第三章/幸せの形 悩める乙女
皆さん、事件です──────
私が教師として勤務する桜坂高校で、共に働く相澤先生とひょんなことから始まった同居生活も9ヶ月目に突入した。
最初は口が悪くて自分勝手でデリカシーもない相澤先生のことが大嫌いで、一刻も早く出ていって欲しかった。
のに……
まあ色々諸々ありまして、
私達は付き合うこととなりましたっ。
それはそれで本当に喜ばしいことなんだけど……
「マキマキおはよ〜。」
大あくびをしながら起きてきた相澤先生は、台所で朝ご飯とお弁当を作っていた私に近付いてきた。
そして私の顎をくいっと持ち上げると、おはようのキスをチュッてした。
朝ご飯を食べ終わると美味しかったよとご馳走様のキス。
身支度を整えるとじゃあ行ってくるよと言ってまたキッス……
──────そう、なんと……
相澤先生ってキス魔だったのおっ!!
嬉しいよ。嬉しいけど……
キスされる度に私の心拍数は尋常じゃないくらいにドクンと跳ね上がる。
一日に何度も心臓に、こんなに強い刺激を与えても大丈夫なのだろうか……
そのご様子じゃあ夜の方の営みもさぞかしって思うでしょ?
「マキマキー寝ようぜ〜。」
一緒の布団に入った私に、おやすみなさいのキスをしてくる相澤先生。
そしていつものように私を抱き枕代わりに抱きしめると……
それ以上は何も手を出すことなくスヤスヤとご就寝。
相澤先生…私より寝付き良いし……
そりゃあ、キスと同じように夜の方もガンガンこられたら困るよ?
けどさあ……私達付き合ってるわけだし、いつまでこんなピュアな状態が続くの?
この先はいつするんだって誰でも思っちゃうでしょ?
目の前にある相澤先生のカッコイイ寝顔……
毎日お預け状態で、私の方がムラムラしちゃってます。
はあ……
なぜこんなことになっているのか?
まあこれにはちゃんとわけがありまして……
あの日──────
そう、私と相澤先生の思いが通じ合ったあの日の夜。
恋人同士となって初めて同じ布団で寝ることとなった。
私はお風呂に入って勝負下着を付けた。
来るべき日のためにって用意してあった、上下お揃いの可愛いやつだっ。
いつも寝る時は締め付けるのが嫌だからとノーブラだった。
毎日男の人と一緒の布団で寝てたっていうのに、慣れって怖いよね……
今まではなんっっっにも起こらなかったけれど、とうとうやって来たよ、来るべき日がっ……!
「マキマキー寝るぞ〜。」
「は、はい!」
緊張のあまりちょっと声が裏返ってしまった。
相澤先生はいつもと変わらぬ態度で、先にゴロンとベッドに寝転んだ。
私も、オドオドしながらも同じ布団に体を横たわらせた。
「あれ?マキマキ、ブラ付けてる?」
「……付けてますよ。」
私に触れた相澤先生はすぐに気付いた。
気に入ってくれるかな。
そんなセクシーなものではないけれど……
「外してくんない?ゴワゴワしてて肌触り悪い。」
コノヤロウ、コロス………
ちょっとでも可愛く見られたいっていう乙女心をサクッと踏みにじりやがって……
だいたい肌触りってなんなの?
人のことモノ扱いしてないっ?
結局私は彼女になってもただの抱き枕かよ!
張り切った私が馬鹿みたいだ……
外してくりゃあいいんでしょとムクれながら立ち上がると、相澤先生に腕を掴まれてベッドに座らされた。
「俺が外してもいい?」
……えっ?
俺がっ………て?
相澤先生は私の肩に顔を乗せて、甘ったるい声でおねだりするように聞いてきた。
「ダメ?俺、彼氏なんだけど?」
い、いやいや……
いくらなんでもいきなりそんなの、難易度が高すぎる……
「……ダメです。」
「服は着たままでいいから。ホックどっち?前?後ろ?」
「う、後ろですけど……」
「ふ〜ん。前が良かったな。」
なにこの急な展開。ちょっ…なんなのこれ?
