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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
第1章

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ヒストリア王子目線02:あと少しだけ、君の純潔を護りたい


 ――ついに、この日が来てしまった。婚約者ガーネットと腹違いの弟アルサルの気持ちが、通じ合ってしまった。

 遠くからボディガードのつもりで2人のやりとりを天使像の陰から見守っていた僕としては、焦る気持ちが抑えられなかった。


「好きだよ、ガーネット。お前もオレのこと……好き、だろう?」

「…………っ!」


 弟アルサルの色を含んだ男としての声色は、普段は絶対に聞くことのないものだ。まだ、生娘のガーネットにはやや刺激が強そうな繰り返される口付けは、もしかすると勢い余って今夜中に2人が男女の契りを交わしてしまうのでは……と不安になるほど。


 僕のなり振り構わない行動を見て、振られた男のお節介と思う人もいるだろう。僕が相手では彼女は周囲の嫉妬に巻き込まれて、幸せになれないのだから、ここは身を引くべきだと思うかも知れない。


 けれど、僕にはここで引くわけにはいかない事情があった。僕は何度もこの時間軸を繰り返す『タイムリープ』を経験している。だから、あとほんの少しだけ2人が契るのを遅らせなくてはならない。


 それは、彼女があと1日だけでいいから純潔でいてくれないと、『乙女剣士』になることが出来ないから。僕達の何度も繰り返される不幸なループを抜け出すには、『運命という名のメビウスの輪』を断ち切ることができる『乙女剣士』の伝説にすがるしかないのだ。



 * * *



 あれは、何度目のタイムリープだったか……アルサルとガーネットが初めて『男女の契り』を交わした時のことだ。


 庭園でのティータイム中に、貧血で倒れたというガーネットを見舞うため、婚約者として彼女の邸宅に向かう。正式なプロポーズでもするのではないかという大きな花束を携えて、ほとんど婚約破棄状態のガーネットの元へ。


 いわゆるお忍びで訪問したあの日……ブランローズ邸には、たまたま使用人の数が少なく、病気のはずのガーネットも部屋には不在だった。隣国に出かけた当主達の仕事の都合で、使用人も大勢外に出ているとのこと。


(だからといって、ガーネットがいないとは。おかしいな……アルサルにでも訊いてみるか)


 腹違いの弟であるアルサルは、父が他所で作った隠し子であるが、隣国の血も引いているため大事に育てられた男だ。男爵か辺境爵の爵位を名乗って、この辺りで暮らすことも出来たはずだが、何故か庭師をやっている。


 本人曰く、『ブランローズ邸には、魔法の庭園があって魅力的だ。錬金術の素材になるような花をたくさん見つけられるし、何と言っても美しい。オレにとっては、庭師が気楽なんだ』とのこと。けれど、彼がもっとも興味を抱いたブランローズ邸の美しい花というのが即ち、僕の婚約者である『ガーネット嬢』のことだったとは思わなかった。



 庭師という職業柄、アルサルは離れに部屋を借りていた。それほど大きくない部屋ではあるが、独立したスペースをもらえているというのは、彼がこの屋敷で優遇されている証拠だ。


 手入れされた美しい庭園を抜けて、アルサルの借りている『離れ』へと急ぐ。きっと、今日という日はそれほど人がいないことを前提としていた日で、あの2人も油断していたのだろう。


「あっ……はぁ、アルサル。あっあっ……ダメ、あぁんっ」

「はぁ……嫌じゃなくて、いいの間違いだろう?」

「やぁんっ。意地悪……はぁん……初めて、なのにっ」


 アルサルの部屋のドアを開けようとすると、何となく扇情的な女性の喘ぎ声が聞こえてきた。微かに響くベッドの軋む音といい、そういう展開が想定される。


(おっと……これは、もしかするとアルサルのヤツ、恋人とそういうことをしている『最中』というものか。参ったな……せめて、もう少し遅い時間にしてくれよ)


 もしかすると、僕が勝手に男女の情事の最中だと思い込んでいるだけで、アルサルと女性は足ツボマッサージとか、肩揉みの最中かも知れないけれど。若い男と女が密室で、そういった声を出しながらヤルことといえば、情を交わす方だろうと解釈した。


