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極寒の島グラキエース  作者: めび
3/15

巨大生物の正体

奇妙な音がダルタスの耳に入る。そして、予想していた衝撃は来ない。

「何が・・・?」

目を開けるダルタスの前に、ダルタスの腕ほどの長さがある矢が顔に刺さった相手が見えた。

「立てるか?」

不意に男に声をかけられる。ダルタスはその声の方に顔を向ける。

「ドギーか。すまない、肩を貸してくれ。」

見覚えのある顔で、ダルタスは少しほっとした表情を見せる。

「判った。」

ドギーと呼ばれた男が、ダルタスの右腕を肩にかける。

そして、ゆっくり立ち上がったダルタスはそのまま林の中へ身を隠した。

その間も、数度、相手に矢が刺さる音が聞こえていた。

「間に合ったわね。」

矢を持った女性が二人を出迎える。その横には、設置型のボウガンがあった。

「リズ、助かったよ。」

緑髪でショートボブの女性が、手に持った矢をボウガンにセットしながら答える。

「あんなのが居るなんてね。食べられる前で良かったわ。」

ドギーはダルタスをゆっくりと座らせる。ダルタスはリズの言葉に苦笑いで答える。

「そうだな。お前たちが来てくれると思ってたよ。」

ドギーとリズは、ダルタスと同じ狩人だ。互いに助け合う関係にある。

「困ったときはってね。」

そう言って、次の矢を放つリズ。その矢は、相手に突き刺さる。都合、5本目だ。

「まだ、仕留められないようだな。」

相手は、体をくねらせてのたうち回っている。巨体を動かすたびに、鉄の棒が右に左に薙ぎ払われる。

「ダルタス、一体あいつは何者なんだ?」

「わからん。ただ一つ言えることは、あの湖は危険と言う事だけだ。」

ダルタスは湖を見ながらドギーに伝える。その瞬間、ドギーとリズの表情が険しくなる。

「湖?まさか、あんなのがまだいるのか・・・?!」

「それもわからん。ただ、嫌な予感がする。」

「嫌な予感・・・ね。」

6本目の矢を相手に打ち込みながら、話を聞くリズ。

「ダルタスの予感は、結構当たるからね。信じるわ。でも、どうしてそう感じたのかしら?」

リズが7本目の矢をボウガンにセットし、照準を合わせながら尋ねる。

その質問の答えとして、ダルタスはメモを取り出し、ドギーに手渡す。

「そのメモの通りだ。」

ダルタスのメモには、今までの疑問点が書き記されている。

「なるほどな。」

「ドギー、何かわかったの?」

「相変わらず、ダルタスがメモ魔で助かるよ。」

ドギーがメモを読みながらリズに答える。当のリズは、相手に7本目の矢を打ち込む。

その矢を受けた相手が、今まで持ち上げていた顔を地面に落とす。

「ようやく、効いてきたみたいね。」

「毒でも塗っていたのか?」

ダルタスの質問に、リズは首を横に振る。

「相手が何者かわからない相手に、毒は使えないわ。」

「それもそうだな。」

持ってきた毒が、相手にとって毒である確証はない。こういう時は、物理的に叩き潰すに限ると言う事だ。

動きが無くなった相手を、ドギーは双眼鏡で確認する。

「まだ息はあるようだな。まだ打ち込むか?」

ドギーの問いかけに、首を横に振るリズ。

「これ以上撃っても、無駄だと思うわ。」

リズは、ボウガンの安全装置を取り付けながら答える。

「あの巨体をこれだけで仕留めるには、ちょっと無理があるわ。」

矢筒の中身を二人に見せる。

「5本か。確かに心もとないな。」

本数を数えたダルタス。そこで、一つ思い出す。

「確か、捕獲用の道具も持って来てくれと頼んだはずだが。」

「ええ、あるわよ。今の状態なら、こっちの方が確実よ。」

そう言って、リズは背負っているリュックから少し長い筒を取り出す。

「危険な奴だと聞いてたから、遠隔用ね。」

リズの出した筒の中には、細く粘着性のある糸で編まれた網が入っている。

「射出はそれで出来るんだろ?」

ダルタスは、安全装置のついたボウガンを指さす。

「ええ、出来るわ。」

「なら、捕獲だな。」

