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極寒の島グラキエース  作者: めび
5/15

食材が出来るまで

「それじゃあ、行こうか。マスター、大丈夫か?」

「ええ。行先は扉に掛けておきますので。」

マスターの言葉に、全員が頷いて酒場を出る。全員が出たのを確認して、マスターが酒場の扉に鍵を掛け、ドアノブに『外出中、解体場』と書かれた黒板をひっかけた。

「さあ、行きましょう。」

マスターの言葉に、リャオを除く全員が頷いた。

「リャオ、無理しなくてもいいんだぞ?」

その光景を見たダルタスがリャオに声をかけるが、リャオは首を横に振る。

「うん、でも、こんなの滅多に経験できないから、唄のネタ集めに。」

「そうか、ならいいんだが。」

これから、リャオにとってショッキングな場面が続くと思うと、少し悪く思うダルタス。

「解体は、あそこに見える解体場でやる。小屋になってるから、耐えれなかったら、表で待ってるといい。」

ドギーは、町外れの大きな屋根を指さし、リャオに提案する。その提案に、リャオは頷いて答えた。

「耐えれなかったら、そうします。」


七人は、町の外れにある解体場についた。そこは、大きなレンガ造りの平屋だ。

目を引くのが、その解体場の床面からのびている幅1m、深さ50cm程の水路だ、それが壁を貫通するように解体場の中から町の外にまで伸びている。

水路には、先程まで水が流れていた形跡があった。

「へぇ・・・ここが解体場ですか。なるほど、この水路に余分なものを流すと言う事ですか。」

一目見て、その水路の利用方法を言い当てるフィクラス。

「これのおかげで、食肉加工が楽になったんだ。何しろ、臭うからな。」

町の外に消えている水路の先には、川があるという。その川に廃棄物を捨てていると言う事だ。

「これ、冬の間でも、使えたんですか?」

この島は極寒の地だったはずだ。殆どの間、町は雪と氷に閉ざされている。

「そう思うだろ。これは、水路のレンガに秘密があるんだよ。」

「レンガ?」

フィクラスがレンガに触れる。周囲も暑いのだが、それとは違う異質の熱さを感じる。

「これは・・・?!」

フィクラスが記憶をたどる。この仕組みは、覚えがある。

「色の違うレンガには、火の魔法石を練りこんである。この町の特産品だよ。」

「なるほど、これなら水は凍らない。」

「まあ、燃えやすいものに近づけると、火が出て危険だから、家には使えない。だが、こういった水路には最適だ。」

魔法石を加工する技術を持った職人がいるとは思わなかったフィクラスは、大いに驚いていた。

「あの、ここに流す水は?」

リャオがその水路の仕組みに興味を持ったようで、ダルタスに質問を投げかける。

「水は、この中に貯蔵してある魔法石を使うんだ。水の魔法石なら、腐るほど手に入る環境だからな。」

そう言って、ダルタスは解体場の扉を開ける。少し身構えるリャオだったが、中はきれいに片付けられていた。

「汚いと思ったか?」

「え?!そ、そんなことは・・・。」

「食材の加工する上に、この町のみんなが使うからな。清潔に保たれているんだ。」

「そ、そうですよね。」

リャオが気になったのは、中の清潔さもそうだが、壁に備え付けられた棚に並んでいる解体道具の方だった。

リャオの視線の先を辿って察したのか、ダルタスはリャオの肩をぽんぽんと叩く。

「表で待ってるか?」

「そうします。」

そう言って、リャオは解体場を後にする。

「やっぱり、慣れてないときついか。フィクラスは大丈夫そうだな。」

フィクラスは、この後の事よりも目の前の解体場の設備に目を引かれていたようだった。

「なるほど・・・大きな動物はここで釣るして切るわけですか。」

ドギーの説明を聞いて、感心するフィクラス。

