追放&復讐編Story6:宿屋②
風呂に入ってさっぱりした俺は、ベッドに寝転がりながらスマホの電源を入れた。
バッテリー残量は80%を切っていて、案の定ネットはつながらず、時刻も0:00を表示したまま動かない。
しばらくは、窓の外の街並みを眺めたりスマホで景色や室内の写真や動画をとっていたが、不審者に見られるとまずいと思ったのでベッドに寝転がり、オフラインでも聞けるようにと保存していた音楽をイヤホンで聞いていた。
「めんどくさがらずにアプリを入れておいてよかったぜ。」
あまりの気持ちよさに俺は、自分でも気づかないうちに保存していた鼻毛バトルアニメのopのフルバージョンを口ずさんでいた。
セラフィーナが俺の様子を見に来たことも知らずに・・・。
「楽しそうですね!不審者さん。」
俺は、いきなりの来客に驚いてベッドからスマホやイヤホンと一緒に転がり落ちた。
「だ、大丈夫!?」
俺は体を起こしながら右手を挙げた。
「いてて、大丈夫だぁ・・・。それよりもセラフィーナさん。その格好は?」
薄ピンク色のネグリジェが似合う彼女は、きれいな白い歯を見せながら笑った。
「フフフ、これ?私の寝巻よ。フフ、似合うでしょ?」
「ああ、すごく似合ってるよ。」
なんという安直な感想だろうと思うが、可愛い女の子の前で慌てふためくところを見られた俺はそれしか感想が思い浮かばなかった。
俺はフウッとため息をつくとベッドにどっかりと座った。
「あのー、ちなみになんだけど・・・さっきの歌、どこから聞いていた?」
「俺たちは止められない!フフ、まさに今の私達ですね。」
「そこからでしたかー!」
俺は恥ずかしさから頭を抱えた。鼻の穴があったら入りたい。
笑いをこらえきれなかったのか、セラフィーナは鈴を転がすような声で笑った。それにつられて俺も申し訳なさそうに笑った。
「・・・そうだ!秋人に渡したいものがあるの。」
俺は、落ちた時に転がったスマホとイヤホンをテーブルに置いてセラフィーナのところまで歩いた。
「渡したいものって?」
「これよ。」
セラフィーナは、持ってきた大きな黄土色の袋から銀色に輝く剣と金属の枠がある木製の盾を取り出して、そばのテーブルに置いた。
「剣と盾?」
「私が実家から持ち出した剣と盾よ。どっちも金属の部分は、ミスリルでできているから持ちやすいはずよ。」
俺は試しに剣を持ってみた。重さはほとんどなく、高校の体育の授業で使われていた竹刀より軽かった。盾も軽々と片手で持ち上がった。
俺は運動音痴で力もからっきしだが、これならばゴブリンぐらいは倒せるだろう。
「ホントだ。・・・でも、もらっていいんですか?」
セラフィーナは屈託のない笑顔で了承した。
「ええ、元々うちの家宝なんだけど、お父さんが酒代にしようとしていたから、私が売ったって嘘ついて自分のものにしていたの。私は、魔導士だから全然使う機会はなくて・・・。」
家宝を酒代に使うってかなりの飲んだくれだな・・・。
「ありがとう!大事に使うよ。」
俺は、女子からプレゼントをもらったことは一度もないので、笑顔が引きつってしまった。
セラフィーナは、気にしないでと言わんばかりの笑顔で返すと、短い栗色の髪と薄ピンク色のネグリジェを翻して部屋を出ていった。
俺は、久しぶりに若い女性と話せて剣と盾を眺めながら、満足げに鼻の下を伸ばしていた。
一方その頃、セラフィーナは自分の部屋で苦悶の表情を浮かべていた。
「うー、やっぱりあの程度のプレゼントじゃ許してくれないわよね。」
セラフィーナは、何気なく自分が今まで作った魔法陣や呪文の唱え方などを書いた学生時代から愛用しているノートを広げた。
そこで、あるページに奇妙な違和感を覚えた。
「あら?・・・・召喚の魔法陣ってこんなだったかしら。」
持ってきた虫眼鏡で見た後、セラフィーナは己のやらかしたミスに頭を抱えた。
「うわー!道理であの人が何もない状態で召喚されたわけだわ~。もーどうしよう・・・魔法陣の文字を一文字違い・・・でも、こんな大きな間違い私がするはずないんだけどな・・・。」
次回は少し胸糞要素がありますのでご了承ください。