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第13話 夢の先にそびえる塔


 悪夢からようやく覚めて、哀しい気持ちを引きずりながら身支度をする。赤く長い髪を梳かす姿を映す鏡の中には、私以外にロードライトガーネット嬢が存在しているのだ思うと、自分とは一体誰なのか改めて考える。


『私は貴女、貴女は私』


 断罪されたロードライトガーネット嬢を受け止めて、聖女サナは融合の儀式を行った。その結果が私の今現在の姿なのであれば、私はロードライトガーネット嬢であり、ロードは私になったのだ。


 私を含めた三人が、紆余曲折を経て一人の人物として集約されてしまった末に【乙女剣士】となった。複雑に絡まって見えていた運命の赤い糸の正体が、それぞれ乙女が複数人いるだけだという裏事情が見えて辻褄がようやく合う。


(あれっ? 私とロードが融合した上で、鏡の向こうのパラレルワールドに渡って、石像化されたガーネット・ブランローズ嬢に成り代わってしまったのよね。つまり、私は三人いるってこと?)


 名前も顔もよく似ているので、サナ、ロード、ガーネットの三つの名称に分けて呼ぶことにする。


(リーアさんの婚約者はロードで、ヒストリア王子の婚約者ガーネットとすると、カップルを比べても鏡のように対になるわ。そこに異世界転生者の私が三人目として加わったから関係性が複雑になったのね)


 対となった鏡の世界同士の二人がどちらも消えて、二人の間に入るように異世界転生者の私が両方の役割を同時に担うことになるとは。彼女達ですら、夢にも思わなかっただろう。


「せっかく生き残った私が俯いてばかりじゃ、ロードにもガーネットにも申し訳が立たないわ。さてと、まずは魔法鉱石発掘作業をモンスターに邪魔されないように、討伐クエストを頑張らなきゃ」


 しばらく頭の中でこの不思議な因縁について夢の続きと一緒に検討していた私だが、身支度を終える頃には今日のクエストに向けて気持ちが切り替わっていた。



 * * *



 クエストメンバーとの待ち合わせ場所でもある食堂へと向かう途中、他の冒険者達が医務室の前で列を作っているのを目撃する。頭を抱えている人が大半だが、昨日まではなかった列にギョッとしてしまい思わず医務係の白魔法使いの女性に声をかける。


「あの、体調不良の方が大勢いらっしゃるようですが、何かあったんですか?」

「実は、昨日の夜に魔法鉱石研究所で波動実験を行ったらしくて。波動を受けてしまったクエスト参加者の方々が、治療を受けに来ているんです」


 今回の団体参加型クエストは、東方の雨宿りの里で落ちてしまった橋を掛け直すために必要な魔法鉱石の納品だ。正確には……発掘作業はプロの炭鉱夫が行い、私のような剣士や魔法使いは炭鉱をモンスターから守るために駆除作業を行うのがメインだが。


 無事に採掘された魔法鉱石は、炭鉱で採掘された原石のまま魔法鉱石研究所に送られて、橋をかける工事の素材になるよう加工される。そしてそれを船で東方に送って、橋の素材として利用してもらう……という予定のはず。

 波動実験がどんなものかは想像つかないが、魔法鉱石の加工に関わるものの可能性もある。


「魔法鉱石研究所って、この島で採れた原石を加工したり研磨しているっていう?」

「ええ。波動避けになる特定のアイテムを所持していた場合には、大丈夫だとかで。お客様のように女性の宿泊者の方には、酔い止め効果のあるアメジストが混ざっているアメトリンをお配りしましたから、極端な体調不良にはならなかったようですね」


 昨日貰った女性限定アメニティの中には、化粧水などの美容関係のセットの他に、アメトリンという鉱石のチャームがついていた。今は、スマホケースにストラップとして装着している。