「あー、そろそろ始めないか?」

「そうですね。じゃあ、出しますね。」

しびれを切らせたダルタスに急かされたフィクラスは、次元球の入った袋を取り出す。

その袋の口を開け、逆さにして振る。それと同時に、巨大な蛇が袋から飛び出してきた。

「次元球から道具を取り出すところ、初めて見たんだが。結構豪快に出るんだな。」

完全に表に出てきた蛇は、取り込んだ時と同じ姿で出てきた。その状況を見たダルタスは呆気に取られていた。

「初めて見る人は、みんなそう言いますね。私も、こんな巨大なものを取り込んだのは初めてでしたけどね。」

飛び出した蛇の側に落ちている次元球の袋を拾い上げるフィクラス。

「あの袋・・・いや、次元球にはこんなものも入るのか。」

「全く、驚くばかりじゃの。」

そして、その巨体を見て驚きを隠せない爺さんとマスター。そこに、フィクラスが全員に注意事項を告げる。

「さて、次元球の中に入っている間は、時間の流れがゆっくりになってますが、早めに処理しないと、実験材料にしかなりませんよ。」

「ああ、解ってる。準備は出来てる。」

ドギーが大型の鉈と、斧、そして大きめのダガーを手に蛇の前に立つ。

た。

「マスター、どうすればいいんだ?」

ドギーが蛇の前でマスターに指示を仰ぐ。

「まずは頭を落とすんですが、この巨体となると、罠を外すのも同時進行でしないとダメになりますね。」

「分かった。頭は俺がやる。ダルタスとリズは罠を頼む。」

そう言って、ドギーは斧を手に蛇の頭に向かう。ダルタスとリズは蛇に絡みついている硬化した網と滑り止めの杭の処理を始めた。

「さてと・・・。」

蛇の頭の前に立つドギー。蛇の頭はドギーの胴回りと同じぐらいの大きさだ。

「少し小さいが、まあ何とかなるか。」

ドギーの手にした斧は、伐採斧で、そこそこの大きさがあるが、それでも蛇の首回りより小さい。

それを両手で持ち、ドギーは無言で蛇の首に向かって振り下ろした。

グニっとした感触と、肉が裂ける感触が同時に来たが、硬い何かに当たり斧は止まる。やはり、一度では断ち切れない。

ドギーは再び斧を抜き、同じ場所に斧を振り下ろす。

今度は、バキッという感触と共に、斧が床に付く感触があった。硬い部分は断ち切れたようだ。

「・・・ふぅ・・・。」

血が噴き出るかと思っていたが、流れ出てくる程度で、少し拍子抜けしていた。

ドギーは斧をダガーに持ち替え、手袋をつける。そして、手を真っ赤にしながら繋がっている首の肉と皮を切り離す。

そして、切り離しが完了すると、頭を蛇の側に置き、マスターに尋ねる。

「マスター、次はどうするんだ?」

「皮を剥くのですが、一人では大変ですね。手伝いましょう。」

そう言って、マスターは手袋をつけて蛇に近寄る。

「皮は、切り落とした所から少し切込みを入れると剥きやすいのですが・・・。」

マスターがナイフを手に皮に傷をつけようとするが、どうしても弾かれてしまう。

「硬くて、柔軟性のある皮ですね。」

「俺がやろう。」

ドギーはダガーを蛇の皮に当てて、切り口に向かって切り込みを入れた。ブツッと言う音と共に、蛇の皮が裂ける。

「硬くて弾力性があるな。これは、何かに使えそうだ。」

思っていたことを口に出すドギー。それを聞いて、マスターは笑みをこぼす。

「やはり、こういった素材に敏感ですね。」

「役に立つからな。」

にやりと笑うドギー。それを見てマスターは次の工程を説明する。

「さて、これを尻尾側に引っ張ると、皮が剥けるのですが・・・。」

マスターとドギーは罠の解除具合を見る。しかし、もう少し時間がかかりそうだ。

「先に、水の準備をしましょうか。フィクラスさん、そこの魔法石置き場に水の魔法石があるので、準備してもらえますか?」

「はい、解りました。」

フィクラスは、マスターの指示通り、魔法石を集めて、複数の桶に魔法石から水を創る。