(しかし、初めての女性相手だなんて、妙なタイミングに訪問してしまった。今日は、ガーネットも見当たらないし、帰った方がいいか……)


 扉の向こうの恋人達の情事は、おそらく始まったばかり。女性の方が初めてだとかだし、いろいろ時間がかかりそう。


 まったくもって間が悪い僕は、聞いてはいけない2人の情事に遭遇し、挙句知ってはいけない秘密を聞いてしまう。



「愛してるよ、ガーネット」

「私もよ……アルサル」



 当時は思いもよらなかった組み合わせの2人の名に、時が止まる。本当はこの密室でのやりとりが情事であるかなんて、この目で確認していないから定かではない。だけど、2人が『愛してる』と囁き合っていたことは確かだ。


 その日、僕はガーネットへ手紙を添えてせっかく用意した大きな花束を、アルサルの部屋の前に置いた。



『ガーネット嬢、僕達の婚約は解消致しましょう。お幸せに』



 腹違いの弟に婚約者を取られた、想っていた婚約者をないがしろにしている間に取られてしまった。どうせ、ガーネットは僕以外の男のものにならないと、余裕になってしまったせいだ。


 ただ、想定外だったのはアルサルとガーネット嬢は、結ばれてしばらくしてから……亡くなってしまった。


 嫉妬に狂った僕が暗殺したのではないかとの噂も流されたが、いくらなんでも腹違いの弟と元婚約者を殺すはずがない。


 そして、タイムリープするたびに、ガーネット嬢は断罪時に誰かに殺されるか、アルサルと駆け落ちした追放後に……死んでしまうのであった。


(おかしい……どうして、ガーネット嬢は、何度タイムリープしても、どの時間軸でも亡くなってしまうんだ)


 不可解なタイムリープに気づいている少数のメンバーには、占星術師もいた。

 老齢しているが金髪の名残を感じさせる白髪の老人で、碧眼はすべてを見透かしているように達観していた。いつの間にか我が城を拠点にしていて、誰も彼には逆らえなかった。

 彼は時間の輪から抜けていて、もう何百年も城にいるという。我が王族のご先祖様ではないかと思われるが、詳細は不明だ。


 ガーネットの不遇について、彼はこう語った。


「彼女には、不幸の星が付きまとっています。運命のメビウスの輪を断ち切らない限りは……どうやっても助からない。可哀想ですがね」

「何か、運命を断ち切る方法はないんですか? 何度時間を繰り返しても婚約者も弟も死んでしまう。特に必ずと言っていいほど、ガーネットの方は……」

「純潔を失うのが、ほんの少しだけ早かったのでしょう。乙女座が彼女の守り神ですが、火星が彼女の運命を殺してしまう。乙女の純潔が守られているうちに、『乙女剣士』の契約でもさせて運命を断ち切ってしまうのが良いでしょうね。都市伝説のようなものですが、このまま貴方もタイムリープの輪に閉じ込められるより良いでしょう」


 乙女座が守り神とか火星が狙ってくるとか、占星術にはそれほど詳しくないので意味はよく分からない。けれど、乙女座がガーネットの処女を意味していて、軍神とされる火星はガーネットに手を出す我が弟アルサルであるような気がした。


「は、はぁ……輪に閉じ込められる。確かに……」

「運命というのは、ちょっとのズレが原因なんです。あの日、あの時、あのタイミングさえ避けていれば……みたいなことがね。ですが、どうやらあなたの婚約者と弟さんは、どうしても結びついてしまう。愛し合ってしまうのでしょう。それを良い方向に変えることも可能です。運命を断ち切れば……ねっ」


 さて、今回のタイムリープこそ運命の輪を断ち切れるだろうか? そして、今回の時間軸こそ3人とも健在で、この三角関係にケリをつけられるだろうか。


 答えは明日の契約で……儀式の成功を祈りながら眠る。


 ――ちょっとだけ訂正、嫉妬じゃないと言ったけど。本当は嫉妬してたに決まっている。だって、いつの時間軸でも僕が彼女の純潔の花をもらう前に、あの弟が清らかな花を奪ってしまうのだから。


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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