私の服の中に相澤先生の手が入ってゴソゴソと背中を探っている……
顔の火照りがどえらいことなってきた。
指が肌に触れる度にこしょばくってゾクゾクする……
「相澤先生…あの……」
「なに?」
ホックを外され、胸がスースーした。
心臓の音がうるさくて、自分の声さえかき消されそうだ。
相澤先生はブラの紐も服の袖を通して器用に外すと、はいどうぞと言って渡してきた。
あっという間だった。なんだかすっごく手馴れている。
きっと相澤先生は、いろいろ経験があるんだろうな……
「私って…相澤先生から見てちゃんと魅力的ですか?」
「なんでそんなこと聞くんだ?まだなんか不安?」
だってこの半年間全く手を出して来なかった。
女として見られてないのだと諦めていたけれど、私のことを好きだと言ってくれた。
じゃあなんでなにもしてこなかったんだろう?
「……あのっ、なんで私に今まで……」
私って、相澤先生には物足りないんじゃないだろうか……
どう伝えていいかわからずにうつむいていると、相澤先生は私を抱き上げて自分の足の上に座らせた。
子供をあやすお父さんみたいな体勢なんだけど、私が意識しすぎているせいだろうか…相澤先生の太ももに私のお尻が密着していてなんだかヤラしい……
「俺、食べ物でもなんでも、好きな物は最後まで大事〜にとっとくんだけど?」
相澤先生は一番好きなおかずは最後に食べるタイプだ。
嫌いなんですかと気を利かせて食べてあげたら、えらい怒られたことがある。
「最初の日からずぅ〜と、か──なり我慢してたんだけど?」
そう言うと私のことをギュッと力強く抱きしめた。
一枚だけの薄い布を通して、相澤先生の温もりが肌に優しく伝わってきた。
最初の日って……
「相澤先生って、いつから私のことを思ってくれてたんですか?」
「さあね〜。」
含んだような曖昧な答え方で、イタズラっぽい笑みを見せてきた。
もうっ…さっきから相澤先生の一挙一動にドキドキとさせられっぱなしだ。
「それほど大事だったってこと。」
「……相澤先生……」
「やっと、マキマキとH出来る。」
────────ドッキィ……!!
心臓が止まるかと思った。
こういうことって、面と向かっていうもんなの?
大胆でどストレートな表現に相澤先生らしいと思いつつも、一気に顔がまっ赤になってしまった。
そっか……
私、これから相澤先生と………
相澤先生は私の頭を撫でると、壊れ物でも扱うかのようにベッドへと押し倒した。
こんなに男の人から大切に思われたことなんてない。
嬉しさが全身に込み上げてきた……
「相澤先生〜……」
「泣くなよ…マキマキ。」
「だってえ〜。初めてが相澤先生で良かったです〜。」
私に覆いかぶさっていた相澤先生が、落雷でも受けたかのようにピシィっと固まった。
「……マキマキ。おまえ、付き合ったことはあるって言ってたよな?」
「ありますよ?学生の頃に1ヶ月だけでしたけど。」
「そいつとはヤラなかったの?」
「彼の家が熱心なクリスチャンで、婚前交渉は禁止だとママに厳しく言われてたらしくて。」
「……マジか……」
相澤先生は私から離れると、ベッドの端で頭を抱えながら悩み始めた。
これは…もっと事前に言っとかなきゃいけないことだったのかな……
「……俺、今日は自分の部屋で寝る。」
「な、なんでですか相澤先生?!」
「今日はさすがに歯止めがきかない。一緒にいたら襲っちまう。」
「襲えばいいじゃないですか!彼氏なんだからっ!」
「そういうわけにはいかねえから……」
「やっぱり私には魅力が足りないんですか?」
「足りないわけあるか!俺だって今すぐ抱きてえわ!」
「じゃあなんでですかっ?!」
「処女だからだよっ!!」
ガ────────ンっ!!
で、結局その日以降また手を出してこなくなった。
今はまだダメだって。
キスはたくさんしてくれるけれど、全部触れるだけの軽いキスだ。
ディープだったのは好きだと言ってくれた二回目のキスの時だけ……
処女なんて面倒くさって思われちゃったのかな……
ヤったんだから責任取って下さいなんて言わないのにっ。
一体どうしちゃったの相澤先生っ?!
わかんないっ、わかんな───いっ!