「水は、掃除用か?」

「それもありますが、最後に、肉を洗います。」

「なるほど。」

マスターの説明に納得するドギー。そこへ、爺さんが声をかける。

「二人とも、罠が解除される前に、ちょっとこれにサンプルをもらえるかの?」

「サンプル?あぁ、そういう事ですか。ぜひお願いします。」

爺さんの言いたいことを理解したマスターは、ガラス瓶とシャーレを受け取り、ガラス瓶に血液を、シャーレに肉をそぎ落として入れる。

「お願いします。食用になるかどうか。」

「うむ。」

マスターからガラス瓶とシャーレを受け取った爺さんは、その二つを解体道具置き場の隣にある机に置き、調査を始めた。

「結果が出るのは、もう少し先ですね。」

その様子を見て、マスターとドギーは頷いた。

「ドギー、終わったよ。」

そこに、ダルタスがドギーに罠の解除が終わったことを知らせる。

「ああ。マスター、次は皮を剥くんだったな。」

マスターが頷いて答える。

「俺も手伝うよ。この硬さだと、二人でもきついだろ。」

「頼む。」

ドギーが手袋をダルタスに渡す。その手袋をつけて、ダルタスは蛇の皮を掴む。他の二人も同様に皮を掴み、皮を剥く準備が出来たようだ。

「せーの!」

三人は同時に蛇の皮を尻尾に向けて引っ張る。しかし、思ったほど抵抗もなくするりと向ける。

「なんだか、この大きさにしては呆気ないな。」

十分程度で、尻尾まで皮を剥いた三人。そこまで苦労はしなかったが、その皮を見て、改めて巨大なものだと再認識する。

「この皮は、色々と使い道がありそうだな。」

「クラストにでも見せたら?いい使い道を教えてくれるかも。」

皮を眺めて呟くダルタスに、リズが提案する。

「そうだな。洗って乾かしたら、持って行ってみよう。」

その会話を聞いていたマスターは、思わず笑ってしまった。

「狩人とは、本当に同じことを考えるのですね。」

「どういう事?」

首をかしげながら、リズが尋ねる。

「ドギーさんと、同じような会話をさっきしてたところです。」

「なるほど。まあ、狩人と言うのはこの島が好きだからな、この島で手に入るものは何でも使おうとするんだろ。」

ダルタスはそう言いながら、皮を小さくまとめて水路側に置いた。

「そう言う事にしておきましょう。」

マスターはほほ笑みながら二人に話す。

「で、マスター、次はどうするんだ?」

話を変えようと、ダルタスはマスターに手順の確認をする。

「次は、内臓の除去です。」

「内臓か・・・。」

その言葉を聞いて、ダルタスは少し前を思い出す。

「そう言えば、こいつ蜥蜴食ってたな。」

「蛇は、獲物を何日もかけて消化しますから、間違いなく残ってますね。」

周囲に少し重い空気が流れる。あまり想像したくない光景がこれから繰り広げられる予感がする。

「まあ、とにかく内臓をさばきましょう。」

そう言って、マスターは蛇の前に立つ。

「この切り落とした蛇の骨を見てください。骨は背骨を軸に覆いかぶさるようについています。」

ダルタスは、切り落とした蛇本体の切り口を見る。確かに、白く太い骨が上側についていた。斧を防いだのも、この骨だろう。

「下側には、骨はなく、切込みを入れやすくなっています。内臓を取り出しながら、尻尾まで開いてください。」

「分かった。」

三人はマスターに頷いた。そして、皮を剥いた蛇を横に倒し、ダルタスがダガーを蛇の腹に突き刺した。

「これを引っ張るのか。」

ドギーが、内臓と思われる肉の周りに貼ってある薄い膜を引っ張る。

「これも、すんなり取れるな。」

軽く取れていく内臓を見る。そして、思った通りある一部分が大きく膨らんだも場所が出てきた。

「この中・・・か。こうはなりたくないな。」

ドギーの言葉を、一同が同じ思いで聞いていた。

数十分後、蛇肉と内臓を分け終わった二人が一息つく。

