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2 『旧世界遠征部隊』への勧誘


 大聖堂戦士団の任務として、謎の襲撃が起きた現場で死体の回収を行っていたストールとジュリア。

 そこで貴重な"鏡の魔晶石"というものを発見し、サブリーダーであるウィリアンに報告する。

 するとなぜかブチ切れられ、緊急撤退を彼から命じられた。



 瓦礫道を過ぎると、その先には平原が広がっていた。

 ここら辺だ。俺達が転送された場所は。


 だが、戦士はもういなかった。全員大聖堂に戻っていったのだろう。ウィリアンだけが、そこに立っていた。



「お待たせしました」


「いいよ。転送を開始する。大聖堂に戻ったら、すぐに会議室に向かえ」


「「了解」」



 ウィリアンが腕を伸ばすと、地面に魔法陣が展開された。白い光に包まれ転送が始まる。


 即座に目を閉じた。


 浮遊感と共に、臓物が上がっていくような気持ち悪さ。脳が分離してふわふわ浮かんでいるような感覚。酷い耳鳴り。

 全て、転送によって生じる副作用。


 今朝も転送したし、経験回数もそれなりに多いが……慣れそうにない。





 浮遊感が無くなり、気持ち悪さも嘘のように消え去った。

 大聖堂に着いたようだ。目を開けると、見慣れた広場の景色。

 解散命令はまだ出されていないらしく、百人程度の戦士が残っていた。


 元の数は四百程度。相当、魔力中毒で運ばれたようだ。



「ボクは上の人達に報告してから向かう」



 そう言って、ウィリアンは広場に居る聖職者の方へ向かっていった。



「じゃあ会議室に向かうか。一階だったよな」


「多分食堂の前の方だったと思う」



 部屋に戻りたくても戻れない戦士達の群れを、たった俺達二人が先に抜けていくのは少々気分が悪かった。



 赤い絨毯の敷かれた薄暗い大聖堂内部。

 壁なんて、何時見ても小洒落た装飾だ。少しクリーム色っぽい壁なんだが、なんか彫刻っぽいのが施されている。


 これでも、世界の平和を維持する中枢機関。建物だけに、その威厳が感じられた。



「多分ここだよね」



 と、ジュリアが青い扉を指差した。



「ここか。どうする? 会議室じゃ無かったら」


「すっごく恥ずかしいね。君が開けてよ〜」


「マジかよ。人がいませんようにっ」



 扉を開けた先は、恐ろしく広い会議室だ。

 その広さは、手前の席と一番奥の席とじゃあ声が聞こえないんじゃないかってくらい広い。


 幸い(当然?)人も居なかった。



「会議室だったよ。入ろう」


「会議室だった。わーっ、ひろーい!」



 入って早々、ジュリアは興奮気味に部屋の中を見回していた。


 天井近くの壁には円形のステンドグラス。

 素晴らしくデカい机には植物らしいアートが描かれていて、どこもかしこも正に「宗教」みたいな感じだ。

 職人の力量は凄まじい。



「なんだか広すぎて落ち着かないね。声も響くし……とりあえず座っておこうか」


「そうだな。ちっと土で汚れちまうだろうが」



 植物のツルで出来たみたいな、不思議な造形の椅子に座った。


 大聖堂の戦士とは言え、戦士用に設けられている部屋は比較的簡素な作りだ。椅子も机も、家具類は至ってシンプル。

 だから、こういうのは見慣れない。ジュリアも妙にソワソワした様子で落ち着きなくキョロキョロしていた。



「……懐かしいよね。鏡の魔力って」


「ん? ああそうだな。八年ぶりくらいか。この世界に移り住んだ途端、全く聞かなくなった」


「そうだよね〜。危険物だってのは分かったけど……すっごいジェネレーションギャップを感じる。鏡の魔力って、そんなに危険だったっけ?」


「俺達の住んでた"イングディア"じゃあ普通だったよな」


「ね。鏡の魔力なんて、透明で綺麗だから良く集めてアクセサリーにしてたよ。……うわっ、懐かしい。懐かしすぎて変な笑みが出てくる…!」


「懐かしいな。夢のようだ」



 イングディア。この世界と同名の、もう一つの世界だ。


 俺達は元々、その世界に住んでいた。

 そこは空など無くて、太陽も月も無くて……でも、常に昼間のように明るい、変な世界だった。


 こっちの世界に移り住んでから、やっと俺達の世界が狂ってると知った。それまでは、それが当然だったんだ。



『ストール……もういやだよ。皆、私のことをいじめるんだ』



 この世界に移り住むキッカケは、ジュリアのこの言葉だった。


 彼女は先天的に目に障害を抱えていた。その事を、幼少期からずっと虐められてきた。

 俺達の住んでたイングディアは、基本的に世界が狭い。今いる世界みたく引越しなんて出来ないし、そんな発想も無い。

 だから、一度虐めの標的になれば、その先はずっと地獄が続く。


 オマケに、大人達もジュリアの事を悪く言っていた。加害者の子供の親すら、ジュリアのせいだと決め付ける始末だ。


 ジュリアは気が強かったが、ついに泣き出してしまったんだ。



『ジュリア……。この世界から逃げ出そう。イクスが守ってる結界の先に、新しい世界があるんだ』


