01：悲報――バカップル、温泉宿泊チケットを当ててしまう
これは、運命を断ち切る乙女剣士の宿命を背負った１人の少女とその彼氏、そしてその兄の温泉旅行の軌跡である。
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自らイケメンであることを自覚している、自己顕示欲の強い庭師アルサル。彼は自慢の亜麻色の髪を肩にかかる程の長さでふんわりパーマを決めながら、魔法国家ゼルドガイア随一の商店街で買い物をしていた。その傍で腕を組んで歩くピンクがかった赤毛をロングヘアに伸ばした美少女は、アルサルに比べるとかなり幼く年下に見えるが実のところ２人の年齢差はほんの少しで、さらに２人は恋人であった。
少女の名は『紗奈子・ガーネット・ブランローズ』といい、前世の記憶を持つ訳ありのご令嬢だ。紗奈子という名前からすると、まるで少女の方だけ『東の都』の出身であるかのようだが、ただ単に『紗奈子』は前世の名前である。さらに、アルサルも実は前世から恋人という因縁持ちで、実のところ紗奈子の家庭教師で下宿人の朝田先生である。
その前世から続くカップルの２人が何故仲良く異世界転生しているかは、「オレ達の愛は『永遠-フォーエバー-』だから、生きる時も死ぬ時も紗奈子と一緒だよ！」という朝田先生のマインドから察してほしい。また、朝田先生の下の名前がいつまでも不明であるが、案外朝田が『追いかけ転生』した時の呪いで紗奈子も朝田本人も思い出せないだけかも知れない。なので、朝田先生の下の名は、皆さんの想像に今のところお任せする。むしろ朝田先生の名前が判明したら、クライマックスが近いと言えるだろう。
様々な障害が常に彼らを襲うが、２人の絆は何よりも深く『永遠-フォーエバー-』なのだ……多分。
そんな永遠を誓い合っている迷惑な２人は、お互いのラブを深め合うために「今日は、すき焼きパーティーにしようか！ オレ達好き同士だから夕飯はすき焼きだねっ」とか心底どうでも良いジョークをかましながら食材を購入する。ラブな２人は、まだ今回のタイムリープでは一線を越えていないものの、ブランローズ邸の魔法庭園管理の館で同棲しており社会的にも婚約しているのであった。
夕方の商店街は人通りも多く、和を感じさせる店舗も多く、まるで日本の商店街を彷彿させる。日本人の前世を持つ２人にとっては馴染みやすい雰囲気に、定番のデートスポットと化していた。２人はカップルだから、大抵どこにいてもラブパワーでデートスポットに変えてしまうだけなのかも知れないけれど。
「ねえ、アルサル。さっき、あのお店で福引き券を貰っちゃったの。試しに引いてみない？」
「へぇ……福引きかぁ。どれどれ、一等は南の島ご招待、二等は温泉旅行、三等はお好きな大型電化製品……商店街にしては、かなり豪華だな。よし、紗奈子……お前が引いていいぞ」
運良く列が空き始めた瞬間を狙い、アルサルが紗奈子を列に並ばせる。
「うふふ、当たるといいなぁ……そぉれっ！」
コロコロコローン！
可愛らしい水色の玉がコロコロと転がる。
「おめでとうございます！ 二等温泉旅行が当たりました！ ペアでご招待でーす。いやぁ良かったですね……ふふっお２人はご兄妹なのかな？」
大人の色香漂う笑顔で、紗奈子にペア温泉チケットを手渡す福引き担当のイケメンなオジ様。ちなみにここは『乙女ゲーム異世界』のため、福引き担当のオジ様ですらヴィジュアル系のロン毛が決まるセクシーなイケオジイケボの持ち主。しかも、現役時代は乙女ゲームでイケメンモブ男子生徒役で一世を風靡した人だ。そこらじゅうの住民が、イケメンとイケボを極める異世界でアルサルは緊張感に満ちた顔つきで温泉チケットを奪うように受け取り……。
「いえ、こう見えてもオレ達は恋人ですっ！ 温泉旅行……行ってきますっ」
と、警戒心バリバリで紗奈子はオレの女だと言わんばかりに威嚇をするのであった。
そして、その２人の様子を守護天使のように観察する金髪碧眼の超イケメンが１人……。
「そうかぁ……温泉かぁ。2人で旅行なんてこれは、危険な予感がするよ。僕が紗奈子の純潔を守ってあげないと……ね」
