湖の支配者
「さて、近場の湖から調べるか。」
湖に向かう道へ足を向ける。木々の生い茂る中、少し広い場所を便宜上道としているが、普段は雪が積もり、湖に用のある者たちが残した雪の轍に沿っていく。そんな険しい道なのだが。
「歩きやすい道というのも、違和感があるな。」
この二か月で、この道の雪は完全に消えた。そして、雪の轍だった場所は周囲より草の背丈が低く、その名残を見せていた。
道を歩きながら、周囲の状況を確認していく。この気候に耐えられなかったのか、植物の一部は茶色く変色し、枯れ始めている。
しかし、それと同時に、地面には新しい芽も顔を出ている。
「植物というのは、こんなにも順応が早いものなのか?」
少し道を外れて、近くの木の幹を触ってみる。木の葉はまだ緑が映え、幹も問題が見られない。これらは元々極寒でも耐えられたのだ、この暑さにも耐えられるのだろう。
ダルタスは腰の道具袋から、メモとペンを取り出し記録していく。自分で判断出来ない事は、必ずメモをとる癖があるのだ。
疑問をメモに記した後、道具袋にメモとペンをしまい、再び湖に向けて歩き始めた。
湖に近づくに連れて、ダルタスは奇妙な事に気付く。
「・・・動物が少ないのか?」
ダルタスはしゃがみこんで、地面の草を少しかき分ける。そこには小さな昆虫類が居たが、いつもダルタスが狙うような動物の姿が見えない。
「餌は豊富にありそうなんだがな、暑さでやられたか?」
メモを取りながらしばらく歩くと、目の前に青々とした湖が見えて来た。
そこで、ダルタスは思わず足を止めた。
「狩り放題だな。」
ダルタスは、その光景を見て動物が少ない理由を理解した。
水辺の砂場には、真白な物がいくつも転がっている。雪ウサギの群れだ。さらに、その周囲の木には白羽鳥が群れを成して羽を休めている。
「警戒心が全くないな。」
それだけではない。湖の周辺には、様々な動物の群れが、恨めしそうに太陽を眺めていた。
「動物にとっては、暑くなる原因はあれぐらいしか思い浮かばないか。夜になればそこそこ冷えるしな。」
しかし、まだ日が沈むには早い。動物たちはもうしばらく湖の周囲でくつろぐのだろう。
「湖が凍っている時は、狩に適して居ないから詳しく調べなかったが、いい狩場になりそうだな。」
湖の状況を少し把握したダルタスは、音を立てないようにゆっくりと湖全体を見渡せる場所に向かう。
そして、道具袋から小型の双眼鏡を取り出し、湖の観察を本格的に始めた。
湖の周りには、いくつもの集団が居る。その集団は、他の集団には干渉する様子もなく、秩序が保たれているようだった。
「先客が多いな。動物観察は出来るかもしれんが、ここを観光地化するのはやめさせるか。」
そう考えたダルタスは、そこにいる動物の種類をメモに取る。その結果、湖の周りにいる動物のほとんどは草食動物だった。
中には、小型の肉食動物もいたが、その動物の周りには比較的大きな草食動物が群れを形成しており、肉食動物も手が出せないようだった。
「・・・何かおかしいな。」
ダルタスがそう呟く。奇妙な力関係を見たからではない。その視線はすでに湖に向けられていたからだ。
「鳥が湖の上に居ないのは、どういうことだ?」
ダルタスの感じた違和感は、水辺に居るはずである鳥の姿がない事だった。そして、それに付随してさらに疑問が浮かぶ。
「大型の肉食動物の姿もない・・・。」
これだけの獲物が無防備に集まっている場所なのだが、捕食者が一切居ないのだ。
長閑で奇妙な光景を眺めつつ、観察を続けるダルタス。そして、さらに疑問が浮かぶ。
「湖の周りの動物は、なんで湖に近づかないんだ・・・?」
周囲の動物は、時折湖のほとりまで行くが、湖の近くに溜まっている水を飲むだけで、湖自体には近寄ろうとしない。
「あそこに、何かあるのか?」
湖を双眼鏡で覗くが、広い湖の異常を見つける事が出来ない。双眼鏡をあきらめて、裸眼で湖を見渡すが、やはり同じことだった。
