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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
第6章

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第06話 画面越しに見るもう一人の彼


 ――その報せに、思わず眩暈がした。


『緊急速報です。旧ギルド本部が、魔族集団に襲撃を受けているとのこと。建物内部では未だに戦闘が行われていると推測されます』


 ゼルドガイア本土で起きた『旧ギルド本部襲撃事件』は、今しがたようやくテレビでその様子を中継されるようになったそうだ。正確には事件そのものは今より数十分は前に起こっていたそうで、遠巻きの中継の他に旧ギルド本部の周辺を上空からドローンで撮影したものが流れている。

 海軍の隊員もテレビのあるラウンジに集まり、今の状況についてあれやこれやと話している。ザワザワと落ち着かない空間で、ただ一人厳しい空気を纏っているのはアルダー王子だ。


「どうしよう……アルダー王子の悪い予感が当たってしまったわ。じゃあ、今リーアさんは?」

「もし、建物内部に居られるのなら戦闘中でしょうね。僕達がすぐにUターンして戦闘に加わるにしても、数時間はかかりますし。中継の内容次第でどう動くか考えるようでしょう」

「そうよね、アルダー王子は……。話しかけられるような雰囲気じゃないか」


 アルダー王子は隊員達から少し距離を置き、壁にもたれ腕を組み温厚なイメージからは想像出来ないくらいの眼差しで、テレビの中継に無言で耳を傾けている。話しかけようとしたが、もしかするとリーアさんに関する情報が今後入るかも知れないし、私とクルルは並んでテレビから流れる声に集中するしかなかった。しばらくすると、幾つかの有力情報が追加された。


『通常時は図書館や武器庫として利用されている旧本部ですが。入手した情報によると、今日はギルドマスターのリーア王子が、よそのギルドとの業務契約のために偶々部屋を使用していたとか。魔族の狙いは、リーア王子でしょうか?』


 推測通り、リーアさんはお仕事のために今日は旧ギルド本部に訪れていたようだ。ということは、残念ながらリーアさんは完全に今回の襲撃事件に巻き込まれてしまったことになる。

 ギルド旧本部の建物は、魔族が外で暴れるのを防ぐために魔法による結界が施されていた。一般市民を守るために、敢えて建物の内部のみでカタをつけるつもりなのだろう。


『武器庫で保管されている重要指定レベルの武器を脱略するための襲撃だという説もありますよ。魔族という存在自体、現代で遭遇するなんて夢にも思いませんし』

『有名どころでは大賢者様が帝国から独立した際に使用したとされるヘルメスの杖が挙げられますが、あの装備は現在使いこなせる者がいないという話です……。ならば、魔族であれば使用できるということなのでしょうか?』

『一説によると、この世界が幾つかのパラレルワールドに分離した影響で、ヘルメスの杖を使うための大気中に漂う魔力そのものが減少したせいとも言われています。大魔法の部類が使えなくなった要因もそこかと。ですから、いくら魔族といえどもこの世界でヘルメスの杖を使うことは難しいのではないかと』


 名門魔法学校の学者先生達が、大気中の魔力エネルギーの話を中心に魔法概念について熱く語っている。けど、そこまで魔法に詳しくない私にとっては難しい理論はチンプンカンプンである。かろうじて、大気に漂う魔力が魔法の源だという『酸素があれば呼吸が出来ます』的な豆知識だけは今回で理解が出来た。ただそれを活かしてどこまで魔法が使えるかは、本人次第というわけで。


 私のジョブである乙女剣士という職業は、契約パートナーに魔力に依存する魔法剣士のようなものだ。タイムリープ以前に剣の手習い程度だった私が、かつてコカトリスレベルの化け物を討伐出来たのは、乙女剣士契約の中心人物となるヒストリア王子やアルサルがハイレベルの魔力の持ち主だったからだろう。


(あれっ。でも大気中の魔力に依存する説が正しければ、この世界のヒストリア王子のポジションに該当するリーアさんでさえ大賢者ではないのよね? 二人の魔力の差は住む世界の大気魔力数値の差ってこと?)


『いやはや、魔族に気づかなかったのは数百年間封印状態だった異空間に通じるゲートが、いつの間にか開いていた……ということに気がつかなかったのと同義語です。危機管理をもっとしっかりしなくては……』

『えぇ。帝国支配から逃れて以降、少しずつ平和ボケしていたツケが来たのやも知れませんな。おやっ……建物内から誰かが……。あれは、リーア王子?』


 ザワザワ……!


 中継もそれを固唾を飲んで見守る今いる部屋の面々も、戦闘がひと段落ついたと思われる建物から現れた人物に騒つく。


『リーア王子、よくぞご無事で。その杖は、まさかヘルメスの杖でしょうか。現代のゼルドガイアにおいてその杖を装備出来る人物はいない、との噂でしたが』

「ゲートが開いたことでヘルメスの杖を装備出来る魔法力が、今のゼルドガイアには充満しているということです。魔族達は手強い相手でしたが、運良くヘルメスの杖のオート魔法が効きましたので」


 金髪碧眼の麗しい王子様が蛇の飾りの付いた杖を手に持ち、落ち着いた様子で報道陣の質問に応える。


『トレードマークだった長い髪の毛が心なしか少し短くなられましたが、やはり此度の戦闘で切られたのですか? それだけ戦闘が激しかったという解釈でよろしいですか』

「えっ、ええ。これはまぁ。肩まであれば後ろで結べますし、そのうち髪は伸びるでしょう。それに僕の髪より皆の命の方が大切です」

「ミャミャッ。正式な発表はギルド経由で後ほど伝えますから、我々はそろそろ失礼させて頂きますにゃ。ご足労ありがとうございましたにゃ」



 次から次へと質問攻めになりそうなところで、例の猫耳ボディガード『ミュゼットくん』が報道陣を一旦シャットアウトしてリーアさんらしき人物を車に乗せる。


(杖と魔導書を片手に会釈するリーアさんは、何だかとってもヒストリア王子に似ていて……? えっヒストリア王子?)


 とある仮説を立てて、背筋がヒヤリとする。あのリーアさんはリーアさんのことしか知らない人であれば、肩ほどの長さに髪を切ったリーアさんなのだろう。けれど、ヒストリア王子を知る私から見れば、あの人は……どう見てもヒストリア王子本人で。


(どうして、この世界にヒストリア王子が……。リーアさんは、一体どうなってしまったの?)


 疑問を口に出せないまま、テレビ画面越しに、王子様が立ち去る様子を見守るしかないのであった。


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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