02:宿泊チケットは、ご家族もオプションで参加可能です
アルサルと紗奈子が運良く温泉ペアチケットを引き当てていると、その現場に金髪碧眼の超イケメンが現れる。彼の名は、ヒストリア・ゼルドガイア……この魔法国家ゼルドガイアの第三王子にして紗奈子のもう1人の婚約者である。いろいろと複雑な話の流れで2人の男性と婚約状態の紗奈子だが、この2人は兄弟であるためそこまで揉めずに済んでいる……多分。
パチパチパチパチ……2人が当てたチケットを讃えるかのように、拍手をするヒストリアに商店街のみなさんの注目が集まる。福引きを担当するイケオジが、恭しくヒストリア王子にご挨拶。
「こっこれは、ヒストリア様……ご機嫌麗しゅうございます!」
「そんなに硬くならなくてもいいよ、さてその温泉宿泊チケットはペアだという話だけど。家族である僕もオプションで同伴できるのかい?」
「えっ……家族。はっ……あっあなたはヒストリア王子の弟さんのアルサルどのではありませんか? も、申し訳ありません……全く気づかず。もちろん、ヒストリア王子も含めてご家族で温泉旅行を楽しめますよう手配しますので……。一応、決まりですのでこの書類に家族追加の手続きを……」
別に「ヒストリア王子も一緒に温泉に行こうよ!」なんて、アルサルとしてはまったく思っていないのだが。自然の流れで乱入してきた兄を止めることが出来ず……ご家族追加オプションの契約が成立する。商店街も相手は王子とはいえ一応商売なので、オプション料金はバッチリ取るし、むしろ高級プランをここぞとばかりに推奨。気がつくと、貸切超豪華温泉ツアーへと変貌していた。
* * *
「ヒストリア王子、ところでどうしてこの商店街へ? 珍しくお買い物とか」
本当に偶然ヒストリアが商店街をフラついていると信じているピュアな紗奈子が、事の経緯をヒストリアに問う。
「あぁたまには僕も自分で『すき焼き』でも作って食べたいなぁと思って。食材探してフラフラ歩いていたんだよ! そしたら、2人が温泉宿泊チケットを当てている現場に遭遇したってわけだ。これも天使様のお導きなんだろうね……ふふっ。温泉旅行楽しみだなぁ」
「ヘェ……ヒストリア王子もすき焼きを……。そうだわ! 実はね、今夜私達もすき焼きにする予定だったの。ヒストリア王子も一緒にいかがかしら? ねぇアルサル、温泉旅行の計画も立てなきゃいけないし、そうしましょうよ」
「えっっ? あぁ別にオレは構わないけどさ」
アルサル的には2人で食べる好き同士のすき焼きパーティーを行いたかったが、愛する紗奈子の前ではヒストリア相手に悪い顔も出来ず。仕方なくヒストリア王子も込みで、すき焼きパーティーを一緒に行うことに。
「ありがとう! ではお言葉に甘えてご相伴に預からせていただくよ。じゃあ、僕の分の食材も追加して……そうだ紗奈子、超ランクの黒毛ビーフ肉を追加で買ってあげるね。卵は新鮮烏骨鶏、シメはおうどん、さらに食後のデザートは高級メーカー『ボーゲンドッシュ』のキャラメルアイスにしよう!」
「わぁ! ボーゲンドッシュのキャラメルアイスなんて久しぶりっ。ありがとう、ヒストリア王子」
「ふふっ喜んでくれて何より……さあ、日が暮れる前に早く買い物を済ませてすき焼きパーティーだっ!」
ゲストのくせに兄の権力で仕切り始めたヒストリア王子に唖然としながら、突然食材のランクが上がったためまぁいいかと思ってしまうアルサル。身分を隠すために『庭師』をしているアルサルの収入はそれほど多いとはいえず、かと言って貯金をおろすわけにもいかず。紗奈子は、ご令嬢であるにも関わらず倹約主婦のような雰囲気になっていたのだ。
一方でヒストリア王子は、大学に通う傍らギルドマスターという立場。これは俗に言う経営者ポジションであり……つまり兄ヒストリアは弟アルサルより高収入なのである。
夕陽が降りる中、食材をひとしきり購入した後は、アルサルのボックス型ハイブリッド車で帰宅。家族水入らずで、すき焼きパーティーを行うことに……。
――だが、この時までアルサルは知らなかった……自分の兄が『鍋奉行』と呼ばれる鍋料理仕切り属性の持ち主であることを。
 




