追放&復讐編Story5:宿屋 ①
「ここよ。」
セラフィーナが指さす建物には、ベッドの絵が彫られた看板がぶら下がっていた。その絵の下には読むことはできないが、この国の言語らしき文字が彫られていた。
「あれは?」
「帝国から認可された職業ギルドである証よ。絵の下に皇帝陛下認可済みって書いてあるのが目印よ。この看板がある建物は、基本的にぼったくられる心配はないわ。」
中に入ると、受付にボーイらしきソバカス顔の少年が立っていた。
「いらっしゃいませ。ようこそ宿屋アルパ亭へ!」
「二人で一泊食事付きでお願い。」
「ハイ、では前払いで2ゴルデンいただきます。」
どうやら、普通の宿は大体一人一泊で1ゴルデンのようだ。
セラフィーナは、スカートのポケットに入っていた麻袋から金貨2枚を取り出して、カウンターに置いた。
「確かに、ところで相部屋でよろしかったでしょうか?」
「ふぇ!?」
セラフィーナと俺は途端に赤くなった。
「あー、いや・・・その・・・。」
俺たちが返答に困っていると、奥から銀髪碧眼で頭に赤いリボンを乗せた、白で袖にフリルが付いたワンピースを着た小さな女の子が走ってきた。
「わーい!お客さんだぁ。いらっしゃいませ!」
少女は俺に抱き着いて俺の体に顔をすりすりしてきた。柑橘系の香りと温かい感触でどうにかなってしまいそうだ。
「あら、お出迎え?偉いわねお嬢ちゃん。」
セラフィーナは俺に抱き着いている女の子の頭をなでた。すると、女の子は気持ちよさそうな声を上げた。
「ふああ・・・。」
セラフィーナ:〈可愛い!〉
俺:〈可愛い!〉
ボーイ:〈可愛い!〉
「こらこら、あんまりお客さんを困らせるんじゃありませんよ。」
「あぅ・・・ごめんなさいお父様!」
「あ、亭主様。」
亭主と呼ばれたその男は、片目に刀傷があるス青髭キンヘッドの大男だった。
「まったく!すいませんうちの娘が・・・。」
「いえいえ・・・。」
「大丈夫ですよ!別に気にしていませんから。むしろ嬉しいです。」
「「「え!?」」」
「ふえ?」
「あ、あのーそのー・・・アハハ!」
俺は自分の危ない発言に慌てて笑ってごまかした。
「では、お部屋に案内いたしますのでどうぞ。」
案内された部屋は簡素ながらも清潔に保たれていて、木でできたクローゼットも損傷はなく、悪臭も全くなくベッドもふかふかで快適に寝れそうだ。
そして、日本人としてぜひ確かめたいことがある。それは・・・。
「風呂だあああ!!」
使い方を教えてもらうために一緒についてきたボーイさんは俺のハイテンションぶりに少し引いた。
「そ、そんなにうれしいんですか?ほかの国の人間だと、むしろ怖がって入らないんですよ。」
「え、そうなの?」
「ハイ、特にオスマニア法国から来た人間は魔法が使えるからと言って洗浄魔法で簡単に済ませてしまいます。」
「なるほど・・・。」
それにしても予想通り、いや・・・予想以上の広さの浴場に正直驚いていた。立ち上る湯気!なみなみと注がれるお湯!そして、壁に取り付けられた円形のガラスに入れられた複数本のろうそくの明かりがもたらす癒しの空間。日本の温泉と違うところは、水道の蛇口とシャンプーがないことだけ。
しかも、シャンプーがない代わりに石鹸のような楕円形の白い石が、それを乗せるための専用の台に置いてあった。
「これは?」
「弱めの洗浄魔法が施された代理石、通称洗浄石です。これを体に押しあててこすればあら不思議、たちどころに古い角質や汚れが落ちます。」
「スゴイな。」
俺はその洗浄石を手に取って眺めた。触った感じは、乾いたときの石鹸と違ってべたべたはせず磨いた石のように滑らかだった。
「そして、落ちた汚れをこの桶にお湯でためて流します。」
「やり方は何となくわかったよ。ありがとう。」
「もしかしてこのような場所に入った経験がおありで?」
「うん、俺の故郷にも温泉って言う似たような施設があるんだ。」
「そうですか。何時か行ってみたいですね・・・あ、差し支えなければお国はどちらで?」
俺は少し考えてから首を横に振った。異世界から召喚された勇者は俺一人の可能性があるため、たとえ言ったとしても信じてもらえないうえに国家機密事項だった場合、魔王討伐どころじゃなくなるからだ。
「あー・・・すいません。出過ぎた真似を・・・。」
ボーイは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「ああ、別に気にしなくていいよ。」
「では、ごゆっくりお過ごしください。」
ボーイは笑顔でもう一度頭を下げると浴場を後にした。
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