第三話 気と能力
「……あれ、ここは?」
リュウは気づくと自分の部屋で寝ており、身体には殴られた跡や痛みが残っていた。
「気付いたか、お前がリュウで間違いないな?」
リュウが寝ているベットの横に、椅子に座った見知らぬ男がいた。年は同い年ぐらいだろうか、短い黒い髪に少しだが赤い髪が混じっているのが特徴的な男だった。
「あ、あなたは?」
「俺の名はアーブ、トール王国の者だ。」
トール王国、小国ながらも他に引けを取らない軍事力がある国である。
「あなたが僕を助けてくれたんですか?」
「ああ。まぁ正確には、倒れていた君をここまで運んだだけなんだが。」
「え?あの、僕と戦った男は?」
「男?いや、俺達が駆けつけた時は君しか倒れていなかったが?」
「……」
気になることが多々あるので、リュウはアーブにいろいろ聞いてみることにした。
「まずその…アーブさんはどうしてここに?」
「その前に…俺の質問に答えてもらっていいかい?それによっては俺も答えられない場合もある。」
リュウは少し言い方が気になったが、頷くことにした。
「ありがとう。単刀直入に言おう、君を連れて行くために来た。」
「!?」
リュウは驚き、右手でアーブを殴ろうとした!
「落ち着け、俺は戦いじゃなくて話合いにきたんだ。」
アーブは殴ろうとしたリュウの右手首を手刀で叩き、直接殴られるのを防いだ。
「その様子だと、やはり君は何者かに襲われたんだな?そして連れて行かれそうになった。」
「……」
リュウは図星だった。先ほど戦った男は自分を連れて行こう、あるいは殺そうとしていた…。もしアーブが奴の仲間だったら?そんな考えが過り攻撃しようとしたが、もし本当にアーブが奴の仲間ならわざわざ自分の部屋まで運ばずとっくに連れていかれてるか、始末されているかだと思い直し話の続きを聞くことにした。
「順を追って説明する必要があるな。まず君を連れて行こうとしてる理由だが、君は能力を持ってるな?それも右手で殴ったりして発動する能力だ。」
「はい…」
「能力についてはどこまで知ってる?」
「どこまでって…昔の人が使ってて、今では限られた人しか使えない物だと…」
「そうだな、その解釈は正しい。だが…」
アーブはそういうと、右手に握り拳を作って見せた。よく見ると拳は赤い気の様な物を纏っており、リュウは強力な力を感じ取れた。
「能力はこのように気の使い方を応用させた物だ。気はこの世の物ならば何でも宿っている、人にも、紙にも、風にも、水にも。そして俺達能力者はその気を操ったり、変換したりすることができる。お前もできるはずだ、自分の能力に心当たりはないか?」
「…」
リュウの能力は殴った物に爆弾を仕掛ける能力、つまり殴った場所に宿っている気を爆弾、あるいは爆発物に変換しているのだろう。リュウは自分の能力の事を伝えた。
「なるほど、ちなみに俺の能力は自分の気を自由に動かせる。気は本来自分の体を覆い、均等に行きわたっている。俺は体の気を一か所に集中させたり、放出して遠くから攻撃したりと多様な使い方をしている。」
アーブは握り拳の気を解除し、再び自分の体に戻した。
「でもどうして僕は狙われたんですか?」
「ああ、その理由も検討がついてる。君を襲ったのは光の結社の連中だ。」
「光の結社?」
「ああ。昔からある集まりなんだが、昔はこんな風ではなかったらしい。いつ頃からかはわからないが、能力者を集める様になっている。」
「集めてどうするんですか?」
「そこまでは俺もわからない、だが君を狙った奴の様に戦闘員として使われる可能性が非常に高い。そこで、俺達がここに来た目的に至るわけだ。」
アーブの目的はリュウを連れて行く事…。それはつまり、トール王国で保護しようというという事だった。
このままここに残ったところで、さっきの男の仲間が来る可能性は非常に高い。自分だけでなく、周りに迷惑をかけるようなことになったら…リュウはそう考え保護を受けることにした。
「よく言ってくれた。実は、俺達もトール王国で保護を受けていたんだ。」
「あの…、俺達って?」
「紹介しよう。おい、お前たちも入ってきてくれ。」
アーブがドアに声をかけると、部屋の前で待機していたのか二人の男が入ってきた。
「紹介しよう。こっちの大柄なのがノール、小柄なのがアギルだ。」
ノールと呼ばれた男は少し筋肉質で、拳にはバンテージを巻いており頬に絆創膏を貼っている。いかにもな肉体派な屈強男だ。
アギルと呼ばれた男は小柄で、髪は短めの金髪で赤いバンダナをしており前髪はほぼ見えなかった。
「リュウです、よろしく…」
「…」
二人共黙ったまま頭を下げた。二人共警戒心が強いのか、それとも興味がないのかリュウの方はあまり見ていない。
「さて、トール王国に行くわけだが今日はもう遅い。俺達も休んでから、明日出発する。」
リュウが住んでいるバン国は土地のほどんどが山や荒れ地で、南のトール王国と北の大国ノースタリアの間に挟まれおり交通が多い。そのためどちらかに行くための馬車などが出ているため、2、3日で到着するとアーブは言う。
リュウは三人と別れ、仕事の手伝いをしてる知り合いに能力の事や襲われた事は隠しトール王国で働くことになったと伝えた。
だがリュウは知らなかった。
ここから、彼の、彼らの長い戦いが始まる事に…