第五話 気と檻
「……というわけで、奴らがトール王国に着く前に仕掛けてほしいんですよ。」
トンスを始末してから2日後、アルバシスは他の仲間にリュウ達を始末するように指示していた。
「一人ずつ、確実に仕留めてやるよ。クックック…」
「そうだ、良かったらこれ使ってください。」
アルバシスはそう言うと木の実のような物を手渡した。
「これは?」
「こいつは僕が作った(ほんとは盗んだ能力で作った)物で、叩きつけて割ると中から煙が出てきて決めてあった場所に一瞬で戻ってこれる代物です。仕事が終わったらこいつでここに戻って来てください。」
「……」
リュウ達は当初は馬車で移動する予定が、馬車のトラブルで確保できなくなってしまったため四人とも歩きでトール王国に向かっていた。
「あの…」
「なんだ?なにかあったか?」
「そんなに警戒しないといけないんですか?」
リュウ以外の三人は寝る時以外はほとんど周囲を警戒しており、リュウはそこまで警戒しなければならない物なのか疑問だった。
「お前もわかってるはずだ、奴らは時として強引な手段で来る。もしかしたらつけられてるかもしれない事ぐらい用心すべきだ。」
「で、でも…」
「!」
アーヴは一瞬険しい顔をしたが、三人に気付かれないようにしていた。
「……少しここで休んで行こう、のんびり行っても今日の夕方にはトール王国にたどり着ける。」
二人もアーヴの意見に従い、警戒しつつ小休憩をとることにした。もう少しで昼の時間なので四人共買ってきた弁当を食べようとするが…
「あー、ちょっと俺は用を足してくる。先に食べててくれ、すぐに戻る。」
アーヴはそう言うとそそくさと森の方へ入っていった。
リュウ達はトール王国との国境付近まで来ており、建物はほとんどなく自然の多い道だった。リュウ達は石に座り先に食べ始めることにした。
「……出てこい、さっきから俺達をつけてるのはわかってる。」
アーヴは一人森に行き、先ほど視線を感じた主を一人で相手する気だった。
「出てこないなら、てめぇーの居場所をぶっ叩…」
アーヴは視線の先に話しかけていたが、足元に何か違和感を感じた。
「な、足が、めり込む!」
アーヴの両足はいつの間にか地面にめり込んでおり、足が抜けない状態だった。
(罠が仕掛けてあったのか!?だがここは俺が何となくで来た場所、それを予見してここに罠を仕掛けられるはずが……)
アーヴは思考を張り巡らすが、その間にもどんどん体が沈んで行き腰の辺りまで来てしまう。
(このままじゃまずい!こうなったら…)
アーヴは拳に気を集中させ、地面を攻撃した!
ブヨン
「!?」
地面はゴムのように柔らかくなっており、殴っても威力がなくなり手応えがない。
(し、しまった…飲み込まれる……)
アーヴの体はついに完全に地面に飲み込まれてしまった……
「………?」
しかしそこは地面の中…ではなくワンルームぐらいの薄暗い部屋だった。
「な、なんだここは?地下にこんな場所が…?」
『クックック…たぶん、お前が想定していた飲み込まれた先と違って困惑している、そんな所か?』
アーヴが驚いていると、部屋のどこからか声が聞こえた。近くからのような気もするが、部屋全体からの様な気がする…そんな感じにアーヴは聞こえた。
「……お前は刺客か?なぜ俺だけここに連れてきた?」
『オイオイオイオイ、質問するのはお前じゃない、俺だ。そこんところ、わかっているのか?』
「……」
部屋から聞こえる声の主は何かをアーヴに聞きたいようで、アーヴは黙って聞いてみることにした。
『よーし、早速質問する。お前ら、どうやって能力を手に入れた?』
「……俺は気付いたら身に付いていた。認識できたのは5、6年程前だ。」
『お前…その前に何か無かったか?例えば古びた何かに触ったとか。』
「?いや、それは絶対にない。」
声の主が何を知りたいのかはわからないが、アーヴは下手に動かず集中して返事をしていた。
『本当か?よく思い出してみろ、そこにお前の力のルーツがあるかもしれないぞー?』
からかっているのか、本気なのかは声からは伺い知れないが何かを知りたがっているのは間違いない。
「……もういい。」
『?』
「もう質問に答える時間は終わりだ。」
『お前…まだわかっていないのか?今有利なのは…』
「そう、お前だ。お前が有利な理由は二つ、一つはこの空間をお前の能力で作り出しているため、尋常じゃない気を持っている。おそらく俺なんかよりもずっと多い。」
『…』
「二つ目はお前の姿が俺には捉えられない、逆にお前は俺の姿を捉えている。だからお前は俺より遥かに優位にたてる。」
『ほほぉ~、なかなか冷静に分析出来てるじゃねぇか。』
「だが…」
アーヴは右手で握り拳を作り、屈んで左手で地面を触りながら続けた。
「それらの前提が間違いなら、お前を倒せる!」
アーヴはある一ヶ所を、右手で思いっきり殴り付けた!
