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極寒の島グラキエース  作者: めび
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報告会

あの一件の後、町へ戻ることにした五人。その最中にも、色々と大きい動物を見かけたが、流石に蛇程の巨大なものは居なかった。

町の境界線を示す柵と看板が見えて来た所で、リズがダルタスに話しかける。

「ダルタス、あなたはギルドに行く前に医者に行ってきなさい。」

「ああ、そうさせてもらう。」

革鎧が裂ける程の攻撃を受けたのだ。痛みがある以上、内部にダメージがあると見ていいだろう。

「その間に、私たちはギルドに報告しておくわ。」

「・・・そういえば、報酬が要るんだったな。今回の請求は全てクラストに回してくれ。」

奇妙な事を言い出すダルタスに、不思議そうな顔をするリズ。

「クラストさん?また何か変な話になってるのね。」

「まあ、あいつの思い付きがすべての始まりだよ。まだまだ続きそうだがな。」

リズに苦笑いを返すダルタス。

「あなたも大変ね。何かあったら、また手伝うわよ。」

「二人に手伝いを頼むのは、そう遠くない未来だろうな。」

ダルタスがリズと先を歩くドギーの背中を見ながら話す。

「まだまだ、調査は続くって事ね。」

リズの答えに、ダルタスは頷いて答える。

「そう言う事だ。湖の一帯は今回で危険と言う事がわかった。後は、山と海と川だが。」

「行くまでもなく危険そうね。」

ダルタスはリズの言葉に苦笑する。

「そうだな。しかし、この気候で生態系も変化がある。新しい獲物の開拓が必要となる。そのための調査だ。」

「生態系・・・かぁ。」

戻る最中に見た、大きめの動物を見て、その実感を得ていた。

「ねぇ、それって、植物にも当てはまるのよね?」

「多分な。色々と疑問もある。誰に聞けばいいのやら。」

ダルタスがメモを取り出して答える。

「それなら、目の前に学者さんがいるじゃない。」

リズが前を歩くフィクラスを指さす。

「そうか、その手もあるな。」

フィクラスの本職を忘れていたダルタスが、思わず手を打った。

「でもその前に、傷を何とかしないとだめよ。」

「分かってる。」

まだ痛みが残る脇腹をさすりながら、ダルタスは答える。

そんな話をしている間に、町の門まで戻って来た。

「さて、皆。今日は助かった。ありがとう。」

ダルタスが四人に礼を言う。それに笑顔を返す四人。

「じゃあ、俺は先に医者に行く。後でギルドに顔を出すよ。」

そう言って、一足先にダルタスは四人と別れた。

「リズ、さっきダルタスと何を話してたんだ?」

「この村の今後・・・かな。」

「今後か。」

ドギーが小さくため息をつく。

「正直なところ、俺は不安しかないな。」

「そうね、今後、この島で暮らしていけるか・・・。」

リズが空を見上げる。雲一つない空に、太陽が日差しを注いでいる。

「でも、空は変わってない。だから、私たちも変わらず、ここで生活できるわよ。きっと。」

リズの言葉に、ドギーが頷く。

「ドギーさんにリズさん、ギルドには行かれないんですか?」

話し込んでいる二人に、フィクラスが遠慮気味に話しかける。

「あ、そうだったわね。ごめんなさい。行きましょう。」

フィクラスに促された二人は、ギルドに足を向けた。

「あれ?リャオは?」

ギルドに向かう道すがら、周囲にリャオの姿を見かけなくなったリズは、フィクラスに問いかける。

「あぁ、リャオさんなら先に行きましたよ。」

「あの子、運動は出来ないけど、こういう行動は早いのね。」

苦笑いを浮かべるリズ。

「そう言わないであげてください。色々と苦労が多いようですから。」

「苦労?」

気になる言葉を聞いたリズは、フィクラスに尋ねる。

「リャオは見た通り獣人ですが、その見た目で色々と判断されてきたんですよ。」

「あぁ・・・。」

思い当たる節が多いリズとドギー。獣人と言う事で、戦力として期待していたが、結果はあの通りだ。

「得手不得手ね。」

「それもありますが、彼女は生まれつき獣の力が弱いんですよ。どちらかというと、持久力や体力は人に近い。」

「そうなの?」

「まあ、聴覚や嗅覚等は獣相応に強いのですけどね。」

