追放&復讐編Story1:召喚
初めての追放ざまぁものです。なので、大好物という方にはちょっと物足りないかもしれませんが、どうぞ最後までお付き合いください。
俺の名前は諸星秋人。日本という国のどこにでもいる派遣社員だ。
しかも、派遣先での契約が一年も続かないダメ社員だ。私生活もダメダメで、短く切った黒髪はぼさぼさ、着替えるのがめんどくさいという理由で部屋の中でも作業着を着ている。
今日は、定時帰りの途中で派遣元の担当者から契約更新の話が派遣先からとれないとの連絡と、新しい派遣先候補になる会社との面談の日程調整をスマホでやり取りして気分が落ち込んだまま帰宅した。
「はあ、また今回も一年以内だったか・・・。」
度が強い眼鏡を中指で直しながらため息をついていたその時、今までに聞いたことのない大きな機械音が鳴り響いた。
隣の部屋から戸惑いの声がしてこないのを鑑みるに、この音は俺しか聞こえてないようだ。
「なん・・・だ・・・。」
疑問を口にする前に俺は部屋から・・・否、この地球上から姿を消した。
次に俺が目にしたのは、白を基調としたローマンコンクリートのような物でできた建物の中にいた。
召喚された俺の周りには、ヨーロッパ人らしき人物がたくさんいるが、服装は中世といった感じで目の前には玉座に座った王様らしき人がいた。両脇には、俺を召喚したと思われる魔法使いと皇子らしき人物がいた。
魔法使いは女性で、髪は栗色の短髪で瞳は透き通るようなエメラルド色、しっかりとした鼻筋で唇は淡いピンク色、服装は空色のポンチョと藍色を基調としたセミロングのワンピースで、先を折り曲げた群青色のロングブーツをはいていた。
そして、ポンチョの両サイドから伸びるすらっとした腕は白くまるで天使のような雰囲気を醸し出していた。
あまりの美しさから直視していたが、彼女に気づかれたので顔を紅潮させたまま慌てて周りを見渡してみると、両サイドにはめ込まれている縦3メートルもあろうかというガラスからは、太陽の光が差し込んでおり、それが横一列にはめ込まれているため、薄暗い広間を明るく照らしていた。
そして、口周りを覆う立派な黒の顎髭を蓄えた国王が座っている玉座の両脇には、縁が金色で赤を基調とした羽を広げた金色のドラゴンが描かれている旗が掲げられていた。
天井のシャンデリアには、蝋燭の代わりに宙に浮くオレンジ色の光る魔石が浮いていてなんとも幻想的だった。
下の方を見ると、よくラノベで出てくる魔法陣が俺の足元にあった。
「ここはいったいどこですか?」
皆が皆、沈黙しているのでたまらず質問をしたがそれでも返事がなく、相も変わらずあたりがしんと静まり返っている。
「・・・って言葉がわかるわけないか。」
「成功だ!」
「ハイ?」
突然、元老院議員らしきおっさんが日本語で叫んだかと思うとこの場にいる皇帝と魔法使い、皇子らしき人物以外の全員が喜びの叫び声を上げた。
「静粛に!!!」
だが、皇帝の一声で再びあたりが静まり返った。
「よく来てくれた異世界の住人よ。私はこの帝国の主、ロムリア帝国皇帝イルデブランド・アンドレーア・ロムリアーノだ。」
俺を含めた全員が落ち着いたのを見計らって、皇帝陛下は何故俺が召喚されたかについて説明をした。
「突然召喚されて困惑していると思うが聞いてくれ、君には魔王討伐をしてもらいたいのだ。」
「・・・・。」
「我が帝国は有史以来、周辺諸国の土地、そこに住む者の文化、技術力を吸収して大国となった。だがある日、500年ほど前に勇者によって封印されていた魔王が20年前に復活し、隣国は亡び、すでに我が領土も脅かされ始めておる。」
「帝国軍では太刀打ちできなかったのですか?」
皇帝は首を横に振った。
「帝国軍は国防、つまり同じ人間との戦闘を想定して訓練されているゆえ、魔王軍が相手では太刀打ちできん。冒険者もおるが、Sランクでも討伐を承諾したものはおらん。それどころか、魔王軍復活の報を聞くや否や冒険者をやめる奴が続々と現れてしまい、今は深刻な冒険者不足に陥っている。」
