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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
イベントストーリー【温泉ミステリー編】

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05:朝田有去(アサダユキ)の記憶のカケラ〜兄との温泉旅行〜


「じゃあ、出発は週末の早朝だよ!」


 異世界で腹違いの兄弟になったヒストリアの笑顔は、どことなく地球時代の兄に似ている気がした。就寝しながら夢の中では、もう会うこともないであろう地球の兄との思い出がグルグルと駆け巡っていた。



 * * *



 両親が離婚して身寄りがなくなったオレを助けてくれたのは、父が最初に国際結婚した時の妻との間に作った腹違いの兄だった。兄の方は白人の血を引くハーフでモデルのような色白美形であるため、ぱっと見はオレと兄弟に見えない。そんなところも、オレとヒストリアの関係に共通している気がした。こういう因縁というのは、巡るのだろうか?


 オレと兄の接点はそれほど多くなかったが、「たまたまビジネスで成功していた時期だから、学費くらい払ってあげるよ」とポンっと生活費や進学費用などを全て負担してくれた。1度だけ「交流を深めよう!」と言って、兄が温泉旅行に連れて行ってくれたことがある。男同士の兄弟2人で温泉というのも珍しいと思ったが。車で複雑難解なルートを通らないと辿り着けない秘境の宿は、男だけのサバイバルにはぴったりの場所だった。

 そもそも、山登りを趣味とする人達が記念に行くような場所らしく、立地もそれほど良いとは言えないところだ。兄が行きたくても、わざわざ秘境まで足を運ぶほどの温泉好きは周囲にいないかも知れない。


「知っているかい、ここの温泉はお稲荷様が作ったって噂があるんだよ。もし、神隠しに将来遭ったとしてもここの温泉に浸かっておけば、戻ってこれるらしい。お稲荷様のおチカラでね……真偽はともかくとして、それだけ治療効果が高いってことだ。さあ有り難くご利益を頂こう」

「ふうん……じゃあかけ湯もしたし、さっそく。うぉっ! ヌッルンヌッルンしてるなこのお湯。なるほど……それでご利益が高いってねぇ」



 身体の芯までほぐされるようなヌルヌルしたお湯に、兄弟並んでゆったりと浸かる。露天から見える景色は自然豊かという言葉がぴったりで、遠くまで山が広がる……こんな場所に温泉があるとは驚きだ。しばらくお互い無言でいると、兄の方から沈黙を破ってきた。


「ところで、有去ユキ君には、いい加減彼女は出来たかな? それとも……下宿先の紗奈子ちゃんというのが、やっぱり好きな子なのかな?」

「ちょっ……いきなり、何言っているんだよ兄貴。あー紗奈子のことは、そのうち……ね」


 突然の彼女詮索にどう答えて良いのか分からず、取り敢えず紗奈子のことは誤魔化すことに。


「うーん。もしかしたら、僕が君達の結婚に関するいろんな手配を手伝うかも知れないんだよ。せめて、今度会わせてくれてもいいんじゃないかなぁ」

「……紗奈子は、まだその……高校生で子供っぽいし、オレ達が恋人だってことは向こうの家族にもアイツの友人も知らないわけ。表向きはね……だからまぁ兄貴が会うなら、オレのカノジョとして会うわけじゃなくてあくまでも下宿先のお嬢さんとして……。あっスマホに紗奈子の写真があるから、それを見せるくらいなら」

「えっ……本当にいいのかい? 弟よっ! いやぁ保護者として、頑張って来た甲斐があったってもんだよ」


 他にもいろいろと雑談を交わした後に、温泉から上がる。あまりにもしつこそうだし、唯一親しくしている親族の兄に恋人の情報をあげないのも妙だし……部屋に戻ったら紗奈子のスマホの写真を見せることになった。


 館内着に着替えて廊下を歩いていると、ふと赤いお社が目に留まった。周囲には小さな白い狐さんがたくさんいて、これがお稲荷様かと納得。


「どうやら、ここの守り神様みたいだね。挨拶して行こうか?」

「ああ、油揚げとか持って来ればよかったな。代わりになりそうなものは……うーんと、さっき自販で買ったビールとか? まだ開けていないし」

「お稲荷様がビール好きかは謎だけど、何も捧げないよりかはいいかもね。お稲荷様、今はこれしか持っていないのですがどうぞ……」


 小銭とお供えをものを捧げて、再び部屋に続く廊下へと戻る。途中、仲居さんが「まぁ……お供えもの下さったんですねぇ。お稲荷様達も喜びます! ビールだなんて、ほら忙しくてお酒はちょっと控えているから……普段はあんまり飲めないし」とまるで、自分のことのように語っていた。


 温泉疲れのダルさが出て来たが、兄との約束は果たさなくてはならない。料理が来る前に、カバンからスマホを取り出して紗奈子の写真を見せてあげよう。


「ほら、兄貴……約束の写真」

「へぇ……どれどれ……」


 ――兄が、紗奈子の写真を見た瞬間……一瞬だけ兄の手が震えた気がした。誰か別の女性と勘違いしたのか、名前を呟いた気がしたけれど。


『……なんで、ガーネットにこの子は似ているんだ?』


 ちょうど仲居さんたちが食事を運んできて聴き取れなかった。


「うん、すっっごく可愛い子だね、確かにちょっと幼いけれど将来は有去ユキ君とお似合いになるんじゃないかなぁ」


 今宵のメニューは高級黒毛和牛のすき焼きがメインで、お酒と刺身も。普段は離れて暮らしているしあまり酒を飲む姿を見たこともない兄だが、案外飲める人らしい。


 オレ達兄弟は、もう一度この旅館に遊びに来る約束をした。次は紗奈子も連れて行ってやろうと、心に決めて。


アルサルが地球での本名の『朝田有去アサダユキ』で登場していますが、本人は名前を忘れている設定です。また、この話にたどり着くまで長くなってしまったため、本日の更新回数は少しだけ多めになってしまいました。

温泉ミステリー編の01〜04話までの序盤はコミカルに見えますが、伏線があります。今後ともよろしくお願いします!

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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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