真面目な表情でリズに話すフィクラス。その表情は学者のそれだ。

「フィクラス、あなた、ずっとリャオと一緒に居たの?」

「知り合ってからは、何かと冒険に連れ出されますね。常に一緒と言う事はないですよ。」

「保護者みたいね。」

「よく言われます。」

笑いながら、フィクラスがリズに答える。

「さて、二人とも。そろそろお嬢さんがお待ちかねだ。」

ドギーがフィクラスとリズに声をかける。その先のギルドの前で、リャオがこちらを見つめている。

「三人とも、早く早く!」

手を大きく振りながら呼びかけるリャオを見て、フィクラスが笑顔を見せる。

「全く、気の早い人ですよ。」

そう言いながら、三人はリャオの下へ行き、四人でギルドに入っていった。


その頃、怪我を負ったダルタスは、とある家の前に来ていた。

その家の前には、診療所と書かれた看板が出ている。

「爺さん、入るぞ。」

扉の外からそう声をかけて、ダルタスは扉を開けた。

「ダルタスか!」

ダルタスの顔を見るなり、初老の白髪交じりの男が駆け寄ってきた。

「生きておったか。よかったよかった。」

「あぁ、まだ死んじゃいない。だが、怪我をしちまってな。ちょっと診てくれないか。」

医者の爺さんに自分の傷を診てもらうように頼むダルタス。爺さんは首を縦に振ってこたえた。

「お安い御用じゃて。で、どこを怪我したんじゃ?」

「ここなんだが。」

そう言って、ダルタスは革鎧を脱いで爺さんに痕を見せる。

「腫れとるな。少し触るぞ。」

爺さんの手がダルタスの傷に触れる。その瞬間、鈍い痛みがダルタスを襲う。

「2,3本ヒビでも入ってるかの。」

「折れてはないのか。」

爺さんが首を縦に振る。

「その鎧のおかげじゃな。」

補修済みの革鎧を見て、その衝撃の強さを推し量る。

「あぁ。そんなところだ。で、治療はすぐに可能なのか?」

「痛みを取るぐらいはすぐに可能じゃが、完治は3日じゃな。」

「そうか。じゃあ、すぐに取り掛かってくれ。」

「判った。では、そこのベッドで、患部を上に向けて寝てくれ。」

爺さんに言われた通り、ダルタスはベッドに横向きに寝転んだ。

それからすぐ後に、爺さんが水の入った洗面器を持ってベッドの横に置き、そばの椅子に腰かける。

「始めるぞ。」

そう言って、爺さんは洗面器の水に手をかざす。しばらくすると、水がほのかに光り始めた。

そして、その洗面器にタオルを入れて水を染み込ませた。

「少し冷たいぞ。」

そう言って、十分に水が染み込んだタオルを軽く絞り、ダルタスの患部に置く。

「そのまま少し寝ておれ。」

「ああ、そうさせてもらう。」

ダルタスは少し目を閉じる。そして、今回の疑問点を考える。

「生態系は確かに変わって来ている。草食動物は少し大きくなり、肉食動物が少し減少したと思われる・・・。だが、奇妙な生物も現れた。」

生物という言葉で、一つ思いついたダルタス。その思いつきを爺さんに尋ねる。

「爺さん、ちょっと聞きたいんだが、いいか?」

「なんじゃ?」

「蛇というのは、聞いたことあるか?」

蛇という言葉に、爺さんがゆっくりとダルタスに振り向く。

「また、珍しい名前を出してくるな。知っとるぞ。」

「長細い体をした、くねくねと動く手足の無い生物じゃろ。」

爺さんの答えに、ダルタスは頷いて言葉を続ける。

「昔、婆さんと新婚旅行に行った先で、見た事があるぞ。あの時、婆さんはひどく怯えとってなぁ。」

爺さんが思い出話を始める、こうなると長くなりそうなので早々に話を断ち切るダルタス。

「この傷なんだが、その蛇にやられたんだ。」

「蛇がそんな力を?それに、この島には居ないと思っていたんじゃが、居たのか?」

爺さんは驚いた表情でダルタスを見る。

「あぁ、捕獲しようと思ったが、無理だったよ。」

「ん?蛇はそんなに大きいもんじゃないはずじゃが?」

奇妙な事を言うダルタスに、疑問を投げかける爺さん。

「普通は、そうらしいな。ただ、今回のは巨大だったよ。」

「そんなに大きい蛇なら、すぐに気づくと思うんじゃが。」

そこで、一般的な疑問をダルタスに投げつける爺さん。

「湖に居たからな。凍結湖に獲物は居ないと思われていたから、行く人が少なかった。だから気付かなかったんだろう。」

「なるほど。お前さんのような狩人が今まで行かなかったのも関係してるんじゃろうな。」