恋愛経験の乏しい私が一人で悩んだところで答えなんて出るわけがない。
こんな時は神様仏様、ムッチー様だ。
「睦美先生〜なんで相澤先生は毎日一緒の布団で寝てるのに何もしてこないんですか?」
ムッチーと、生徒達から親しみを込めて呼ばれている睦美先生は我が校の保健室の先生だ。
学校には秘密にして付き合っている私と相澤先生のことを知っている、数少ない内の一人だ。
年齢不詳のセクシー系美魔女で、今も現役バリバリのフェロモンを出しまくっている。
これで成人した息子がいるというのだから驚きだ。
「そうねえ…そういうのって、彼氏が恋愛経験の少ないシャイボーイとか、自分に自信の無いメンタル弱い系だったりするんだけど……」
男性側の性格が理由の場合もあるんだ。
でも相澤先生はそんなタイプじゃあない。
どちらかと言えば肉食系でガツガツきそうなのに……
「……女性側に理由がある場合って、どんなことが考えられますか?」
睦美先生は髪をかきあげながら、憂いを含んだ表情で吐息を付いた。
「泣くかもだけど、それでも聞きたあい?」
うっ……恐ろしくてとてもじゃないけど聞けないっ。
すでに泣きそうだっ。
「ネガティブに考えても仕方ないわよ。それよりも、相澤先生をその気にさせる方法を考えましょっ。」
最近の相澤先生…スマホばっかり見てるし、私と目が合ってもそらす時がある。
はっ…ももも、もしかして浮気とかっ?!
相澤先生、モテるからな〜っ……どうしよう、睦美先生みたいなムンムン垂れ流し系爆乳美女だったら……
とてもじゃないけど太刀打ち出来ないっ!
「真木先生。私の話聞いてる?」
「私にっ睦美先生のようなオッパイがあれば……!」
「うん。全然聞いてないわね。」
睦美先生流、男の人をHに誘う方法。
その1。
恋人繋ぎをして、相手が感じるようにやらしく手をイジる。
その2。
体を密着させながら横に座り、太ももの股間の近くに手を置く。
その3。
ベッドに行こうと自分から囁き、耳たぶを甘噛みする。
どれもこれも匠の技すぎて、素人の私には無理です。
「……彼女が処女って、男性にとってはデメリットでしかないんでしょうか……」
気になってネットで調べてみた。
気を使うだとか、執着されそうとか、気持ちが重いだとか散々なことを書かれていた。
貞操観念が〜などと堅苦しく守っていたわけでもないのに……気付けばこの歳まで経験がなかっただけなのにぃ!
「そんな否定的に捉えるような彼氏は真木先生のことを大事には思ってないから。自分を安売りしちゃダメよ?」
相澤先生は私のことが大事だと言ってくれた。
そんな人じゃないと信じてる。
でも……
時々、相澤先生の気持ちがわからなくて不安になる……
「大丈夫よと言ってあげたいんだけれど、私も相澤先生は読みづらいのよね。昔の彼を知ってるだけに……」
昔の……?
睦美先生は相澤先生が通っていた高校でも保健室の先生をしていたことがある。
私が知らない相澤先生を知っている。
「あのっ睦美先生、高校生の時の相澤先生って……」
「とにかく真木先生っ。」
睦美先生は私の質問を遮るように慌てて口を挟んだ。
「男なんて本能で生きてるようなもんなんだから。いつでも脱がされる想定はしときなさいよ?」
想定って…下着とかかな?
そう言われてみれば上下揃ってるのなんて一着しか持っていない……
「下着なら私のお気に入りのブランドのをプレゼントしてあげるわ。でも下着なんてすぐ脱がされるし、どんなデザインかなんて男はあんまり気にしてないわよ?」
睦美先生御用達の下着ブランド……絶対際どいデザインだよね?
「私が言ってるのは、け!」
………け?
「処女は毛の処理が疎かになりがちだから、ちゃんとしときなさいよって言ってるのっ。毛、すなわちアンダーヘア!」
毛……アソコの毛ですか、睦美先生……?!
恋愛経験豊富な方は言うことが生々しい……
私って…Hに対して夢と幻想を抱きすぎなのかもしれない。
なんだか急に怖くなってきた……
誰もいないと思っていたベッドのカーテンが開く音がした。
「もうだいぶ気分良くなったので教室戻ります。」
そう言ってベッドから出てきたのは菊池君だった。
菊池君は三年生でサッカー部のキャプテンをしており、オシャレな今風の男の子だ。
「またいつでもいらっしゃい。サボりに。」
「へへっ。バレてました?」
なんで寝てる生徒がいるって教えてといてくれないの睦美先生……
かなり露骨なガールズトークしてたけど聞かれた?
そんなに大きな声では話してなかったし、大丈夫だよね……
近付いてくる菊池君に目が合わせられず、澄ましたふりをして机に置いてあったお茶を飲んだ。
「俺で良ければいつでも言って。マキちゃんの処女、もらってあげるから。」
─────ぶはあっ!!
