しい笑みを浮かべて、そっと隣に座った。
「そういうことねぇ・・・。」
俺はまた前を向いて、情けなく傷心モードに戻る。
「まぁわざわざ振られに行ったんだけどさ。なんか、あの二人は似た者同士じゃんか。いっつも俺の世話焼いて、気つかってさ・・・。でも結局俺はそういう二人に甘えてたんだけど・・・。せっかく最近は四人で仲良く遊んでたのに、ごめんね、俺はしばらく・・・二人とは顔合わせたくないかも。」
「そっか、いいよ、別に。」
情けない気持ちが充満して、どんどん暗くなっていってしまいそうだった。
「小夜香ちゃんは・・・もしかしておつかいの帰り?」
小夜香ちゃんは小さいビニール袋を手に持っていた。
「うん、夕飯作ってた途中。」
「じゃあ早く帰んなきゃじゃん。更夜さん心配しちゃうよ。」
俺がそう言って立ち上がると、小夜香ちゃんは急に真顔になった。
「咲夜くん、晶ちゃんに伝えたいこと全部言えた?」
その瞬間固まってしまって、思考が追い付かなかった。
「咲夜くんはさ、察しがいいタイプの人だし、二人のこともよくわかってるからこそ、今まで言えないことも多かったんじゃない?」
小夜香ちゃんのその言い方が、自分の中のモヤモヤの蓋をこじ開ける呪文に聞こえた。
「好きだ、って言って振られて、はい、おしまい、で済むくらいの気持ちじゃなかったよね、きっと。」
「・・・だったら何・・・、二人に今まで思ってて言えなかったこと全部言って、どうせならスッキリしてこいってこと?」
俺と晶と、美咲はともかく、幼少期しか本家に住んでなかった小夜香ちゃんに、知った風なことを言われるのはなんだか癪だった。
「私も咲夜くんみたいに、途中から外で暮らしてたから。蚊帳の外にされてた気持ち、ちょっとわかるの。」
小夜香ちゃんはそう言って、弟でも慰めるような目をした。
「私はね、お父さんに言いたいこと全部言っちゃったことあった、それこそもう・・・縁を切られてもしょうがないと思える程酷いことも。でもね、お父さんは許してくれたし、言ってくれてよかったって言われたの。本音をどちらかが閉じ込めちゃったら、その後はずっと相手が見てる私でいなきゃいけなくなるでしょ、家族なら尚更。」
小夜香ちゃんが話すそれは、確かに自分が思っていたことと重なる部分はあった。
彼女の言う通り、自分で虚勢を張ってしまえば、それを通さなきゃいけなくなる瞬間がある。
人間それが無理をすることに繋がるのかもしれない。
「私はね、咲夜くんはスッキリしていい!って思ってる。」
小夜香ちゃんは俺の前に立って、屈託ない笑みを向けた。
可愛らしいその笑顔に、何だか少し気持ちがほぐれた。
「・・・ありがとう小夜香ちゃん・・・ちょっと楽になった。」
小夜香ちゃんの意外な励まし方に、拍子抜けしたと同時に、落ち込んでた気持ちやイライラが、少し溶けていった。
「家族に対して、ずっと片意地張ってんのも、ダメだね。」
「そうそう!私はちょっと我儘な咲夜くんの方が、可愛いくて魅力的だと思うな!」
「え・・・俺可愛いと思われてたの・・・?」