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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
第1章

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第24話 ただひとつの愛を貫く『乙女剣士』に


 仮契約の洞窟には、儀式用の魔法陣、聖なる泉、そして女神像。ただの石像かと思いきや、見れば見るほどガーネット・ブランローズ嬢にそっくりな石像。

 やがて、魔法のチカラが発動したのか……石像から美しい女性の声が聞こえてきた。


「……サナコ、早乙女紗奈子。わたくしの声が聞こえるかしら? あなた方の目の前にいる女神像……。其れこそがタイムリープ発生以前のわたくし、『ガーネット・ブランローズ』ですことよ。ごきげんいかがかしら?」


 まさか……とは思ったが、乙女ゲームの悪役令嬢にして麗しい美少女キャラクターとして知られている『ガーネット・ブランローズ嬢』ご本人だ。清楚、可憐、高貴……そして背伸びした少女特有の可愛らしさを持つ彼女の声が、洞窟中に響き渡る。


「こっこの声は……私の声に似ているけど、すごく気品があって……いかにも良いところのお嬢様って感じで。やっぱり、女神像はガーネット嬢本人なの? えぇと……ごきげんよう?」

「ええ。お元気そうで、何よりですわ。わたくし、断罪イベントで隣国から連れてこられたコカトリスという魔物に、石像にされてしまいましたの。わたくしの身を心配した魔導師達が、最も安全とされている契約の魔法陣の前に設置して、なんとか生き延びましたけど。もうどれくらい昔のことなのかしら……ただ、時間が巻き戻るせいで、愛しのヒストリア様はいつまでも十九歳のまま……」


 予想通りガーネット嬢は、かなり初期の頃のタイムリープで石像に姿を変えられており、長い時をこの場所で守られるように過ごしていたようだ。彼女を守るために設置されたということは、初期の頃のタイムリープでは周囲の人も彼女が石化しているときちんと認識出来ていた様子。

 けれど、今現在の私達の時間軸では、ガーネット嬢がある時間軸で石化したこと自体覚えているものは少なそうだ。


「えっ……ということは、同じ時間軸にガーネット嬢が2人いることになるぞ! けど、オレには中身は別人に感じるんだが」

「ふふっ。庭師アルサル……いつも、わたくしのヒストリア様と紗奈子を引き離す役割、ご苦労様ですわ。ちょっと積極的すぎて、見ていて気分が悪いこともありましたけど。でも、ヒストリア様はわたくしと結ばれる運命。例え、そこにいる『早乙女紗奈子を前世に持つガーネット・ブランローズ嬢』がパラレルワールドのわたくしだとしても、許されざることなのです」


 私の疑問は、ガーネット嬢が語る『パラレルワールド』という用語であっさりと片付けられてしまった。パラレルワールドとは、自分たちのいる世界と並行して存在するとされている別次元のことである。ところで、女神像ガーネット嬢からするとアルサルは、私とヒストリア王子がくっつくのを妨害する役割程度の認識のようだ。


 と、いうことは……女神像のガーネット嬢が好きな男性は『乙女ゲーム』の設定通り、正真正銘ヒストリア王子なのだろう。



「パラレルワールド……私って、あなたのパラレルワールドにあたる人間なの?」

「おそらく、そうでしょうね。石化している間に何度もタイムリープが行われて……。その間にわたくし、ちょっとだけ聖霊様や守護天使様と仲良くなりましたの。彼らの話で、タイムリープの歪みでパラレルワールドの住人が、同じ世界に住んでしまうことがあると知りましたわ。例えば、迷路などで迷っている間に神隠し的なものに遭遇して……気がついたらパラレルワールドだったってこともあるらしいです」

「迷路……思いつく迷宮っぽい場所は、身近なところだとブランローズ邸の『魔法の庭園』くらいだけど」


 ガーネット嬢の日常は身体が弱い設定からか、たまに女学校に顔を出して適当に勉強。それ以外は、自宅でお茶を飲んだり庭園を散歩したりと、一歩間違えれば療養めいた生活だ。振り返ると、頻繁に貧血やなんかで倒れていたような気がする。


「おそらく、あなたが日課としているお庭の散策をしている時にタイムリープが発生し……。そのまま転生者の魂を持つ状態で、わたくしの不在中に『この世界線のガーネット・ブランローズ』と認識されてしまったのでしょう」

「そ、そうだったんだ。えぇと石化は、他所の国の錬金素材を使えば解けるんだよね。まずは、錬金術でガーネット嬢の石化を解いてあげて、それから私が元のパラレルワールドに戻る方法を……」


 本物のガーネット嬢が復活した場合には、パラレルワールドの住人である『早乙女紗奈子の魂を持つガーネット嬢』は居場所がなくなってしまう。だけど、前世の記憶を取り戻した時にガーネット嬢を助けると約束したわけだし、石化の解除くらいは協力した方が良いだろう。


「ちょっと待てよ! ガーネット……いや紗奈子。お前は、オレと恋人になる約束をしているだろう! ガーネット嬢の石化が解けた後も、この世界線にずっと留まれよっ。あの口付けは、本気じゃなかったのか? オレは……世界中の誰を敵に回しても、神様から罰せられたとしても……それでも、お前のことが好きなのにっ」

「……アルサル。けど、私……前世の記憶を持つパラレルワールドのガーネットだし。アルサルが好きなのは……きっと」


 これまで、アルサルは私のことを好いていてくれたと信じていたけど。もしかしたら、彼が好きだったのは私ではなくて……。どうしよう、考えるだけで涙が溢れてきた。


「そんなはずは、ない! オレが好きなのは、ずっと『早乙女紗奈子の魂を持つガーネット嬢』だよ。きっと、何度も何十回、何百回タイムリープしたとしても、お前じゃなきゃダメなんだ。オレが育てた花をいつも愛でてくれる……子供っぽくてわがままで、泣き虫で可愛くて。オレが、お前を間違えるはずないだろう!」

「アルサル……私も、あなたのことが好き……!」


 ポロポロとほっぺたに零れ落ちる涙を、アルサルが優しく拭い取る。彼の焦げ茶色の目が、愛を告げるように微笑む。すると、私の心の奥にあった迷いが消えた。


「さあ、お互いの気持ちが確認出来た今がチャンスですわよ。今のあなた方なら、乙女剣士の契約が仮とはいえ出来るはずです。わたくしを……そして、ヒストリア様を絶望の淵から救済するには……。わたくし達の半身であるあなた方が、その繰り返される罪を……断罪の運命を断ち切ることで贖罪を果たしていくのですわっ。お互いの魂の名……即ち『真名』にかけて、契約の口付けを……!」


 女神像ガーネットに契約を促されて、私とアルサルは真正面から向き合う。

「真名……魂の名前、つまり『紗奈子』が私の真名?」

「ああ、お前の魂の名前は紗奈子なんだろう。オレにも父から貰った真名があるんだ……」


 私の真名は、前世の名前である『紗奈子』でいいのだろう。これまで知らなかったアルサルの『真名』を耳元でそっと教えてもらい……そして。


「愛してるよ、紗奈子。お前の魂を……前世も今世も。すべて、全部オレだけのものだ」

「アルサル……いえ、アーサー。私もあなただけ……もう迷わない。一生、永遠に……あなたのことだけが好き……。あなただけをずっと、愛します」


 柔らかく触れ合うような口付けから、お互いの熱を感じ取る永遠の口付けを交わす。


 ずっと迷ってばかりいた今までの私とはもう違う……ただひとつの愛を一生貫く『乙女剣士』に……!


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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