第14話 はじまりと終わりのホロスコープ
従来のクエストが波動実験の影響で中止になったため、魔法鉱石研究所の調査クエストを引き受けることにした私とクルル。出発前に、波動のせいで倒れてしまったアルダー王子のお見舞いをすることに。
治療魔法や医師の薬のおかげで何とか意識を取り戻したアルダー王子だが、まだ顔色が優れず熱も下がっていないようだ。
「せっかく初めての共同クエストなのに、情けないところを見せちゃってカッコ悪いな。心配かけてごめんね、サナちゃん、クルル君」
「ううん、何とか持ち直したみたいで、ホッとしたわ。はい、これ被害者の人たちに配られている波動よけのお守り魔法石よ。私が貰ったアメトリンチャームの仲間みたいだけど……不思議な形よね」
波動よけとして被害者に配られているアミュレットは、六芒星を立体にした銀の囲いの中にアメトリンを内包したもの。銀細工と繋がるように、短めのチェーンが一本付いている。構造上首から下げることは不可能なので、ペンダントではなくダウジングなどに使うもののようだ。
「ありがとう。多分、アメトリンをアミュレットタイプに細工しているんだろうね。一時期魔法使いの中でも魔除けアイテムでアミュレット作りが流行ったんだよなぁ。あの時のアイテムを持ってくればよかったよ」
「それはマカバスターという形のアミュレットですね。身体に合わない波動を受けてしまっても、内面から癒すチカラがあるんです。ダウジング用のアイテムですが、チェーンを衣服に取りつけたり、ベッドサイドや枕元に吊るして悪夢よけにしたり出来んです」
「クルル君は詳しいな。流石は、エクソシストだね! じゃあ、枕元に吊るして悪夢よけをしておこう」
プロエクソシストのクルルのアドバイス通りに、マカバスターを枕元に吊るすアルダー王子。ゆらゆらと輝く立体型六芒星は、オシャレなインテリアアイテムのようで可愛らしい。
「なかなか部屋に合ってるじゃない。これでひと安心だわ。それじゃあ、私達はそろそろ……」
「うん、二人の無事を祈っているよ。気をつけて……」
* * *
研究所の調査と言っても、表向きはきちんとした魔法鉱石を作っている国公認の施設である。わざわざ調査が入ることになった理由としては、波動実験暴走だけでなく、他にも何かの危険な実験を行っているのではないかという疑惑が出たからだ。
薔薇柘榴島内の移動はバスがメインで、グルグルと入り組んだ道を通り抜けてようやく魔法鉱石研究所の塔へと辿り着いた。
「ここが魔法鉱石研究所ね、なんていうか肉眼でも分かるくらいピリピリとしたオーラが漂っているんだけど」
「おそらく、霊感の有無関係なく肉眼で確認できる範疇の、強い魔法エネルギーを排出しているんだと思いますよ。僕のいた神学校では使用しなかった類のエネルギー実験も行なっているのでしょう。違法になるかならないかの……」
宿泊施設の窓から見えた塔の様子からは気づかなかったが、間近で見ると紫色のオーラに包まれていて如何にも魔法の怪しげな実験を行ってそうな雰囲気だった。クルルの見解が正しければ、調査対象になっても仕方がないくらいの違法ギリギリ実験も行ってそうだ。
「ちょっとだけ怖いけど、行くしかないわよね。それがクエストだし……。ごめんください、ギルドから派遣された調査の者です。今回の波動実験の現場を見せていただきたいのですが」
来訪者としてベルを鳴らして、調査員としてギルドから派遣された旨を伝える。すると、私よりもさらに小柄な背格好の可愛らしい少女が、ちょこまかとした動作でドアを開けてくれた。少女は紫色のローブに揃いの三角帽子、ぱっちりとした大きな瞳と亜麻色の髪を耳の下でツインテールに結んでいる。
「はわわっ。やっぱり調査が来ちゃったんですね。少々お待ちください! はぅうっ。私、この魔法鉱石研究所所長ガブロ様の助手を務めております、ホビット族の魔法使いマーリナイトと申します。こう見えても、年齢は百歳は過ぎているのですっ。決して子供が働いているわけではありませんのでっ!」
どうやら少女に見えるのは容姿だけで、実年齢は結構いっているようだ。けれど、彼女の仕草や話し口調は見た目年齢と合致していて残念ながら子供のそれに見えた。
「ホビット族だから、いつまでも少女でいらっしゃるのね。納得したわ」
「ち、違います! 私は、少女ではなく大人の女……いえ大人の魔女、美魔女なのですっ!」
いろいろと年齢が若く見えることについて言い訳をしているが、彼女がホビット族であることを踏まえると不思議ではない。そして失礼かもしれないが、マーリナイトさんはいかにも魔法実験に失敗しそうな感じだなと思ってしまった。
これ以上年齢について言及しても仕方ないと思ったのか、クルルがクエストの本題に入るために書類を鞄から取り出す。
「あはは……流石はホビット族なだけあって、随分とお若く見えるんですね。僕よりも目上の方だとは。では、早速ですがこの書類を担当者の方に……」
「はうっ目上……生まれて初めての目上扱い……良き!」
一応、目上扱いされて嬉しかったのか単純にイケメンに弱いのか、真相は定かではないがマーリナイトさんの機嫌が治ったようだ。
「ええと、担当の方はどちらに?」
「実は、この研究所で実務を行なっているのは私とガブロ様だけなのですっ。他の人員は何と言うか、バイトさんが多いので。立ち話も何ですから、中へどうぞ……」
エントランスは占星術のホロスコープが床に描かれていて、こちらの世界にやって来た時に見た聖堂のホロスコープとデザインが似ていることが気になった。
けれど、きっとそれは偶然じゃない。
はじまりと終わりを統括する場所に足を踏み入れてしまったことに、私達はまだ気づいていなかった。