「調べてみるか。」
そう呟き、ダルタスは周囲でくつろいでいる動物の邪魔をしないようゆっくりと湖に向かっていった。
湖畔に近づくにつれて、湖からこちらに吹き付ける風が、ダルタスの体温を心地よく奪っていく。ダルタスは動物たちがここに集まる理由を身をもって理解した。
「こうも気温が変わるのか、やはり、野生動物には見習うべきことが多いな。」
動物の行動に感心するダルタス。それと同時に、湖に近づかない動物はやはり何かを感じていると確信を持つ。
ダルタスは、動物たちが近づかないぎりぎりの場所に荷物を置いて準備を始める。
「水の中だからな・・・まずはこれからだろう。」
近くの手ごろな石をどかし、その下を覗き込むダルタス。そこには、糸状の生き物がうごめいている。その生き物を数匹摘み上げ、どかした石の上に乗せる。
そして、荷物の中から、釣竿を取り出し、糸の先にある針にその生き物を刺した。
「釣りは久しぶりだな。」
そう言いながら、釣竿を振りかぶり、ブンっと勢いよく振りぬける。餌のついた針は水辺から5メートルほど離れた場所に着水する。
5分ほど釣竿を上下させて獲物を誘うが、何もかかる気配はない。一度、針を戻そうとした時、釣竿を引っ張る力を感じた。
「?!何かかかったか?」
釣竿を引きながら、糸も巻き取る。獲物の抵抗が釣竿と糸を通して伝わってくる。
数分の格闘の後、湖から一匹の魚が上がってきた。
「凍っていたというのに、もうこんな魚が居たのか。」
糸を手繰り寄せ、魚を確認する。その魚はダルタスも川でよく釣っていたものだった。
「凍結していない川ならよく釣ってたが・・・融けた湖ならこの魚も登ってくるのか。」
その魚は、海に注ぎ込む川に生息しており、川まで凍結する季節には海へ移動する性質を持っている。
しかし、万年凍結している湖には生息していないと思われていた。
「湖も、厚い氷の下は水があったのか。」
ダルタスも、凍結した湖の氷を割り、そこに糸を垂らすようなことはしたことがなかった。
そもそも、本来の湖の氷は、割ったり穴を開けたり出来る程度の厚さの氷ではないからだ。
ダルタスは、釣り上げた魚の口から針を取り出し、魚を湖に向かって投げる。
「今日は調査だからな。」
食料保存用の道具を持ち合わせていないダルタスは、魚を湖に帰した後、メモを取る。
「しかし、あの魚が脅威なはずはないな・・・。一体何があるのか・・・。」
周囲を見渡すダルタス。相変わらず、動物たちが無防備に寛いでいた。
その中に、群れから外れた小動物がダルタスの目に入った。
「可哀そうだが、やってみるか。」
道具袋から、マジックスリングを取り出す。それを構え、狙いを定めてゴムを引く。すると、ホルダーの部分に鈍く光るものが現れる。
一息に指を放し、鈍く光るものを発射する。ビュンという風を切る小さな音のすぐ後に、小動物がバサッと倒れる音が聞こえた。
動かなくなった小動物を確認して、ゆっくりと近づき、その死体を手にして荷物の場所に戻る。
「これぐらいがいいんだろうか。」
鉄の棒を取り出し、そこにロープを結びつける。そして、束ねた大きめの釣り針をロープにつなぎ、小動物に針を隠すように取り付けた。
ロープがしっかり小動物に結ばれているのを確認し、小動物の体に傷をつける。小動物からは、血が滴り落ちてきた。
その匂いに気付いたのか、周囲の動物がこちらに警戒の目を向けるが、ダルタスは気にせず仕掛けづくりに専念していた。
ロープを結んだ鉄の棒をその場に突き立て、針を付けた小動物を湖に投げ込む。
湖に落ちた小動物に引きずられるように、ロープが湖に飲み込まれていった。
「今度は、何がかかるかな。」
ダルタスは、ある程度伸びたロープを手に持ち、何度か引っ張って今の感覚を覚える。
その時だった。ダルタスの持つロープが勢いよく湖に吸い込まれていく!