飲んでたお茶を盛大に吹かした。
睦美先生が足をゆっくりと組み直して菊池君の方に体を向けた。
「あら菊池君。それって本気度何パーセント?」
「100パーって言ったら今すぐマキちゃんと二人っきりにしてくれる?ちょうどベッドもあるし。」
「やだわあ私はお邪魔虫?私の相手はしてくれないんだ。」
「ムッチーを満足させられるほどのテクは残念ながら持ち合わせて無いからねー。」
なななっ……なんて大人な会話なんだ。ついていけない……
「マキちゃん、俺がせっかく相澤先生とくっつけるためにアシストしたんだから、ラブラブでいてよ?」
そう…菊池君が文化祭の日に私と相澤先生を二人っきりにしてくれたから、私達は関係を深めることが出来たんだ。
それがなければ、いつまで経っても宙ぶらりんなままでなんとなく過ごしていただろう……
「まあ、上手くいかなくなったらいつでも俺んとこおいで。たっぷり慰めてあげるから。」
菊池君は私の頭をポンポンとするとじゃあねと言って保健室から出ていった。
私のこと、全く先生とは思ってくれてないよね……
後日、睦美先生は下着を2セットくれた。
ひとつは水色のコットン素材で、可愛いレースやフリルの付いた清潔感のあるデザインだった。
睦美先生って男心を心得ているよなあと関心した。
問題はもう一個の方だ。
マンネリ化してきたら使ってねって言ってたけれど……
開けてみてしばらくフリーズしてしまった。
黒のガーター付きのビスチェなんて初めて見た。
パンツなんてお尻丸出しTバックだし……
私が相澤先生の前でこれを着る日はやってくるのだろうか……
だいたいこれってどうやって着るの?
相澤先生は今日は大学時代の友達と飲んでくるから遅くなると言っていた。
……せっかくもらったんだし、ちょっと試しに着てみようかな。
ビスチェとは、ウエストを補正するコルセット調の女性用下着だ。
付けるだけでウエストをシェイプしてバストアップもするので、女性らしい体のラインを強調することが出来るのである。
さすが睦美先生が選んだだけはある。
花柄の黒レースにサテンの黒いリボンがなんとも小悪魔風で魅力的だ。
寄せ上げ効果も抜群で、私でもなかなかのメリハリボディに仕上がった。
内側からにじみ出る色気も必要だよね……
鏡の前で、睦美先生がよくやる色っぽい仕草を思い出して真似てみた。
こんな感じかな〜……
「マキマキ〜予定変更なった。腹減ってんだけどなんか作ってもらってもいい?」
お互いに目が点になった。
穴があったら今すぐズボッと入りたいっ!!
「きゃあぁあああ────────っ!!」
「おわっ!ごめんっ!てかおまえなんちゅう格好してんの?!」
見られたっ!
相澤先生にこんな格好で鏡に向かってセクシーポーズしてるところをバッチリと!!
絶対頭のイカれた変な女だと思われたあっ!!
