第05話 ステータスの謎
私、アルサル、クルルの三人パーティーで挑むことになった乙女剣士認定試験。午前にブランローズ邸を出発し、ワープゲートを経て【いざないのキャンプ場】で、昼食というスケジュール。
――青い空、白い雲、小鳥の愛くるしい鳴き声、森の景色は観光地のよう……一見、長閑なキャンプ場には冒険者の姿がチラホラ。実のところ、ここは初心者レベル冒険者が基本を学ぶための、チュートリアル施設でもあるのだ。このキャンプ場を出ると、いよいよ連続バトルが待っている。
「よぉ〜し! アルサル特製【錬金術仕様、キノコたっぷり野菜カレー】が出来たぞっ。攻撃力、防御力がアップする食事効果が発動、新陳代謝が良くなって、午後のバトル試験もうまくいくはずだ」
流石は錬金術師というべきか、アルサルが手際良くキャンプ場の鍋や食材を使い、錬金カレーを作ってくれた。木の長テーブルに試験官に提出する分も含めて四人分、カレーが並べられる。私とクルルは特殊な錬金カレーは作れないけれど、フレッシュサラダやドリンクのアイスティーなどの準備を手伝った。チームとしてのキャンパー能力も、今回のテストの審査基準。
「ステータスを一時的に底上げする錬金術カレーは、冒険者としての評価ポイントも高いはずよね」
「えぇ……おそらく、キャンパーレベルとしてはいい線を狙えるかと……。あっ試験官の方が、来ましたよ。結構ベテラン風のブラックゴブリンさんですね。こんにちは! 本日はよろしくお願いします」
この辺りの施設を管理しているのはブラックゴブリン族達で、今回のテストは彼らの協力あってこそだ。はるか昔は人間族と敵対していたらしいが、今ではそれなりに距離を保ちつつ上手く交流を深めている。
最近まで女装してメイドをしていただけのことはあり、クルルが感じ良く試験官に挨拶。
「やぁこんにちは、今時珍しい乙女剣士認定試験のチームの皆さんですな。以前の乙女剣士の方から、かなりの年月が経っていますからなぁ……ははは。ブラックゴブリン連盟キャンプ担当のゴブリックと申します」
「はじめまして、紗奈子・ガーネット・ブランローズです。こちらはチームメイトの錬金術師アルサルと悪魔祓い師クルル。今回の食事テストのカレーは、錬金術師アルサルが作りました」
「こんにちは、ゴブリックさん。こちらが当方自慢の特製錬金カレーです。あらかじめ用意しておいた玉ねぎチャツネをベースに、キャンプ場の特産キノコをミックスしました。ステータス上昇効果の錬金素材も配合しています。お口に合うと良いのですが……」
私も乙女剣士の見習いとして、そしてチームの代表として失礼の無いように挨拶をする。連携するようにアルサルが、ささっと手作り錬金カレーを差し出す。
「ほう……では早速、食事のチェックを……おぉっかなり高い錬金スキルをお持ちのようだ。現地のキノコをふんだんに扱っていて、なかなかいいですぞ。しばらくぶりの乙女剣士誕生か……あの頃はワシも若かった。いやはや、次のバトル試験も期待しておりますよ」
「はいっありがとうございました」
人間とは寿命の異なる種族だけあり、ゴブリックさんは前回の乙女剣士とも顔見知りのようだった。けれど試験の規約上、向こうが話す情報以上詮索することは禁じられていて、詳細を聞くことは出来ない。このカレーはゴブリックさん自身の昼食にするそうで、カレーとサラダ・ドリンクをトレーに乗せてテントに戻っていった。
「無事に食事テストは突破出来たな……オレ達も冷めないうちに食事にしよう。ベテランゴブリンさんも認めてくれた錬金カレー、紗奈子とクルルもどうぞ」
「ふふっありがとう。錬金カレーってどんな感じかしら? いただきまーす……うん、ステータス上昇効果がありつつ、味も抜群。ちょっとだけ辛いけど、キノコがコリコリして歯応えもグッドよっ!」
「思ったよりハイレベルなバトルになるそうですし、ステータスアップ系の食事は重要ですよね」