「な?!」
反射的に鉄の棒を両手で持つ。しかし、強力な力で引きずられていく。
「この・・・!」
鉄の棒をしっかりと地面に押さえつけ、そこを支点に体を使って鉄の棒ごとロープを引き留める。その状態で、ようやく均衡がとれるようだ。
「何が居るんだ?!」
ロープを引き上げようとするが、今の体制では難しい。
力比べを続けるダルタス、ロープが左右に振れる度に、体全体でその衝撃に耐える。
ダルタスは少しづつ鉄の棒ごと後ろに下がれるかを試みた。数センチづつだが、後ろに下がれるようだ。
「いけるか・・・。」
ゆっくりと足を後ろに擦り下がる。少し下がった後に、鉄の棒をロープごと引き寄せる。数センチづつ後ろに下がるダルタス。しかし、埒が明かない。
それから、10分程の格闘の後、戦況が突如動いた。湖の中の抵抗が消えたのだ。
「なっ?!」
急に抵抗が消えたため、ダルタスは盛大に尻もちをつく。
「どうなったんだ?」
握っていた鉄の棒を再び地面に突き立て、ロープを湖から巻き上げる。
「よっぽどの大物だろうが、一体何が・・・。」
ロープの先が影となって水の底から徐々に見えてきた。その影は、異様な形をしていた。
「何だあれは?」
湖から引き揚げられた影を見て、ダルタスは目を疑う。
「こんなでかい水蜥蜴、見たことないな。」
普通なら、ダルタスの腕より小さいサイズだが、その水蜥蜴の大きさはダルタスの半分ほどだ。
「で、これが急に抵抗が消えた理由か。」
その水蜥蜴の体は、上半身しかなかった。水中で食いちぎられたような痕がある。
「この大きさを食える奴がこの湖に居ると言う事か。」
メモを取り出し、湖の調査欄に一言「立入禁止」と書き加える。
「しかし、どうしたものかな。」
ダルタスは、その水蜥蜴の処理に頭を悩ませる。さらに困った事に、水蜥蜴の食い残しを狙ってきたのか、湖が波打ち始める。
「これは、まずいことになりそうだな。」
周囲の動物はすっかりこちらを警戒し、離れてしまっている。
ダルタスは、波打つ湖を見ながら、荷物を持って動物の居る安全圏に急いで下がる。
「ここなら、大丈夫か?」
動物の行動を信じたダルタスだが、荷物から武器を出しつつ迎撃準備を整える。
「最初は、重装備すぎるかと思ってたが・・・これで良かったとは。」
いつでも矢を放てるように、弓を構える。徐々に湖の波が大きくなってくる。それと同時に、不気味で巨大な影もはっきりと見えてきた。
その影が岸にたどり着いたその瞬間、水面が大きく揺れ、影が飛び上がった!
「?!」
その影は、そのまま水蜥蜴に食らいつく。一飲みとはいかないが、食べ残しの半分以上を一度に飲み込んだ。
「・・・あれは・・・何だ?」
影の正体を見て、自分の持っている武器では勝ち目がないことを理解したダルタスは、ゆっくりと後ろに下がる。
そして、ダルタスは影の正体を凝視する。今までに見た事の無い形状の生物だ。
目測でざっと20mは超える巨体、手足が無く、全身を覆う奇妙な模様、そして、見開いた目と大きな口と鋭い牙。
「あんなのが、この島に居たのか?!」
奇妙な生物が、残りの水蜥蜴を飲み込む。しかし、その直後から奇妙な生物が暴れ始めた。
それが暴れる理由と、今後の行動が予想できたダルタスは、構えていた弓を下ろし、さらに後ろに下がる。
「ロープは、切っておくべきだったか。」
少し後悔するが、すでに遅かった。奇妙な生物は水蜥蜴の先にあるロープを飲み込みながら鉄の棒に近づく。
そして、少し頭を上げると、ロープがつながっている鉄の棒が抜け、地面に転がる。
「まずい!」
ダルタスはそう呟き、湖からさらに距離を取り、林に身を隠した。
その直後、奇妙な生物は頭を大きく横に振る。すると、ロープを伝って鉄の棒が浮かび上がり、頭が動く方向に鉄の棒が周囲を薙ぎ払った。
「あれは、あのままにしておく訳にはいかないか・・・。」
