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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
第6章

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第03話 鏡の向こうに見る王子様〜リーア視点〜


 ――まるで鏡に映る自分が語りかけてくるようだった。


 そんな錯覚を覚えるほどに、我々は似通っていた。まだ彼の麗しさに気がつく前の【初対面】では、そのように感じていた。


「リーア・ゼルドガイア様、これまでの経緯は親書にて拝見しました。そちらの世界へと転送された紗奈子とクルルを保護して頂き感謝いたします」

「あぁヒストリア君、頭を上げて。私はギルドマスターとして、こちらの世界のゼルドガイア王家として当然のことをしたまでだよ。それにキミは、もう一人の私だ。兄弟か何かだと思って、気軽に話してくれると嬉しいな」

「もう一人の自分。一体、どのように会話を交わしたらいいのか、実際のところ迷っていたんです。パラレルワールドの設定を受け入れて、縁者のように言ってもらえると、ホッとします」


 モニター越しに深々と頭を下げる若者に、慌てる私。彼こそがパラレルワールドのもう一人の私、ヒストリア・ゼルドガイア君だ。けれど、似ている点と同じくらい違う点も段々と見えてきた。

 私よりも幾つか若く、私よりも儚げな雰囲気を漂わせたヒストリア君は【金髪碧眼の麗しい御伽噺の王子様】そのものだった。



「ふふっ。これでも王宮に側室の息子として認定されるまでは、庶民的な市井で暮らしていたからね。袖振り合うのも多生の縁、という東方の諺を大切にしているんだ。パラレルワールドの自分自身なら尚更だよ」

「えっ……リーアさんは、側室の息子さんだったのですか? こちらのゼルドガイア王室では、弟のアルサルだけが内縁の息子で僕を含める上の二人の兄も全員王宮育ちなんです。そうか、細かい設定までが異なるのか……或いは鏡のように左右対称となる仕組みがあるのか? はっ……すみません、つい考え事を」

「いや、気にしないでいいよ。鏡のように左右対称というのは的を得ているのかも知れないね。右をクリックしたつもりが左だったくらいの分岐点の差がありそうだ。どうやら歴史の流れすら微妙に異なるらしいし。私と君が似ていても、ところどころ違うようにね。例えば私は長髪の三つ編みだが、キミはセミロングくらいの長さだろう。声だってキミの方が軽やかだ」


 鏡の世界の私との対話は、夢でも見ているかのような不思議な感覚だった。声色は私よりも些か高く、落ち着きの中にも初々しさが感じられる。

 髪の長さは肩のあたりまでの緩いウェーブがかったヘアスタイルで、腰まで伸びる三つ編みの私とはだいぶ印象が違う。


 そう……もう一人の自分と言いながらも、実は細かい点は多数異なっていて、生き方や環境が違うと人は別人になるという良いお手本のようだった。

 最も、髪型をどちらかがお揃いにし、服装や物腰をどちらかに寄せていくと……私とヒストリア君の見分けをつけるのは難しくなるだろうが。


 ヒストリア君はもう一人の自分が側室の子だったことに驚きながらも、どこか納得している様子。


「容姿のところどころの違いのように、歴史の流れも違うのは当然という訳なのでしょうか。僕は正室の息子と言っても第三王子ですから、将来的にはブランローズ公爵家に入婿状態になる予定だったんです。まぁ紗奈子が乙女剣士の修行をすることになり、婚約そのものが曖昧になりましたけど。王位を継がないという点では、僕もリーアさんも似ているのかな」

「そうかも知れないね。残念ながら、こちらの世界線ではブランローズ公爵家そのものが途絶えているから、公爵家を継ぐルートすらなかったけどね」

「えっ……ブランローズ公爵家といえば、数代前までは王家と対等だったのに」


 ほぼ王族と同等扱いであろう公爵一族が途絶えている背景は、帝国支配の歴史の長さの差異だろう。けれど、この場で帝国時代について延々と語っては本題が終わらなくなるため、掻い摘んで説明をすることに。