「流石に、これは使えないな。」

「そうだな。」

ダルタスはドギーに頷いて答えた。

「肥料にでもする?」

リズが袋をもってドギーに近づく。

「そうだな。」

袋の中に取り出した内臓を入れていくドギー。大きめの袋だったが、すぐにいっぱいになる。

「さすがの大きさね。」

二つ目の袋に、内臓を切って入れていくリズとドギー。その作業を任せて、ダルタスとマスターは蛇肉を眺める。

「次はどうするんだ?」

「次は、ぶつ切りにしてから、フィクラスさんが用意してくれた水で、肉を洗いましょう。」

「ぶつ切りか・・・。どのくらいがいいんだろうな。」

周囲を見渡し、手ごろな大きさの樽を見つける。

「あれに入れて洗うか。」

ダルタスが樽を指さす。その意見に、マスターは頷いて答えた。

「それなら、このくらいの大きさだな。」

そう言って、ダルタスは蛇肉に目印の切込みを入れる。尻尾まで切込みを入れた後、最初にドギーが頭を切り落とした斧を手にした。

「ダルタス、ちょっと待ってくれないか?」

ドギーの言葉が、ダルタスの行動を止めた。

「どうした?」

「その蛇の骨、かなり硬いんだ。」

「ああ、気を付けるよ。後、素材用に長めに切ることも忘れてない。」

それを聞いたドギーは、安心した表情を見せる。やはり、同じ狩人だ。

「じゃあ、やるぞ。」

そう言って、ダルタスは斧を印をつけた場所に振り下ろしていった。

最初のうちは、何度も骨に斧を弾かれていたが、次第に一回で切り落とすことが出来るようになっていた。

そして、十分もしないうちに印をつけた場所通りにぶつ切りが完成した。

「綺麗に切れましたね。」

水の入った桶を手にしたフィクラスが、ぶつ切りにされた蛇を見た感想を口にする。

「この大きさだと、まだまだ水は必要ですね。」

気が付けば、水の入った桶は20を超えていた。

「そうですが、これだけ水があれば、後は洗いながら魔法石を入れれば大丈夫ですね。」

「そう言う使い方もあるのですか。」

魔法石の意外な使い方に、感心するフィクラス。

「では、その樽の中に肉を入れましょうか。」

肉を手にしようとするマスターを、ダルタスは少し呼び止めた。

「その前に・・・。」

ダルタスが樽の一番下にぽっかりと開いている穴をコルク栓で塞ぎ、その樽を水路の上に置いた。

「これでよし。」

汚れた水の処理もできるようにして、準備を整える。

「では、入れていきましょう。」

ぶつ切りにした蛇肉を入れていくマスターとダルタス。切り落とした肉の四分の一の量を入れた所で、樽がいっぱいになる。

「水を入れるぞ。」

そう言いながら、ダルタスが桶に入った水を樽に入れていく。樽の中に、赤い水が溜まっていく。

ある程度水が溜まった所で、水の魔法石を樽の中に投げ込む。

「このまま魔法石を発動させると、水が吹きこぼれますね。」

フィクラスの心配をよそに、魔法石を入れていくダルタス。そして、ある程度入れた所で、丸い木の板を持ってきた。

「なるほど、樽の蓋ですか。」

「そう言う事だ。」

ダルタスが樽に蓋をする。そして、先ほど埋めたコルク栓を少し緩ませる。

「少し離れててくれ。万が一があるからな。」

ダルタスは、マスターとフィクラスに樽から離れるよう指示する。二人はその指示にしたがって、樽から離れた。

そして、ダルタスが蓋の上から力を籠める。すると、樽がガタンと動き、コルク栓が勢いよく外れた。

「魔法は苦手だが、魔法石を発動させる程度には使えるさ。」

樽の中から、赤く染まった水が勢いよく流れ出る。入れた以上の水が流れているところを見ると、思惑通り魔法石が連鎖的に発動しているのだろう。

「水が出なくなったら、もう大丈夫だろう。」

そう言って、ダルタスは次に詰める蛇肉と魔法石の準備を始める。フィクラスは珍しそうに樽から水が流れる様子を見ていた。