『えっ、あたらしい世界?』


『そう。いじめられない世界。僕達には家族がいないだろ? イクスとは……離れ離れになっちゃうけど。でも、ずっといじめられるなら、逃げ出した方がいい』


『ディーとミラーの事もおいていっちゃうよ?』


『……後で謝ろう! でも大丈夫、僕はジュリアに着いていく。いつでも結界はくぐれるってイクスは言ってくれたし、もし何かがあったら帰れるかもしれない!』


『帰れる? そっか……いじめられない世界。ストールが着いてきてくれるなら行く! もう、こんな村にはいたくない……!』




「あの頃のジュリアは本当に可哀想で、可愛かった」


「何それどういう事? あの頃は本当に……最悪死のうかなって思うくらい追い詰められてた。今まで生きてこれたのは君のおかげ、ありがとうストール」


「いきなり重いな。でも本当に良かったよ、後悔してないみたいで。ずっと強引に連れてってしまったんじゃなかったのかって悩んでたからさ」


「ふふっ、全然大丈夫だよ。むしろ感謝だってしてるんだからね!」



 そう言って、ジュリアは眉を上げて強気な笑みを見せた。

 やっぱり、ジュリアはその笑顔が一番似合う。少しだけ憎いくらいが丁度いいもんだ。



 扉が開かれた。ウィリアンだ。



「お待たせ。ちゃんと待機してくれてるね」



「はい、もちろん」と返す。



「じゃあキミ達に状況説明と、今後の動きについて説明するよ。キミ達は、"旧世界"の出身らしいし」



 ……旧世界?

 それが、この世界での呼び名か。生まれ育った世界だけに、旧と呼ばれるのはなんだか気分が悪い。



「旧世界っていうんですね」と、ジュリアも。


「そうだよ。通りで妙に原色に近い瞳の色だと思った。ストール」



 妙なジト目で睨まれた。なんでコイツはこんなに嫌な雰囲気を醸し出してるんだ。



「瞳の色が何か関係あるんですか?」


「旧世界は、イングディアよりも魔力濃度が高い。生物も体内に持つ魔力量が多い。魔力の量の多さは、瞳の色に関わるんだ」



 と、ウィリアンは奴自身の目を指さした。

 若干明るい緑色の瞳。瞳孔は……白い輪郭だけ。



「イングディアの生命は瞳の色が黒っぽかったり、淡かったり色が混じっていたりする。けど、旧世界の生命は原色に近い。高価な宝石のようにね」


「へえー。良い知識を得ました! 覚えておこうっと……」と、ジュリアは頭を下げた。


「サブリーダーの瞳も、随分と原色に近いように見えますが」


「……ま、これも個人差があるけどね。じゃあ色々説明しておくよ。サラッと行くからちゃんと聞いておいて」



 なんか、話題を無理矢理切り替えられた気がした。ウィリアンももしかしたら旧世界出身なのかもしれない。


 奴は気だるげに瞳を細めて、色々書かれた紙を机の上に置いた。



「ウィヒデ(襲撃現場の国)でキミ達が発見した鏡の魔晶石。あれは確実に旧世界のものだ。なぜあそこに生成されたかは判明していないけど、ボクの予想では、何者かが唱えた魔法の副産物としてあそこにばら撒かれた」


「魔法の副産物? それはどういうことです?」


「鏡の魔力の発生原因が理由なんだ。本来実現不可能な事象を無理矢理発生させると、同時に生成される。いわゆる"バグ"だよね」


「バグ……」と、ジュリアは呟いて、「旧世界にある奴も、バグが由来なのかな?」


「そうかも。んで魔法を唱えた人物が元凶なんだけど、おおよそ旧世界にいると、考えられる」


「不確定要素なんだな」


「そう。で……」



 ウィリアンは紙に書かれた文を眺めていた。いちいち要約して話しているようだ。



「ウィヒデ襲撃とは話が飛ぶんだけど、旧世界が原因と考えられる異常は他にも起きてる。十年前の震災、それ以降各地で観測された異常な魔力濃度の上昇」


「あーっ、ストール言ってたね。十年前のなんたらって。でも、魔力濃度の件は初めて知りました」


「隠蔽してたからね。だから、既に旧世界を視察する部隊は組まれてる。で、やっと明日になって遠征が確定した」



 やっと、という言い方からして、相当前から計画自体は組まれていたんだろう。

 大聖堂の隠蔽体質は昔から知っていた。戦士団の事も頑なに外に出さないから。


 急に遠征が確定したのも、ウィヒデで鏡の魔晶石が発見されて、いよいよ隠蔽が難しくなると読んだからか?



「なんか凄い話ですね」


「んでさ、キミ達もこの部隊に入って欲しいんだ」


「えっ!?」ジュリアが大声を上げた。即座に手で口を包み隠した。


「貴重な人材なんだ。旧世界には鏡の魔力が蔓延してる。どんなに魔力に対して強い人間でも、長時間の滞在は出来ない……ボクとリーダー以外は。だから、どうしてもキミ達の力を借りたいんだ」



 ウィリアンは、俺達の事を強い眼差しで見つめてきた。



「今すぐ答えろとは言えない……まだ説明があるから。でも、どうか前向きに検討してほしいんだ」



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