ダルタスはゆっくりと自分の体を動かす。動けない痛みではない。

「予備の鎧は無いか?」

「予備は持って来ていないが、応急補修材ならある。」

ドギーがダルタスに革材とリベット、そして針を手渡す。

「助かる。」

ダルタスは革鎧を脱ぎ、裂けた場所に革材を当て、針で穴をあける。そこにリベットを入れて革材と革鎧を結合させる。

「準備できたわよ。」

ボウガンに捕獲用の道具をセットし終えたリズが、二人に声をかける。

「ダルタス、いけるの?」

革鎧の修理が終わり、再び鎧を身に着ける。

「ああ、やられたところは固定してある。足手まといにならない程度には動けるな。」

「無茶はするなよ。」

「ああ。」

ダルタスはそう言いながら立ち上がる。

「捕獲開始だ。」

特に何の打ち合わせもないが、それぞれやることはわかっている。ダルタスとドギーは捕獲の邪魔にならないよう左右に分かれる。

それを確認したリズは、相手に向けて捕獲用の罠を相手に向けて射出した。

打ち出された罠は、相手の胴体に当たり、その中に仕込まれていた網が相手に巻き付く。

異変に気付いた相手は、激しく動くが、動くたびに網が絡みつき自由を奪う。突然の抵抗に左右から近づこうとしていたダルタスとドギーは一瞬足を止めた。

そして、二人は顔を見合わせ、頷く。次の瞬間、相手に絡みついた網の端を持ち、一気に引っ張り上げた。

網はより強く相手に絡みつき、抵抗する力も弱くなっていく。それでも、二人が全力で引っ張ってもまだ相手に振り回される。

「リズ!まだか?!」

ドギーが大声で問いかける。

「いいわ!二人とも離れて!!」

リズの掛け声に合わせ、二人は網を放して相手から離れる。そこに、再び射出された捕獲用の罠が飛んできた。

その罠も相手に当たり、中から網が飛び出した。しかし、次の網は少し様子が違う。

「硬化剤、いい感じで効いてるわね。」

「ああ、そのようだな。」

捕獲用の罠、それは、相手の自由を奪う網と、その網を硬化させる硬化剤の染み込んだ網、その二つを打ち込むものだった。

その効果は覿面で、見る見るうちに相手の動きが止まっていく。

「完全に固まる前に、これを打ち込んでおいた方がいいな。」

硬化していく相手を見ているダルタスとリズに、ドギーがハンマーと鉄製の杭を持ってきた。それを見て、頷く二人。

長細い体を持つ相手だ。完全に網が硬化した場合、抜け出る可能性がある。網が硬化する前に杭を打ち込んでおけば、杭が引っかかるために逃げられることは無い。

ドギーが相手に近寄り、両手で持った鉄の杭を渾身の力で突き刺した。刺した直後に相手が大きく暴れたが、すでに硬化の進んだ網が相手を押さえつけた。

「そらよ!」

ハンマーを振りかぶるドギー。それを先ほど刺した杭に向かって振り下ろす。鉄の杭が完全に相手の体を貫通した。

「どうする?もう一つ打っておくか?」

硬化した網を鉄の杭が相手ごと貫通している。よっぽどの事が無い限り、もう逃げることはないだろうが、見た事の無い生物だ、万が一の事もある。

「そうだな、念のためもう一つ打ち込もう。」

ダルタスはそう言いながら、鉄の杭を持つ。しかし、ドギーがその鉄の杭に手を伸ばす。

「任せておけ。まだ辛いだろう。」

ドギーの申し出に、苦笑いを返すダルタス。

「心配のし過ぎだ。でもまぁ、その申し出はありがたく受け取っておこうか。」

鉄の杭をドギーに渡すダルタス。

「任せておけ。」

さっきと同じように、鉄の杭を相手に打ち込み、ハンマーを振り下ろす。今度は、相手は全く動かなかった。

「皆、お疲れ様。」

リズが二人に声をかける。それに、二人は笑顔で答えた。

「さて、次の問題なんだが。」

ダルタスが少し深刻な表情で二人に話しかける。

「これを、どうやって持って帰る?」

親指で相手を指さすダルタス。それを見て、二人も苦笑いする。

「どうするかなぁ。」

ダルタスとドギーが二人がかりでも引き摺られる程の力と重量だ。流石に三人でも持ち運ぶにはつらいだろう。

「そういえば、お前たちの他に二人の冒険者が居ると聞いたんだが、どこに居るんだ?」