三人で昼食を愉しんでいると、まるで本当にキャンプ場へ遊びに来ているような錯覚をしそうだが、これから本番のバトル試験だ。カレーを食べ終えて、書類を取り出しミーティングに移行する。
「認定試験の最初の難所【ブラックゴブリンの鍛錬場】か。迷宮を進み、ゴール地点にいる試験官役のブラックゴブリンと戦ってクリア。データによると、バトル試験官のレベルは平均30……」
「設定されているバトルの数が多いし、回復魔法が必須だろうな。MP回復ポーションをクルルの分も幾つか追加で作らないと」
「お嬢様の体力が切れないように、僕とアルサルさんでサポート攻撃も行って……」
以前のタイムリープでは、比較的簡単だった乙女剣士の認定試験。今回は、これまでのタイムリープで培った剣士レベルを引き継いだせいか、ワンランク高い内容だ。とはいえ、真ルートである今回の特徴は、パーティーメンバーが一人プラスされている。チームワークを活かせれば、どうにかして切り抜けられそうだけど。
そこでふと、チームメンバーのステータスがどれくらいなのか気になってしまい、ステータス画面を確認することに。
「そういえば、初めてのチーム構成だしステータス画面をチェックしておかないとね。スマホのアプリを立ち上げて……ステータスオープン!」
* * *
メンバー1:バトルリーダー
名前:紗奈子
種族:ヒューマン
性別:女性
職業:見習い乙女剣士/公爵令嬢
レベル:27
HP:1280
MP:600
技:先制斬り・さみだれ斬り・ガードの構え。乙女剣士認定試験合格後、開放スキルあり。
武器:見習いのショートソード
防具:女性剣士初心者セット・銀の胸当て
アクセサリー:魔法のブローチ・金の髪飾り・ムーンストーンピアス
メンバー2:サブリーダー
名前:アルサル
種族:不明
性別:男性
職業:錬金術師/庭師
レベル:29
HP:1400
MP:630
技:アイテム錬金・サポート精霊呼び・補助魔法基礎
武器:星屑のメイス
防具:錬金術師の正装セット
アクセサリー:銀のイヤーカフ
メンバー3:回復担当
名前:クルル
種族:ヒューマン
性別:男性
職業:悪魔祓い師/女装メイド
レベル:27
HP:1170
MP:670
技:お祓い・回復魔法基礎・補助魔法基礎
武器:初級聖職者の杖
防具:見習いエクソシストセット
アクセサリー:白檀のロザリオ・メダイ付きチャーム
備考:全メンバー食事スキルによるパワーアップ効果あり。
* * *
タイムリープの影響で引き継がれた経験値がある分、レベルはもうすぐ初級を卒業といったところ。自分のステータスはともかく、他のメンバーのステータスを見るのは初めてのため、何だか新鮮だ。順に見ていくうちに、一つだけ疑問点が……。
「へぇ……きちんと食事効果も追加されていて……あら、この種族名……アルサルの部分だけ不明になっているけど」
「あっ……本当ですね。お嬢様も僕もヒューマン族なのに、アルサルさんって別種族? うーん、アルサルさんはゼルドガイアだけじゃなく隣国の王の血も引いているし、種族は純粋なヒューマンじゃないのかなぁ」
そう、アルサルの種族名が何故か不明になっている。ヒューマン族が治めるゼルドガイア王国の血を引いている訳だし、てっきり彼もヒューマン族だと思っていたのに。
「んっ……あぁ。何代か前に精霊とかエルフとかがいると、種族は不明扱いなんだよ。多分、母親側の近いご先祖様がエルフか何かなんじゃないか? ほらっオレのイケメンぶりは、人間離れしてるだろうっ……なんてな。休んだら、そろそろ出発しよう」
「えっ……そうね。ついにバトル試験だもの……頑張らないと」
戯けて話を誤魔化しながらも、出発を急ぐアルサルを少し不審に思ったけれど……。その後のバトルの忙しさでアルサルの種族のことは、すっかり忘れさられるのである。だからアルサルの正体が、まさか一度死から甦ったホムンクルスだなんて、この時点で気付くことはなかった。