その様子を見たダルタスは、奇妙な生物と対峙する覚悟を決める。しかし、今の道具と装備ではあの生物には勝てない事は本人がよくわかっている。
「どうする・・・。」
十分な距離を取ったダルタスは、双眼鏡を手に奇妙な生物の観察を始める。模様に見えたものは、様々な色の鱗だ。
そして、振り回している鉄の棒が自分の体に当たっても何の反応も示さない。強固な体を持っているのだろう。
「弓やスリングは効かなそうだな。」
持っていた弓を背負い、荷物から、魔法石と爆薬を取り出す。
「効果がありそうなのは、この二つぐらいか。」
とはいうものの、巨大な生物を相手にするには、全く足りない。
「下手に攻撃して、手負いにすると面倒なことになりそうだな・・・。」
深呼吸をして、焦る心を落ち着かせる。
「そうか、対策は出来るな。」
落ち着いたおかげか、自分の左手の指輪を思い出す。ダルタスも、冒険者の一人なのだ。
「ギルド、聞こえるか?非常事態だ。」
「ダルタスさん?どうしました?!」
指輪から聞こえる男の声に、ダルタスは少し安心する。
「正体不明の巨大な肉食動物が現れた。至急応援を頼む。場所は凍結湖だ。」
ダルタスの報告に、指輪からどよめきの声が聞こえる。
「巨大な肉食動物?わ、わかりました。」
「爆薬と、魔法石、それと捕獲用の罠を多めに準備してくれるか?」
「そんなに危ないんですか?」
ギルド職員がダルタスに尋ねる。
「あぁ。俺と同じ大きさの蜥蜴が食われた。」
その一言で、職員は危険性を理解した。
「・・・わかりました。応援を数名、手配します。安全な場所に居てください。」
「そうも言ってられないかもしれないな。」
ダルタスは湖を見る。そこには、鉄の棒を引きずりながら周囲を威嚇している巨大肉食動物の姿があった。
「逃げられると厄介だ。相手をしながら到着を待つ。頼んだぞ。」
そう言って、ダルタスは一方的に通信を切った。
「さて、応援が来るまで、逃がさないようにしないとな。」
荷物から、ありったけの魔法石と爆薬を取り出し、小さな袋に小分けにして詰め込む。
その袋を、腰につけている道具袋に入れる。簡易的な爆弾だ。
「時間稼ぎの始まりだ。」
ゆっくりと、気付かれないように湖に戻るダルタス。
その相手だが、久しぶりの陸なのか、口からロープを垂らしたまま、とぐろを巻いて日の光を浴びている。
「このまま、落ち着いてくれれば何もしなくてもいいんだが。」
襲われる心配がないのか、相手はすっかりリラックスした状態だ。
その隙に、ダルタスは相手から一番近い身を隠せる大きさの岩まで近づく。
「ここなら、鉄の棒も届かないな。」
岩陰から、周囲を見渡す。大量にいた草食動物たちはすっかり姿を消し、湖の波の音だけがやけに大きく聞こえてくる。
「こんなのが、湖に居るから、肉食動物が近寄らず、草食動物もあいつの縄張りに近づかなかったのか。」
強力な力を持つ肉食動物が、他の肉食動物を寄せ付けないために、周囲が草食動物の楽園になる。奇妙な話だが、目の前の現実を突きつけられたら納得するしかない。
「湖はあいつの楽園、その周りは餌の楽園か。」
そう考えたダルタスだったが、嫌な予感は振り切れない。
「・・・こいつが、本当に湖の長か?」
本当にこの湖の頂点であるなら、自らその身を危機に晒す真似はしない。安全地帯である湖に速やかに戻るだろう。
「少なくとも、今はこいつの対処が先だな。」
答えの出ない問いをひとまず頭の片隅に追いやり、巨大な肉食獣をじっと監視するダルタス。その時、ギルドから通信が入る。
「どうした?」
「ダルタスさん、人の手配が付きました。すでに出発しましたので、それほどかからずに到着する予定です。」
「ありがたい。で、何人手配できたんだ?」
「狩人二人、冒険者二人です。」
「冒険者?居たのか?」
こんな辺境の地に、冒険者が居るとは意外だったダルタス。