「あっ……そういえば、昨日もらったアメトリンってアメジストとシトリンの両方の効果があるんだったわ! じゃあ私はみんなの分まで、モンスター駆除に励んで……」

「そうしていただけるとありがたい気持ちはありますが、まだ波動実験の余波がありそうなので。今日のクエストは、無理なさならない方が無難ですよ」


 私に優しく忠告をして、白魔法使いの女性は治療作業に戻っていった。列に並ぶ人々を確認しても、クルルやアルダー王子の姿は見当たらないし、そのまま合流場所の食堂へ行くことに。


 体調不良の人が増えたせいで席がガランと空いて少し寂しげな食堂には、既にクルルの姿があった。だが、彼と同室のアルダー王子の姿が見当たらず、もしかすると波動実験で倒れたのではないかと不安になる。


「おはよう、クルル。ごめんなさい、ちょっと遅れちゃった」

「紗奈子お嬢様、おはようございます。既にご存知かと思いますが、実は波動実験の影響で大勢の方が倒れられていて、今日のクエストは中止になりそうだと。それと……アルダー王子も……今、部屋にお医者様がいらして診てもらっています。治療はしておくから、僕達は朝食を摂っていいと……」

「やっぱり……その波動実験っていうの、随分と強力だった見たいね。あら、でもクルルは平気そうよね?」


 まさか『クルルは女の子みたいな外見だから、実は女性限定アメニティを貰っていて、たまたまアメトリンのおかげで助かったの?』と思ったけど、失礼かもしれないのでそれ以上は言えなかった。


「詳しい事情は、食事しながらお話ししますよ。今日も、朝食は東方風朝ご飯みたいですよ!」

「へぇ……白米、お味噌汁、卵焼き、魚の麹焼きに肉じゃがまで! アルダー王子のことは心配だけど、まずは腹ごしらえしないと。いざという時に動けないものね」


 一応この島はゼルドガイアに所属しているが東方からの船便も多く届くだけあって、料理のメニューも三分の一が東方風だという。日本の家庭料理を思い起こさせるホッコリとした肉じゃがに癒されながらも、やはり今朝倒れてしまったアルダー王子のことが心配だ。

 同室のクルルは無事なのに、何故……という疑問も残る。



「僕の通っていた神学校って、波動実験の類いもエクソシストの授業の一環で行っていたんです。だから、耐性がついているというか……」

「あっそういうことだったのね。それで、波動実験って具体的にはどんなことをするの?」


 クルルが無事だった理由はただ単に、波動実験の経験者で慣れているというだけだったようだ。変なことを言わなくて良かったと、内心胸を撫で下ろす。


「鉱石の波動を魔法陣などの術式で上げて、装着者の魔法が効きやすいように調整するんです。強力なアミュレットや魔法の杖なんかは、鉱石そのものの力に加えて波動を上げたものである場合も多いんですよ」

「へぇ。随分とその波動っていうのが、魔法力に影響するのね。この島はいろんな魔法鉱石の採掘地だし、実験場を作るにはちょうど良かったんでしょうね。ただ、研究所から離れた場所まで影響があるなんてびっくりしたけど」

「たまに、今回のように鉱石に波動が収まりきらなくて、外部に漏れてしまうこともあるんです。アルダー王子も波動を上げた鉱石を装備したわけでもないですし、数日で回復すると思いますが」


(私が見た夢も、その波動実験の影響だったのかしら。幸い、体調不良にはならなかったけど)


 外部まで伝達する波動の凄さに若干の不安を覚えて、窓の向こうにそびえ立つ魔法鉱石研究所の塔を見てしまう。まるで今朝の夢の続きがあの塔にある気さえしてしまう。

 結局、今日の一般クエストは中止になってしまったが、この状況を調べるためにひとつだけ緊急クエストが追加された。


【急募! 緊急クエスト】

 魔法鉱石研究所の波動実験を調査せよ。

 今回の実験の影響を受けなかった方のみに、依頼を送っています。二人一組以上で、調査員として出向してもらいます。

 エクソシストや巫女、シャーマン、聖女などの特殊な職業の方にオススメの案件です。

 


 スマホに届いたクエストの内容は、波動実験に耐性のあるクルルと聖女の剣士版である乙女剣士を目指す私にピッタリな内容だった。


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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