『ッッ!?』
地面はゴムのように柔らかくはなく固かったが、一瞬部屋が歪んだように見えた。
「やはり、ここだったか。」
『て、てめぇ!ど、どうして俺の場所がわかった!!』
「……さっきも言っただろ?質問に答える時間は終わりだって。」
『い、一発当てたからっていい気になってんじゃねぇ!てめぇがここから出られねぇことには変わりねぇ!!』
「一発で充分だ、お前の位置を把握するのは。」
アーヴはそう言うと、今度は何も着いていない天井を見た。
「下の次は天井か?ネズミ…いやゴキブリみたいな奴だな。」
『!?』
アーヴは話している間に気を五感に集中させ、部屋の中で最も気が集まってる場所を突き止めそこを殴り付けた。結果、敵が潜んでおり殴った瞬間に自分の気を着けておいた。その時の自分の気を辿り、敵の正確な位置を知ることが出来た。
「さぁ、どうする?姿が見えなくても俺はお前の位置がわかる、隠れてる必要があるか?」
「ちぃ……!」
バフッ!
「!?」
何かの物音がしたかと思うと、部屋ではなく引きずり込まれた場所に戻っており、敵の気配は完全に消えていた。
「しまった!逃げられた!」
周囲を見渡すがアーヴが殴った時の着けた自分の気を感じることもできず、すでにこの辺りにはいなかった。
(一瞬で遠くに離れたのか?自身の射程から外れたから能力は解除されたが、どうやって一瞬でいなくなった!?いや、それを考えるよりも今はこの場から離れるんだ!増援が来るかもしれん!!)
アーヴは急いでリュウ達の元に戻り、敵が着けていた事を話しこの場から離れた。
ちょうどその頃、少し離れた場所にワープしている者がいた。
「その様子だと…しくじったみたいですね、ジーンさん。」
ジーンと呼ばれた男は先ほどアーヴを着けていた男で、アルバシスから貰った木の実を砕いて戻ってきていた。
「ああ…」
「……まぁでも、一人で行かせたのは僕の非ですから今回の撤退は罰を与えたりしませんよ。貴方の能力です、顔は見られてないんでしょ?」
「ああ、そこは問題ねぇ…。あのアーヴとかいう奴、なぜか檻に引きずり込んだのに俺の位置が正確にわかりやがった…。あいつの能力は何なんだ?」
ジーンは殴られた左肩を抑えながら話を続ける。
「下に潜んでる俺の位置も、上に移動した俺の位置も正確に捉えてやがった。しかも檻に閉じ込めても冷静に分析してやがった、あいつ戦い慣れてるぜ。」
「なるほど…ただのトール王国のお使い係って訳じゃなさそうですね…。もう少し調べてから仕掛けますか、とりあえず僕達の基地に帰りましょう…。ジーンさん、肩の手当ても兼ねてね。」
「ああ…」
アルバシスはそう言うと持っていた木の実を砕き、二人で消えて行った…
(ほんとはてめぇーが何か探ってるのも木の実を通じて音を拾ってたんでわかってますが…少し泳がせておくか。恩を売ったり、使いやすい奴は生かしておかないと、あとで手駒が減って困りますからね……)