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追放&復讐編story9:第二皇子アルドの野望

俺たちは冒険者ギルドへ向かって歩いていた。


 「ところで朝食の時に具合が悪そうでしたけど何かありました?」


 それを聞いたとたん、セラフィーナの顔が曇りだして一気に泣きそうな顔になった。


 「あの~・・・その~・・・ごめんなさい!!!」


 セラフィーナは立ち止まって俺に頭を下げた。しかも道のど真ん中だったので通りすがりの人たちから奇異の目で見られた。


 「え?!ちょちょ・・・頭を上げろって!いったいどうしたっていうんだ!?」


 訳を話してもらうと、本来であれば俺自身にもチート級の魔法やスキルが身につくはずだったのが、セラフィーナが魔法陣の中の文字を一文字だけ間違えてしまったことで、それが付かなくなってしまったとのことだ。


でも、正直彼女を恨んではいない。恨んでいるとすればそれは、彼女が追い出されるときに泣くほど、思い入れのあった城を追い出した奴らに対してだ。


だから、俺は彼女の頭に手を乗せて元気づけさせようと思った。


「別に気にしてないよ。」


 「え?」


 「セラフィーナは、完璧を追い求めすぎている。少しは肩の力を抜いたらどうだ?」


 すると、突然俺の胸に飛び込んで来た。


 「わっ!!な、何?!」


 「馬鹿!・・・心配した私がアホみたいじゃない。」


 「・・・ごめんな。」


 セラフィーナは、俺の方に顔を向けるとまぶしいほどの笑顔を見せた。


 「ううん!じゃあ、行こうか秋人!!」


 その頃、王宮の中にある第二皇子の部屋では、セラフィーナを追放した二人がいちゃいちゃしていた。


 「フフフ、追放を言い渡されたときの彼女の顔、人生の中で一番の見ものだったわ。」


 マリアーナは、細くて白い腕を第二皇子の体に絡ませた。第二皇子は鼻をマリアーナの体にこすりつけた。


 「あん。」


 二人は一糸まとわぬ姿だった。


 「当然だ。私が幾度となく送ってきた好意を無下に扱ってきたのだ。当然の報いだ!いい気味だ!」


 皇子の顔は、醜くゆがんでいた。


 「陛下も陛下ですわ!あんな女の喜びを知らない本の虫をいつまでも騎士団長の地位につかせるなんて・・・。」


 皇子は、今度は彼女の体をなめまわした。


 「あふ・・・。」


 「そうだ!しかも、父上は俺よりも頭が悪いお人よしな兄上を皇帝の地位につかせようとしている!」


 「一番上の兄が継ぐのが帝国建国以来の習わしとはいえ、このままでは帝国は衰退の一途をたどってしまいますわ。」


 皇子は、彼女の体から顔を放すと右手親指の爪を軽く噛んだ。


 「そうだな。魔王軍が迫ってきているというのに!・・・私が皇帝になることができれば、今すぐにでもお前とともに魔王軍と戦うというのに!」


 彼女は妖艶な笑みを浮かべてアルドに迫った。


 「なっちゃえばいいじゃない皇帝に。」


 アルドは、ベッドから立ち上がって拳を握りしめた。


 「そうだ。俺は皇帝になるべき男だ。俺が皇帝になって魔王軍を駆逐してやる!」


 マリアーナは、心の奥底でほくそえんだ。


 〈ウフフ・・・うまくいけば私はこの人の側室、いや、正室になれるわ!見てなさいセラフィーナ、まだ私の復讐は始まったばかりよ。〉


 自分のサクセスストーリーを思い浮かべてうっとりしていると、その雰囲気をぶち壊すかのようにドアをノックする音が響き、続いて間の抜けた声が聞こえてきた。


「失礼しまっす。あなたの副団長、ルドヴィーコ様の・・・。」


うっとうしい自己紹介をさえぎるようにしてマリアーナは状況を伝えた。


 「なあに?今取り込み中。」


 「は、失礼!ではここで用件だけを伝えてもよろしいっすか?」


 「それならいいわ。」


「えっとー、先程秋人とセラフィーナが冒険者になるべく宿屋を出たとの情報が・・・。」


 「では、作戦の継続を彼らに伝えろ。」


 「了解っす!・・・・では私はこの辺で・・・。」


 アルドは、その時あることをひらめき、ルドヴィーコが帰ろうとしたタイミングで右手のひらを突き出して引き留めた。


 「アー待て!一つ彼らに依頼の追加をお願いしてほしい。」


 「なんでしょう?」


 アルドは不気味な笑みを浮かべた。


 「フォレストウルフの赤ん坊を盗んだ真犯人を皇帝陛下にしてほしいと頼んでくれぬか。」


 ルドヴィーコの表情はわからないが、少なくとも自分やマリアーナと同じ顔をしているだろうとアルドは思った。


 「かしこまりましたアルド様。」


 ・・・・・


 冒険者ギルドを目指していた俺は、歩いている間暇だったので個人的に気になっていたことをセラフィーナに聞いた。


 「そう言えば、さっきから会話にちょくちょく出てくるオスマニア法国ってどこにあるんだ?」


 「ロムリア帝国の南東にある魔法至上主義の国家よ。白海っていう名前の通り真っ白で大きな湖があって、なめるとしょっぱいらしいの。」


 「しょっぱいってまさか塩?」


 「そうよ。ロムリア帝国でも北の海に行けばとれるんだけど、オスマニア産の方が良質で量も多いからこの国では人気なの。だから、オスマニア法国はそれをこの国を含めた周辺諸国に売って外貨を得ているわ。」


 「へえ~。」


 少しばかり歩を進めると大通りに出た。昼前だったので、親子連れであふれかえっていた。


 一見すると、中世ヨーロッパではどこにでもありそうな商店街だが、杖が置いてある店でそれを売る年老いたエルフ商人が客の前で呪文を唱えて杖を振り、ものを浮かせて商品の出来具合を見せていたり、首輪につながれて主人と一緒に散歩をする獣人奴隷がいたりするので嫌でもここが異世界であることがわかる。


 「亜人奴隷が珍しいの?」


 「まあな、向こうの世界じゃ亜人そのものがいないからね。」


 「ふーん。・・・あ、いけない!忘れ物をしたから秋人はそこで待ってて!!」


 「え!ちょっ・・・早っや。」


 セラフィーナは、ものすごいスピードで宿屋の方へと走っていった。


 「待っててと言われたけど、この格好絶対目立つのにな。」


 今の俺の格好は、どう見てもこの世界には不釣り合いな、中小企業の工場で着る水色の作業服だからだ。


 事実、俺を見る目が珍しい魔法動物でも見るかのようにこちらを見つめていた。


 「視線が痛いよ・・・早く帰ってきて・・・。」


 その刹那、近くの路地裏から少女らしき悲鳴が聞こえた。


 俺は、居てもたってもいられず声のする方へ群集を押しのけながら走っていった。


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