「なるほど、それで私のような事情を知らない異世界人を召喚したのですね。」
「うーむ、聞こえが悪いが・・・まあ、そう言うことだ。私の意図を理解しているのなら話しておくが、君はその異世界召喚の実験第一号なのだよ。」
ここら辺は、電子小説を読んでいるからなのか、不思議と理不尽からくる怒りは湧いてこなかった。
「なるほど・・・もしかして魔王がいるということはこの世界って魔法が使えるのですか?」
「ああ、使えるとも。」
そう言われて俺は、魔王という恐ろしい存在がいるとはいえ、魔法が使えることに少しばかり心が躍った。
だが、俺は元の世界に不満があるかと言われるとはっきりないとは言えなかった。
「どうしたのかね?やはり元の世界に帰りたいのか?」
「実は、恥ずかしながら家族と離れ離れになると思うと少し寂しくて・・・。」
正直に言いましょう、そのほかにもあの世界でやりたいことはいくらでもある。
漫画の続き、スマホゲーム、パソコンゲーム、テレビゲーム、Tから始まるレンタルビデオ屋さんで借りてきた大人向けのDVD視聴、実家の猫との戯れetc・・・。
スマホは90%充電されていて着っぱなしだった作業着のポケットにイヤホンと一緒に入ってはいるが、ネットも使えず充電器も家に置きっぱなしなので、いつまでもつかわからない。現代人にとってスマホは必要不可欠なものなのだ。
もちろんそんなことは口が裂けても言えないので、一番わかってもらえそうな理由を口にした。
「なるほど、親を思う気持ちは立派だ・・・わかった!元の世界に返してやろう。」
「え?いいんですか?」
当然周りの人たちはざわついた。
「陛下!せっかく召喚したというのにこの者の言う通りにするのですか!?」
「魔王討伐の件はどうなさるおつもりですか!?」
「・・・と、いうわけだ勇者殿。すまんが、帰すとは言ったが魔王討伐の条件付きだ。」
「わ、わかりました。」
すると、今まで皇帝陛下のそばで直立不動だった皇子が手を挙げてこちらに近づいてきた。
「それと、一つ確かめたいことがある。」
髪は、オレンジ色で揺れる炎のような髪型をしていて、服装は黒のブリーチズに赤いサーコートでほかの元老院議員より豪華な装飾を身につけていた。
「あなたは?」
「失礼、紹介がまだだったね。私は、ロムリア帝国第二皇子アルド・エンリコ・ロムリアーノだ。よろしく。」
皇子は、握手を求めて手を差し伸べてきた。
「諸星秋人です。こちらこそよろしくお願いします。あのー失礼ですが第一皇子はどこに?」
アルド殿下は、自分の兄が病弱で動けないため、自分が代わりに父と召喚の儀式を見届けていることを俺に伝えた。
「・・・で、確かめたいこととは何でしょうか?」
「君の体の中に存在するであろう魔力とスキルだ。誰か鑑定玉を!」
皇子がそう言うと小気味よい返事とともに、眼鏡のロリっ子メイドが顔ぐらいの大きさはある透明な水晶玉を紫色の座布団に乗せて持ってきた。彼女の力では持てなかったのか、木のワゴンカートに乗せていた。
「ご苦労。」
皇子がそう言うと、メイドはスカートの両脇をつまんで一礼し、ワゴンカートをそのままにしてパタパタと駆け足で元老院の人ごみの中に紛れていった。
「これが、鑑定玉ですか。」
「そうだ。手を触れると属性に応じた色の光を発する。赤なら火、青なら水、緑は風、黄色は錬金、茶色は土、白は光・・・そして闇は黒だ。」
「スキルとかは、どうやってわかるんですか?」
「何かしらのスキルが備わっていれば、それが文字として浮かび上がってくる。やってみてくれ。」
俺が水晶玉に手を近づけようとするとアルド殿下は待ったをかけた。
「あー、それとスキルを調べたいときは『ティーヌ』と唱えなえながら触れてくれ。」
俺は頷いて水晶玉に手を乗せながら『ティーヌ』と唱えた。
だが、水晶玉はいつまでたっても反応せず無色透明のままだった。
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