「ん?あぁ、あの冒険者か。もうすぐ来るんじゃないか?」

ドギーが少し呆れた声でダルタスに答える。その答えにダルタスは首をかしげる。

「冒険者だろ?」

「冒険者にも色々居るということだ。」

ドギーの言葉に、色々と察するダルタス。

「あら、話題の冒険者が到着したみたいよ。」

リズの言葉に、二人が振り向く。そこには、白衣の背の高い男性と、フードを被って背中にリュートを背負った女性が立っていた。

「み、皆さん早いですね。」

「はぁ・・はぁ・・・。」

白衣の男性は息を切らせてドギーとリズに話しかける。フードの女性は、とにかく息を整えるのに必死だ。

「あなたたちが遅すぎるんです。」

「そう言われても、僕は学者だからなぁ・・・。」

「わ、私も運動は苦手で・・・。」

フードを脱いだ女性は、茶色の体毛に覆われた顔が現れる。

「獣人?」

ダルタスが女性の姿を見て思わず声を漏らす。

「獣人は初めて見たな。」

「ま、まあ獣人ですけど。運動が苦手な獣人もいるんですよ!」

「そ、そこ迄は言っていないが。すまない。何しろ、初めて見るんでな。」

思わず謝るダルタス。獣人の女性は腰につけた革袋に口をつけて水を飲む。

少し落ち着いたところで、ダルタスは二人に尋ねる。

「ところで、冒険者ならこれの正体は判らないか?」

ダルタスは振り向いて固まっている巨大な生物を見る。二人の冒険者も、改めてダルタスの後ろの物を見る。

「・・・何ですか、この巨大な蛇は?!」

「蛇?」

「ええ、暖かい場所に生息している、こんな姿の生き物ですよ。ただ、ここまで巨大なものは見た事が無い。」

「そんなに珍しいのか・・・えっと、二人とも、名前は?」

冒険者の名前を聞いていなかったダルタスは、二人に名前を聞く。

「あ、僕はフィクラス。世界を冒険しながら調査を行う学者です。」

「私はリャオ。唄のネタ集めをしてる吟遊詩人よ。」

「この二人は、偶然この島に来ていてな。ギルドが急遽応援を依頼したんだ。」

ドギーがダルタスに経緯を説明する。

「珍しい物が見れるというんで、依頼を受けたんですが・・・これは、文句無しですね。」

フィクラスは巨大な蛇に近づき、蛇の体をなでる。

「大陸ではよく見るタイプの蛇ですが、ここまで巨大な個体は記録にも無いはずです。」

その話を聞いた狩人三人は、少し疑問が浮かぶ。

「で、この蛇というのはこんなに狂暴なのか?」

「肉食ですが、そこまで狂暴ではないですね。」

フィクラスは、蛇の首から尻尾に向けて撫でていく。その途中で何かに気付いて手を止めた。

「心臓が動いてる・・・これは、まだ生きているのか?!」

驚いているフィクラスに、ダルタスが頷いて答える。

「ああ、捕獲した。恥ずかしい話だが、これの締め方がわからないんだ。」

苦笑いをするダルタス。

「この蛇は、ここに心臓があります。」

フィクラスが蛇の心臓がある場所をパンパンと叩く。

「切り落とせばいいのか?」

「これだけ大きいと、血液が一気に噴き出しそうですね。」

「なら、これを打ち込むか。」

ドギーが一本の矢を取り出す。その矢は蛇に刺さっている物よりも一回り大きく、鋭利な鏃を付けている。

しかし、それよりも目を引くのはシャフト部に巻き付けている茶色の紙だ。

「それは?」

奇妙な形の矢を見て、フィクラスがドギーに問いかける。

「この部分に、火薬を詰めてる。この鏃にも仕組みがあってな。これが強い衝撃を受けると、中にある火の魔法石が割れる仕組みになっている。」

指さしながら、一つ一つ説明するドギー。内部から心臓を破壊する予定のようだ。

「なるほど、爆発矢ですか。よく使われるんですか?」

「滅多に使わないさ。扱いが難しいからな。リズ、射出できるか?」

矢を受け取ったリズは、しばらく矢を眺める。

「不格好で、安定性が悪いわね。打ち込むより、突き刺した方が早いけど?」

「鏃に衝撃を受けた瞬間から、導火線に火が付くんだ。爆発に巻き込まれるだろ。」

「この程度なら、大した爆発にならないでしょ?」