「ところで、マスター、この頭はどうするんだ?」

作業中にふと目に留まった蛇の頭を見て、ダルタスが訪ねる。

「調理するにも難しいですからね。はく製にでもしますか?」

「はく製?ハンティングトロフィーの様にか?」

「そうですね。なかなかインパクトの強いものが出来そうですが。」

「インパクトはあるだろうが、気味が悪いと思うぞ。」

これを壁に飾った時の光景を思い浮かべて、ダルタスは素直な感想を述べる。

「不審者除けに丁度いいと思いましたが。」

「マスターの店に置いてみろ、よく出入りする俺たちが、周囲から見て不審者になっちまう。」

「それは困りますね。では、残念ですが、廃棄処分ですね。」

その話を聞いていたのか、ドギーが話に割り込んできた。

「これ、捨てるのか?」

「そうなりますね。」

マスターが頷いて答えると、ドギーは笑顔でマスターに確認する。

「なら、俺がもらってもいいか?」

「何に使うんだ?」

「こいつの歯は何かに使えそうだ。ほら、よく見てみろ。」

ドギーが蛇の口を開いて見せる。そこには、鋭い歯が並んでいて、その奥に一対のひときわ大きい牙がある。

「さっき、フィクラスに聞いたんだが、こういった蛇の歯は相手に毒を注入するためにでかい牙があるそうだ。」

「毒蛇じゃないと言っていたが?」

「フィクラスの住む場所の小さいものは、だろ。こいつはすでに規格外だ。」

確かに、この島で見た事が無いうえに、この巨体だ。規格外でも何の不思議もない。

「なるほどな。で、その毒の牙が何かに使えると言う事か?」

「それ以外にも、この目は何か魔力を秘めていてもおかしくないだろう。鑑定に回そうと思う。」

蛇の目は、5cmほどの大きさだ。不思議な模様の目は、確かに何かあるかもしれないと思わせる。

とことんまで使い道を考えるドギーに、二人は呆気にとられた。

「ダルタスさん、水が出終わりましたよ。」

そこに、樽を見ていたフィクラスがダルタスを呼ぶ。

「あ、あぁ。分かった。」

ハッと我に返ったダルタスが、樽に近寄る。

「マスター、肉は乾かせばいいのか?」

「そうですね。何かシートでも敷きましょうか。」

「シートなら、これでいいかしら?」

リズが動物の革で出来た敷物を持ってくる。

「何でもそろってるんですね、解体場と言うのは。」

「ここは、この島に住む人の大切な場所だからね。みんな色々と便利そうなものを準備してるのよ。」

感心するフィクラスに、リズが得意げな顔をする。

「じゃあ、リズ。それを表に敷いておいてくれないか。」

樽の蓋をあけながら、ダルタスがリズに指示を出す。

「ドギー、ちょっとそっち持ってくれないか?」

「分かった。」

蛇肉の入った樽を二人がかりで表に出す。

「あ、皆さん。」

表には、空を見上げているリャオが待っていた。

「終わったんですか?」

「もう少しかかりそうだが、山場は越えたというところだな。」

「そうですか。で、それは何でしょうか?」

リャオは、二人で抱えている樽を指さして尋ねる。

「この中に、蛇肉が入ってる。これから、ここで蛇肉を干すんだ。」

「お肉って、干すんですか?」

「マスター曰く、そうらしい。」

「二人とも、準備できたわ。」

陽のあたる場所に敷物を広げ終わったリズが、二人を呼ぶ。

「ああ、今行く。」

そう言って、二人は樽をもってリズの所へ向かう。その後ろを、リャオも付いてきた。

「ん?リャオ、大丈夫か?」

蛇に耐性の無いリャオを気遣って、ダルタスが声をかける。

「もう、蛇の原型は無いんですよね?」

「ああ、言われなければわからないな。」

「なら、大丈夫だと思います。」

ダルタスとドギーがシートの上に樽の中の肉を並べる。

その作業を、リャオが恐る恐る覗き込む。しかし、並べられている肉の状態を見て、少し安堵の声を漏らす。