「はい、こちらから出していた依頼を見て、ドラゴンの調査に来た方々です。」
「ドラゴン調査?ドラゴンを倒すつもりだったのか?」
「それはわかりません。調査のために来ていたとしか。」
ダルタスはそれ以上は聞かなかった。今は、戦力が増えることが重要だからだ。
「そうか。こちらは、まだ動きはない。通信を切るぞ。」
そう言って、一方的に通信を切ったダルタス。そして、再び岩陰から相手を観察する。
「眠っているのか?」
あれから相手は動く気配がない。
「しかし、見れば見るほど、奇妙な生物だな・・・。」
メモを取り出し、相手の姿を書き写す。そこに、確認できただけの情報を書き記す。
「これを、誰に聞くか、それが問題になりそうだな。」
書きあがったスケッチを見ながら、ダルタスは少し考えこむ。
ガサ・・・
ダルタスの隠れている岩の奥から、不意に草をかき分ける音が耳に入った。
「え・・・?」
その音を聞いたダルタスは、ゆっくりと岩陰から顔を出し、様子をうかがう。
「動き始めたか?」
巨大な生物が、尻尾をゆっくりと動かしている。草をかき分ける音は、その音のようだ。
「・・・。」
息を殺しながら、その相手の動きをうかがう。が、その時、相手の顔がこちらを向いた。
「?!」
とっさに身を隠したダルタスだが、気付かれたと考え、小分けにした簡易爆弾に手をかける。
相手は、時折口から赤い舌を見せながら、じっとダルタスを見据えている。
「もう少し、時間が稼げれば良かったんだが・・・。」
そう呟くダルタス。しかし、両者ともに睨みを利かせて動くことが出来ない。
そのまま、時間だけが過ぎていく。しかし、それはダルタスにとっては好都合だった。
注意するべきは、鉄の棒による薙ぎ払いと、大口による丸呑み。その二つに絞ったダルタスは、相手を見据えながらゆっくりと岩陰から離れる。
しかし、相手もダルタスをゆっくり顔を伸ばして追いかける。
「体が長いというのは、便利そうだな。」
ダルタスはその奇妙な追いかけ方を見て、嫌な汗が流れていくのを感じる。改めて未知の物と対峙するという恐れを感じていた。
「もう、俺は射程範囲内と言う事か。」
すでに自分の命は相手に握られている。相手の体と行動を考えると、そう結論付けるしかなかった。
ゆっくりと簡易爆弾に手を伸ばし、一つ一つその場に落としながら後ろに下がる。相手は、それに興味を見せず、ダルタスをジッと見据えながら近づいてきた。
そして、最後の簡易爆弾を手にしたダルタスは、ゆっくりとその手を上げる。次の瞬間、落としてきた物に向けて手にした簡易爆弾を投げつけた。
簡易爆弾は、パンと軽い音を立てて爆発する。その衝撃で、落としてきた簡易爆弾も同様にパンと音を立てる。
その音と衝撃に驚いたのか、相手は首を大きく上にあげてダルタスから距離を取った。
「今だ!」
ダルタスは全力で林に向かって走り出した。
もう少しで木々に隠れることが出来る、その瞬間、ダルタスを強い衝撃が襲い、体を地面に叩きつけた。
「が・・・っ!?」
一瞬、何が起こったかわからないダルタスだったが、パックリと割れている革の鎧を見てすべてを理解する。
「薙ぎ払いか。」
鎧のおかげで、出血はしていないようだったが、肋骨が折れたのだろうか、鈍い痛みが続いていた。
すぐに起き上がろうにも、痛みのせいで思うように体が動かない。そして、再びあの音が聞こえてきた。
ガサ・・・
「終わりか。」
そう呟いたが、あんな巨大な肉食動物に食べられる自分を想像したくない。最後の抵抗を試みようと仰向けになり、腰のナイフを手にする。
その姿を見下ろしている相手の顔が見える。そいつは、舌なめずりをするように、チロチロと赤い舌を出している。
そして、顔が一気にダルタスに近づく!それと同時に、口が大きく開かれた!
「くっ!」
予想できる衝撃に備え、強く目を閉じるダルタス。
・・・ドスッ!