ある程度納得したのがわかったダルタスは、爺さんに一つ提案する。

「で、そいつを連れて帰ってるんだ。この治療が終わったら、解体に行く。爺さんに医者として立ち会ってもらいたいんだが。」

「そりゃ構わんが、そんなにおかしな蛇なのか?」

「見た方が早い。」

ダルタスがにやりと笑う。爺さんの驚く顔が容易に思い浮かぶ。

「分かった。準備できたら呼ぶから、お前さんはもうちょっと寝とけ。」

「そうさせてもらうよ。」

それから数十分、ダルタスは瞼を閉じて再び今後について考えを巡らせていた。


「ダルタス、遅いわね。」

「鎧を引き裂くほどのダメージだ。治療にも手間取ってるのかもしれん。」

冒険者ギルドの待合室で、カウンターにもたれかかりながら、リズとドギーがダルタスを待っている。

他の二人は、椅子に座り、テーブルに資料を広げて読んでいる。

「俺には、学者や詩人のやる事はよくわからないが、こんな所でもああいう事が出来るんだな。」

「このギルドは、人が居ないからね。捗るんじゃない?」

リズの言う通り、グラキエースの冒険者ギルドには殆ど人が居ない。

ここでの仕事は、その殆どを狩人が直接引き受けるため、ギルドを通さない依頼が多いからだ。

その為、ギルドに来るのは狩人が受けられない特殊な依頼ばかり。それを受ける冒険者もほぼ居ない。

そんなわけで、人員も削られており、冒険者ギルド本部から派遣された常駐職員も一人という状況だ。夜間は支援依頼を受けていない限り休みとなる。

「何度来ても、ここのギルドはどうやって稼いでいるのか解らないわね。」

「本部からの支援だそうだが、マスターの本職で成り立っていると言ったところか。」

リズの疑問に、ドギーが答える。ここの職員はマスターと呼ばれている。もちろん、ここのギルドマスターであるが、もう一つの意味もある。

そんなマスターが、おもむろに受付カウンターから四人に話しかける。

「皆さん、今日は依頼を受けていただいてありがとうございました。」

「いや、困ったときはお互い様ですから。」

「そうだな。」

「こちらも、貴重な経験をさせてもらいました。」

「唄は浮かばなかったけど、いい刺激を受けたと思う・・・多分。」

マスターのお礼に、それぞれが一言を返す。それを聞いて、ほほ笑みながら受付カウンターにグラスを並べる。

「これは、私からのお礼です。どうぞ。」

そう言って、カウンター下から果実酒の瓶を取り出す。そして、おもむろにグラスに注ぎ始めた。

「お、ありがたい。」

ドギーは四つ並んだグラスを一つ取り、一気に飲み干した。

「いい酒だな。これ、また店に出すのか?」

「好評でしたら、考えておきます。仕入れも大変ですから。」

そう、マスターと呼ばれるのは、酒場のマスターでもある為だ。どちらかというと、酒場のマスターの方が板についている。

この冒険者ギルドは、酒場に置かれた出張所なのだ。

「ほんと、ここは冒険者ギルドじゃないわよね。」

「ちゃんと冒険者ギルドの設備はありますよ。依頼よりもお酒の注文の方が多いですが。」

マスターが依頼掲示用のボードを指さす。しかし、そこには何も貼られていない。

それを見て、マスターとリズは笑いあった。

リズがグラスを手に取り、少しづつ果実酒を飲む。フィクラスとリャオもそれぞれのグラスを取り、傾けていた。

「まあ、本部からはここに必要とされるように行動しろと言われてますからね。」

「確かに、ここは私達にとって必要な場所だわ。」

酒場というが、軽食等も取れる。この町の数少ない憩いの場だ。

「そう言っていただけると、酒場を開いた甲斐がありますね。」

「半分趣味なんでしょ?」

「半分どころか、殆どですよ。」

マスターがあっさりとリズの言葉を肯定する。

「私の夢は酒場を開く事でしたから。ギルドの仕事をこなせば、後は好きにしてもいいと言う条件を聞いて、ここの出張所創設に立候補したんですよ。」

「なるほどね。確かに、こんな辺境の地には物好きしか来ないと思ってたけど。マスターなら適任だったって事ね。」

「その通りです。」

マスターはニコリと笑う。

「でも、ギルドとしての仕事も少ないですから、もう本職はこちらと言っても差支えはないですね。」

「マスターの出すお酒も、おつまみも美味しいしね。」