「本当に、これの元々があれだったんですか?」

「ああ、こうなってしまっては、ただの肉だからな。」

ダルタスは、並べた肉を見ながらリャオに話す。

「これ、食べられるんですか?」

「まだ、爺さんから結果は聞いていない。どうなんだろうな。」

そんな時、解体場の扉が開き、中から爺さんとマスターが出てきた。

「おぉ、すっかり並べ終わったようじゃの。」

「マスターに爺さん。何か分かったのか?」

爺さんが頷いてダルタスに答える。

「あの蛇じゃが、肉と血液に毒はない。」

「と言う事は、食えると言う事か。」

「そう言う事じゃ。」

爺さんの言葉に、ダルタスの肉を見る目が変わる。この塊が後樽3つ分ある。

「あの量の肉か。この町の住人の胃袋を満たすには十分だな。」

「ダルタス、喜んでいるところ悪いが、これは美味いのか?」

「それは、調理人の腕次第だろう。」

ドギーの疑問に、ダルタスは明快な答えを返す。

「どうしました?」

名前を呼ばれた気がしたマスターは、二人に問いかけた。

「調理人の腕を信じようって話だ。」

そう言って、ダルタスはマスターを見る。

「そうですか、では、色々と作らないとダメですね。」

マスターが、珍しく声を少し大きく答える。

「嬉しそうだな。」

「ええ、新しい食材を料理できるのは、調理人としては楽しみですよ。」

「なら、早いところ肉の処理を終わらせないとな。」

そう言って、ダルタスは空になった樽を再び解体場に運び込み、先ほどと同じ作業を繰り返す。

全ての作業が終わり、肉を並べ終わった時には、すでに日が暮れ始めていた。

「作業は終わったが、これは乾きそうにないな。」

「この上に、この網をかぶせておきましょう。鳥の餌になってしまいますから。」

解体小屋から、網を持ってきたマスターは、肉の絨毯にそれを覆いかぶせる。

その光景を見ていたドギーは、少し首をかしげる。

「鳥はいいんだが、他の奴らも来ないか?」

周囲を見渡すドギー。町外れの解体場周辺は、野生動物も頻繁に現れる。

「そうですね、離れた場所に、ダミーの餌でも撒いておきますか。」

「あ、それならいいものがあるわ。」

そう言って、リズは廃棄処分にする予定の内臓の入った袋を持ってきた。

「これを、町の外に置いておきましょう。」

「囮の餌か。まあ、それだけあれば一日はこっちに来ないだろう。」

リズの案に、ドギーが頷いて答える。

「じゃあ、仕掛けてくるわ。」

「俺も行こう。」

リズとドギーが袋を持って町の外に向かう。

「くれぐれも町の外の離れた場所に頼むぞ。近すぎると、逆にこの町に集まりかねないからな。」

その姿を見て、ダルタスは二人に注意事項を告げる。

「分かってるわ。」

ダルタスの言葉に、リズが後ろ手に答える。

「あの二人が仕掛けを作る間に、こちらも準備をしておきましょう。」

マスターが乾燥中の肉から、程よく乾いた一塊を手にする。

「これを、貰っていきますね。」

「ああ。」

ダルタスが頷いて了承する。

「では、先に戻ってますね。」

「楽しみにしてるよ。」

選んだ肉の塊を油紙に包み、マスターは一足先に酒場に戻る。フィクラスとリャオと爺さんもそれに続いた。

「俺は、片付けをしておくか。」

ダルタスは、解体場に戻り、中の片付けを始める。

一通りの片づけが終わったあたりで、ドギーとリズも戻って来た。

「あれ?皆は?」

周囲にダルタスしかいなくなっていた状況を見て、リズが訪ねる。

「一足先に戻ったよ。そっちはどうだ?」

「バッチリよ。」

リズが親指を突き立てて見せる。

「じゃあ、俺たちもマスターの所に行こうか。」

ダルタスの言葉に、二人が頷いた。

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