「こちら側は帝国領時代が長い間続いて、ここ数十年でようやく独立。そちらは帝国領の歴史は遥か昔に終焉しているのだろう? ブランローズ公爵家は、帝国支配からの圧迫でゼルドガイア王家と合併する形で途絶えたんだ。同じ名の魔法国家ゼルドガイアといえども、内情が違うのは仕方があるまい」

「へぇ……では流通や文化交流も詳しく調べれば、違いが多いのか」

「うん。交流といえば……そうだね、一番の違いは……ミュゼットくん、ちょっといいかな」


 ボディガード役の猫耳青年のミュゼット君をモニターのそばに連れてくる。異文化交流の代表のような種族といえば、ケモ耳族だ。動物のような耳と尻尾がある異種族で、私の常識からは身近な存在だけど紗奈子は結構驚いていたらしい。ということは、ヒストリア君からしても馴染みのない種族のはず。


「にゃにゃっ? オレがこんな大変な場に混ざって平気なんですかにゃ。あっお初にお目にかかりますにゃ。オレは、猫耳族のミュゼットという御庭番猫ですにゃ。リーア様には子猫の頃に拾われて、それからずっと一緒なのにゃ。リーア様の魔力で今では人型モードもお手のものなのにゃ」

「ね、猫耳の少年っ……いや失礼、一応青年なのかな。初めましてミュゼットくん。ふふっ。キミにとってリーアさんはご主人様というわけだね。僕も猫は好きで王宮でも飼っているけど、人型モードになれる子はいないからね。そうか、猫耳族の猫だけが人型モードに移行可能だったのか。てっきり御伽噺か何かかと……」

「ヒストリア様の世界では猫耳族は御伽噺でしたかにゃ。びっくりですにゃ」


 私と似て非なる若者にミュゼット君は戸惑いながらも、ちょっとした世間話を愉しんだようだ。お互いの差異について認識出来たところで、ついに本題へと移行する。


「では、予定通りギルド協定に基づきお互いのギルドを連携先として契約しましょう。書類は……すべての項目にチェックが出来たらサインをして魔法で転送……でしたよね」

「そうだね。こちらの書類は既にヒストリア君の方のギルド上層部……いわゆる教会庁に転送済みだ。ヒストリア君にだけ手間取らせて悪いが、今ここで確認を頼むよ」

「早速……」


(しかし参ったな、気軽に話しかけて欲しいなどと言いつつ、終始緊張していたのは私の方だ。自分自身と似ているはずなのに、こうも印象が違うとは。市井育ちの私と違って彼は正真正銘、王宮育ちの王子様らしい。仕草の一つ一つ繊細だし、声も掠れてすらいない。もしかすると、葉巻や煙草の類も吸わないのだろうか?)


 ヒストリア君の王子様ぶりは容姿だけにとどまらず、いわゆるオーラが違うというものだ。サラサラと万年筆で書類にサインをする姿すら、聖者を描いた絵画のようである。私は所詮、ヒストリア君に比べたら、しがない庶民だと痛感する。

 産まれたときから王宮で育っている弟のアルダーにすらそんな感情を持たないことを考慮すると、きっとヒストリア君という存在は【何処か浮世離れして特別】なのだ。

 そんなことを考えていると、書類にサインをし終えたヒストリア君がこちらに契約書を転送してくれた。


「ふう。これで、ギルド間の連携は完了か。これからも定期的に連絡を……」


 胸を撫で下ろしたと同時に、館内に突然の警戒音が響く。


 ジリリリリリリ……!

 ジリリリリリリ……!


『敵襲、敵襲! 総員は、直ちに戦闘体制に入って下さい。繰り返します』


 続いて館内のギルドメンバーに臨戦の案内放送。見た目こそ大きい旧本部だが、今では倉庫や図書館としての役割がメインで人員は少なめ、防戦がメインになるだろう。


「ミュゼットくん、サーチ魔法で状況を調べてくれ。戦力的に見て防戦一方では崩れるのも時間の問題、退避ルートを確保したい」

「はっはい。えっ……そんにゃっ。さっきまで何の気配も感じられなかったのに。リーア様、退避ルートはおろか建物の周囲を囲まれてますにゃっ。おかしいですにゃ……まるで、突然空間が切り替わったような」

「まさか、パラレルワールドと連携するために時空を切り開いた影響で……?」


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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