「ありがとうございます。」

マスターがリズに頭を下げる。

その時、フィクラスが二つのグラスをカウンターに返しに来た。そこで、フィクラスが二人に話しかける。

「それにしても、ダルタスさんは遅いですね。」

「そうね。治療に時間がかかってるのかしら?」

「見に行って見る?」

「いや、その必要はないようだぞ。」

ドギーが窓の外を指さす。そこには、ダルタスと白髪で水色の目を持った爺さんがこちらに歩いてくる姿があった。

「あれ、先生も一緒?」

「そうみたいだな。」

ドギーとリズが二人を確認してからすぐに、ダルタスがギルドに入ってきた。

「すまない、待たせたな。」

ギルドに入って周囲を見渡すダルタス。そして、右手を挙げて挨拶をする。

「ダルタス、大丈夫なの?」

「ああ、もう痛みはない。」

「まだ完治はしておらんがの。」

二人の会話を聞いて、問題ないと確信できたリズは、ホッとした表情を見せる。

「マスター、これが報酬だ。一度預けないとダメだったな。」

ダルタスがカウンターに銀貨の入った袋を置く。それを頷いて受け取るマスター。

「ええ。そうしないと、ギルドの取り分がありませんからね。」

袋を開けて、中身を確認するマスター。そこから数枚の銀貨を抜き取り、残りをテーブルの上に置いた。

「皆さん、これが今回の報酬です。お受け取りください。」

カウンターから布袋を四つ取り出して、銀貨をその袋に移し替える。

「結構ある・・・。」

その重さから、結構な金額が入っていると考えたリャオは、中身を見て確認する。そして、ダルタスをばつが悪そうに見つめる。

「あの、私、何もしてませんけど・・・いいんですか?」

「ああ、依頼に対して来てもらったという謝礼だ。それに、何もしていないわけじゃなかっただろう。」

不安そうなリャオに、ダルタスが笑顔で答える。ダルタスの答えに、リズとドギーもリャオに話しかける。

「そうそう。その耳が常に周囲を警戒してたこと、解ってるから。」

「だから、俺たちは蛇の方に専念できたんだからな。」

皆から褒められて、くすぐったく感じるリャオ。頭を掻きながら、照れを隠していたが、耳がぴくぴくと動いていた。

「てへへ・・・。」

そんな光景を見ていたマスターが、突然口を挟む。

「皆さん、今、蛇と言いませんでしたか?」

「あぁ、今回の巨大生物の正体が、蛇だったんだ。マスター、知ってるのか?」

マスターからの突然の質問に、ダルタスが答える。そして、質問をマスターに返す。

「ええ、知ってます。で、その蛇はどうしたんですか?」

「今、フィクラスの次元球の中に入ってる。これから、解体場で解体する。」

ダルタスは視線をフィクラスに向ける。その視線に気づいたフィクラスは、次元球の入った袋を見せる。

「そうだったんですか。では、こちらから一つお願いがありまして。」

「マスターが?珍しいな。」

「はい、蛇肉と言うのが、中々の珍味なんです。余ったら頂きたいのです。」

「ほぅ・・・そうなのか。判った。食べれそうなら持ち込むよ。」

「ところで、誰か解体のやり方知ってるの?」

リズの疑問に、そこに居た五人が顔を見合わせる。

「初めて見る動物なんだ。俺は知らないな。」

「俺もだ。」

真っ先に出来ないと答えるダルタスとドギー。

「そうよね。私も知らないし。じゃあ、フィクラスは?」

「過去に、実験動物として小さいのは解剖したことはありますが、解体はしたことはないですよ。」

「リャオは・・・ないわね。」

四人がリャオを見つめる。リャオは顔を青くして震えている。

「爺さんは?」

「ないのぉ。」

ドギーの問いかけに、即答する爺さん。

「では、私が手伝いましょう。」

「マスター?!」

意外なところから立候補が出てきた。その場にいた六人はマスターに視線を向ける。

「過去に何度か捌いたことがありますから。」

「それは心強いわね。お願いします。」

リズはマスターの手を握る。

「では、自分の取り分は自分で解体しますね。」

「あぁ、それでいい。ただ、味見はさせてくれよ。」

「任せてください。」

マスターの条件を二つ返事で了承するダルタス。そして、ダルタスの頼みも快く引き受けるマスターだった。

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