巻かれた紙と、そこにある膨らみを確認しながら、リズは反論する。

「話を聞いてなかったのか?心臓に打ち込むんだ。血液が飛び散るだろ。」

「まあ、そうなるわね。」

「その血液に、何かあったらまずいだろ。」

リズは、腕を組んで首をかしげる。そして、フィクラスに問いかける。

「フィクラス、これ、大陸にはたくさんいるんでしょ?」

リズの言葉に、フィクラスが首を縦に振ってこたえる。

「ええ、大きくても2メートルぐらいのですが。」

「それって、害とかあるの?」

「血液には特に害はないですね。匂いがちょっときついですが。」

その答えを聞いたリズは、頷いてドギーを見る。

「匂いぐらいなら、少し我慢できるわよね。ドギー、よろしく。」

笑顔で矢を返すリズ。それを受け取ったドギーは、リズに不敵な笑みを見せる。

「何だ、出来ないだけなのか。悪かったな。」

少しの嫌味を込めたドギーの一言が、リズの表情を変える。

「な、なによ。できないとは言ってないじゃない。貸しなさい。私がやるわ。」

リズはそう言ってドギーの手から爆発矢を宇奪い取り、そのまま森に設置してあった大型ボウガンまで走って戻る。

「あなた達、早くこっちに来なさいよ!これ、安定性が悪いから、まっすぐ飛ばないかもしれないわよ!」

四人は、リズの後を追うように蛇から離れる。

「相変わらず、リズの扱いに慣れてるな。」

「長い付き合いだからな。」

ダルタスとドギーはそう言って笑いあった。

「それにしても、リャオはやけに静かだな。」

ドギーは周囲を見回す。リャオはいつの間にかリズの側に立っていた。

「いつの間にあんなところに。」

「本で読んだことがあるぐらいなんだが、リャオを見てると、本が嘘を書いているとしか思えないな。」

ダルタスは、昔読んだ本を思い出す。

「一般的に身体能力とサバイバル能力が人間より高いが、器用さに欠ける。」

その本の一節を口に出すダルタス。それを聞いて、思わず笑いが出るドギー。

「運動能力はお世辞にも高いとは言えないな。だが、楽器が弾けるほどの器用さを持つ。」

「実は人間なんじゃないか?」

「いや、あんな見た目の人間は居ないだろうし、最初に自分を獣人だと言っていたから、獣人だとは思うんだが。」

「そこの二人!早くこっちに来なさい!あと、リャオは全部聞こえてるって言ってるわよ!!」

リズの言葉に、ダルタスとドギーは思わず顔を見合わせる。そして、ダルタスが一言呟く。

「なるほど、確かに獣人だ。」

ダルタスの読んだ本には、こうも書いてあった。

『獣人は、人間にはない特殊な能力を持つ者が多い。』


リズ達の所へ到着したダルタスとドギー。フィクラスはすでに到着済みだった。

「あの、お二人に言っておきますけど、苦手なものは苦手なんです。」

「分かってる。誰しも、苦手なものはあるさ。」

笑いながらダルタスはリャオに答える。

「フィクラスが蛇の調査をしている最中、ずっと離れて様子を見ていたのも、蛇が嫌いだったから・・・かな?」

リズの質問に、小さく頷いて答えるリャオ。

「だって、あんな気持ち悪い生き物、私には近寄れませんよ。」

「生物学的に、興味深い生き物なんですけどね。」

リャオの言葉を、フィクラスが残念そうに返す。

「で、その生物学的に興味深い生き物をこれから退治するわけだけど、いいのね?」

「ええ、これが生きていたという証拠は集まりました。後は、解剖調査とかもしておきたいところですから。」

解剖調査という言葉に、狩人は一瞬固まるが、よく考えれば普通の獲物を解体して食料にする事とあまり大差がない。

「あれを解体するのは、ちょっと骨が折れるな。」

ダルタスは、その巨体の解体を思って、少しため息が漏れた。

「解体しないと、持って帰れないしね。」

リズが蛇に照準を合わせながら話す。その時、フィクラスが問いかけた。

「それなんですが、とりあえず、ここで解体するのはやめておきませんか?」

フィクラスの提案に、狩人の三人が振り向く。

「そうだな。ここでの解体は危険かもしれないな。」