「……どうせ、ムッチーの悪知恵だろ?」
相澤先生は着ていたジャケットを脱いで、プルプルと縮こまっている私にかけてくれた。
「なんか気になることがあるんだったら、ムッチーじゃなくて俺に聞けって言っただろ?」
私の目線まで腰を下ろすと、顔にかかった髪の毛を耳にクルっとかけてくれた。
相澤先生……優しい………
でも………
「……相澤先生には聞けません。」
「なんでだよっ?」
付き合ったらすぐにアツアツでラブラブな毎日が始まるのだと思っていた。
なのに苦しくなったり切なくなったり、もしかしたら浮気してるんじゃないかと相澤先生を疑ったり……
こんなことを考えて不安になっている自分が嫌になる。
相澤先生のこと
すっごくすっごく大好きなのに……
「まあ、マキマキが考えてることなんてだいたいわかるけどな。」
相澤先生は泣きそうになっている私の目の前に自分のスマホの画面を見せてきた。
それは…最近出来たばかりのシーサイドホテルにあるレストランの、予約完了のメールだった。
「昨日ようやくキャンセル待ちで予約が取れたんだ。本当はサプライズで驚かせてやろうと思ってたんだぜ?」
─────もしかして……
最近スマホをずっと見てたのって……
日付が再来週の土曜日だった。
その日はクリスマスイヴだ。
それに、この日は──────……
「……相澤先生、実はクリスマスイヴは……」
「知ってる。おまえの誕生日だろ?」
知って…たんだ──────
今までクリスマスイヴの日に良い思い出なんてない。
私は八人兄弟だ。
毎月のようにある家族の誕生日。一人一人をきちんと祝う余裕なんてただでさえないのに、クリスマスイヴ生まれの私はケーキもクリスマス仕様でごっちゃにされていた。
そして誕生日に彼氏がいたことも一度もない。
今のこの時期に、こんな人気のあるレストランの予約を取るだなんて大変だったはずだ。
こんなにちゃんと……誰かから誕生日を祝ってもらうなんて、初めてだ──────
「その日、そのホテルの部屋も取ってあるから。」
「えっ…このホテル家から近いのに?わざわざ泊まるなんてもったいないですよ。」
「おまえ意味わかってる?その日にマキマキのこと襲うって言ってんの。」
相澤先生が照れくさそうに私のおでこを小突いた。
「だからその日まで待て。わかった?」
私の心に、相澤先生の温かな愛情が染み込んでくる。
私はなにを勝手に不安がっていたんだろう……
「……私、嫌われたんだと思ってました。」
「はあ?なんで?」
「……処女だったから……」
「はぁああっ?!」
相澤先生はそれは予想外だったわと呆れたように大きなため息を付いた。
「そんなもん嬉しいに決まってんだろ。世界で一人だけの、初めての相手に俺を選んでくれたんだから。」
─────えっ…嘘………
「相澤先生、嬉しいの?本当にっ?」
「嬉しくなかったらこんなにはりきって予約なんか取るかよ。」
相澤先生の顔が真っ赤だ。
私も嬉しくなってきて、照れている相澤先生の顔をじーっと見てしまった。
「マキマキ、その顔で俺のこと見るの禁止。」
そう言うと相澤先生は顔をプイッとそらした。
「そんな物欲しそうな顔で見られたら理性が飛ぶ。」
えっ……私、そんな顔して……してたかも。
めっちゃ物欲しそうな顔で相澤先生のことを何度も見てたかも……
だって相澤先生ともっとイチャイチャしたかったんだもん。
「にしてもその下着、エっロ。」
今度は相澤先生が私のことをじーっと見つめ返してきた。
そう言えば私、下着姿のままだった……
「こ、これはマンネリ化した時用でして、別にちゃんとした可愛いのがあって……」
はだけていたジャケットの前を直そうとした手を、相澤先生に止められた。
「俺、こっちの方が好きかも。」
そんな熱っぽい目でマジマジと見られたら恥ずかしすぎる……
羽織っていたジャケットを、床にストンと落とされてしまった。
「あ、相澤先生?」
「……ちょっとだけ。」
相澤先生は私の腰を強引に引き寄せるとキスをした。
それは、毎日何度もされていた軽いキスとは全然違っていて、凄く…熱くて深いキスだった。
相澤先生に支えられてないと倒れてしまいそうなくらい刺激的で、酔ったみたいに頭がくらくらとしてきた。
ようやく私の口から離れた相澤先生が、息の乱れた声で聞いてきた。
「もうちょい…いい……?」
相澤先生の手が私の太ももに触れ、そのまま下腹部へと上がってきた。
えっ……どこまでする気?!
「マキマキ、やばいと思ったら全力で逃げてくれよ。」
いやもう、かなりやばくない?
相澤先生が首筋に吸い付くとチクッと鈍い痛みがした。
びっくりして鏡の方を見ると、はっきりとしたキスマークが鎖骨の上辺りに付いていた。
さらに唇は胸元へと下がり、指が下着の上から太ももの付け根部分をやらしくなぞる……
「も、もうダメです!相澤先生っストップ!!」
「逃げるなよ。」
相澤先生が逃げろって言ったくせにっ!!
全然止めてくれない相澤先生に壁際まで追い込まれてしまった。
「あー…ダメだわ俺、止められねえ。マキマキ、なんか萎えること言って。」
萎えるって……なにを?!
それって、その……相澤先生のが元気になっちゃってるってこと?
真っ赤になりながらもドラえもんのモノマネを披露したら、相澤先生のツボに入ったらしく大爆笑してくれた。
「なんだよそれ、完成度低すぎっ。」
「いきなりフラれても思いつきませんっ!」
危うく、誕生日前に貞操を奪われるところだった。