ダルタスがフィクラスに答える。

「血の匂いで、さらに厄介なものを呼び寄せる可能性がある。」

「でも、血抜きは早いうちにやらないと、素材が無駄になっちゃうわよ?」

「それなら、これを使ってください。」

フィクラスが袋を手渡す。その中身を見たダルタスはフィクラスを驚いた顔で見返す。

「これは、次元球か?」

「そうです。これなら、あまり大きさを気にせずに持ち運べるでしょう。」

次元球。大きなものでも、一つだけこの中に入れて持ち運ぶことが出来る便利な道具で、冒険者ギルドが制作、販売している。

便利なのだが、少数しか作れないため、かなり高額な上、ギルドに貢献した者に優先販売されるため、入手が極めて難しい。

故に、これを持っていることが、冒険者とってステータスになる。

「初めて見たな。フィクラス。お前、名の知れた冒険者だったのか。」

「いえいえ、これは引退する冒険者から譲り受けた物です。」

フィクラスが謙遜するが、それでもこれを持っている冒険者は一目置かれることに違いはない。

「私も初めて見たわ、次元球。」

リズとドギーが次元球を覗き込む。この辺境の島では、次元球を手に入れるのは難しい。

「確か、生物以外なら、入れることが出来るんだったか?」

ドギーの問いかけに、フィクラスは頷いて答える。

「そうです。ですから、あの蛇をお願いします。」

「任せておいて。」

そう言って、リズは動かなくなった蛇の心臓部に狙いを定める。

そして、次の瞬間、爆発矢が蛇に向かって飛んで行った。その矢は、ドスッという低い音と共に、心臓部に爆薬がセットされた部位まで突き刺さった。

それから数秒ののち、ボフッという音がして、蛇の体が一瞬飛び跳ねたように見えた。

「死んだか?」

「狙い通りの場所には着弾したわ。やったかどうかは、確認してみないと分からないわね。」

見事に動かなくなった蛇。そして、深々と刺さった矢が落ちていない為、血も流れていないようだ。

そんな状況を見て、リャオが手を挙げて提案する。

「あの、私は先に帰ってもいいですか?」

「報酬がいらないならいいですよ。」

「あぅぅ・・・。」

しかし、その提案はフィクラスが一蹴する。

「そういえば、今回の救援クエスト、どういう文言だったんだ?」

ダルタスがリズに尋ねる。

「あなたの救出と、脅威の調査。脅威の排除ね。」

「なるほど、調査が終わってないと言う事か。」

救援依頼を出して置いたはずだが、他の件はギルドが付け加えたのだろう。よく言えば気が利くが、悪く言えば何かを考えてる証拠だ。

「まあ、ギルドらしいか。」

巨大な組織を運営しているのだから、何か裏で動いていても不思議ではない。だが、結果として救援には来てくれている以上、ダルタスはそこに何も言う事は無いと思った。

「さて、確認に行くわよ。」

リズが全員に声をかける。一人を除いて、頷いて答える。

「うぅぅ・・・わかりました。」

それから、少し遅れてリャオが答えた。

蛇の下に戻って来た五人。フィクラスがまず蛇の心音を確認する。

「心音は止まってますね。後は・・・。」

ゆっくりと蛇の頭へ向かうフィクラス。そして、用心のため少し離れて蛇の目を見る。

「・・・大丈夫のようですね。」

蛇の目はすっかり濁っている。生きてはいないだろう。

フィクラスの見立てに、四人はほっと胸をなでおろす。

「フィクラス、次元球を頼む。」

ダルタスの言葉に、フィクラスが頷いて答える。そして、次元球の入った袋を開け、その口を蛇に押し付けた。

その瞬間、蛇の体は罠や矢が刺さったままの状態ですべて次元球に飲み込まれた。収納が完了したようだ。

「便利な道具だな。本当に。」

「私も、そう思いますよ。」

ドギーの言葉に、フィクラスが笑いながら答えた。

「それじゃあ、一度町に戻りましょう。」

「そうしましょう!早く戻りましょう!」

リズの提案に、リャオが急かす様に賛同する。その姿を見て、四人は大笑いしていた。

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