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転生公爵令嬢改め、乙女剣士参ります!  作者: 星里有乃
第4章

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第13話 初代乙女剣士の記憶:02


 前世の回想とも言えるヴィジョンが一旦終わり言葉を失っていると、再び機械的な女性の声が聞こえてきた。


『因果のヴィジョン1が終了しました。ヴィジョン2開始は、次の因果が起きたホロスコープが再現される頃になります。それまでは聖堂で、サナとクルーゼの前世の追体験をお楽しみください……滞在期間中の部屋も用意してありますのでご安心を……』


 ガチャンッ!

 出入り口が無いように見えていた聖堂だが、突如ドアが発生した。廊下の先にはもう一つ部屋があるようでおそらく、そこが自室という設定になるのだろう。床に描かれた占星術のマークも、いつの間にか消えている。


「えっサナとクルーゼの前世の追体験って何? そもそも、今ってレディーナさんと闘技場でバトルしている最中だったはずよね。魂だけ異空間に飛ばされているだけで……のんびり追体験だの、次のヴィジョン待ちだのしている場合じゃないと思うんだけど」

「これは推測ですが、異空間の聖堂と現実では時の流れ方が違うのかと。見て下さい、この懐中時計……この異空間に飛ばされた時から殆ど時計の針が止まっているように見えますが……僅かに秒数が進んでいるんです」

「……そういえば、さっきのヴィジョンって結構長かったのに、懐中時計はまだ試合中の時刻のままだわ。クルルの予想通り、時間の流れがかなり遅く流れているの……?」


 ということは、この聖堂で数日過ごしたところで現実の時間はまだ試合中ということになる。ナビゲーションを信じるのであれば、今日は用意された部屋で休めばいいのだろうか。


「次のヴィジョンはしばらく来なさそうですし、取り敢えず今は言われた通りにしてみましょう。部屋は廊下の先ですね」

「う、うん。そうした方がいいのかな」


 モヤモヤする気持ちを他所に、魂そのものは疲れがドッと出てしまった。仕方なく促されるまま自室となる部屋のドアを開けると、シンプルな3DKの居住空間。ダイニングスペース以外には日用品や武器防具を保管するための部屋、書斎はおそらく本棚の内容から見てクルルのためのもの、そして共同の寝室にはベッドが二つ並んでいる。


「あれっ……この部屋、初めてのはずなのにすごく懐かしいわ。何故だろう、遥か昔にここで長く住んでいたような」

「何と言いましょうか……まるで我が家に帰って来たような感覚ですね。流石は前世の追体験と言うべきか」


 不思議な既視感に首を傾げているとクルルも私と同意見なのか、似たような感想をぽつり。


 ――そうだ、『帰って来た』という表現がしっくりくる。


 けれどその感想を私もクルルも持っていて、それが前世の追体験……と言うことは、即ち前世で私とクルルが共にここで生活していたことを指していた。


(……つまり、初代乙女剣士サナは……最終的には、この部屋でクルーゼと……?)


 ここにいると妙にクルルがカッコよく見えて、抱きしめて口付けて欲しい気持ちになる。これは多分、初代乙女剣士サナがクルーゼに対して持っていた感情。見て見ないふりをしていた重大な秘密に気付いてしまった気がして、思わず思考を止めてしまう。


「疲れちゃったし、今日はもう寝ないとね……」

「はっはい。お嬢様……」


 お互い気まずい気持ちを見せないように、シャワーや歯磨きを済ませて寝巻きに着替えて布団の中へ。いわゆるツインベッドなので、就寝時の距離感は適度に取れている。けれどやはり気まずいものは気まずい……。クルルは私に前世の因果と向き合うのは時期尚早と言っていたけど、彼はサナとクルーゼの最後を知っていたのだろうか?


 寝付けずに寝返りをうっていると、同じく寝付けないのかクルルが独り言のように呟く。


「お嬢様、起きていらっしゃいますか? ごめんなさい……僕、初代乙女剣士サナがどのような人生を歩んだのか、知っていたんです。伝記とは違う世間には出回っていない正式な写本を教会本部で読んでおりましたので。神様への懺悔のつもりでお話ししますので、黙って聴いてくれますか?」

「……」


 どう答えていいのか分からず、クルルの方を向き無言で頷く。淡い灯りがひとつ灯っているだけなので、彼に見えているかは分からない。了承と見做したのか、クルルが初代乙女剣士伝説の正式な写本あらすじについて語り出した。



 * * *



 まだ魔法国家ゼルドガイアが帝国の一部だった頃の話。

 守護女神ガーネットにより、ブランローズ家の令嬢サナが乙女剣士に任命されます。乙女剣士を妻とする男は新国家の王となると予言されており、ちょうど天使様がゼルドガイア一族に『剣と魔法の国家設立』を命じた時期と被りました。


 予言を正しく理解すれば、ブランローズ家の娘サナを娶るゼルドガイア一族の男が、新国家の王になるわけです。そしてそれは、サナがゼルドガイア一族の男に純潔を捧げ結婚し、子を成すことも意味しています。


 さて、サナが誰に乙女剣士の純潔を捧げるかが問題になりますが、ゼルドガイア一族には若い男が五人いました。


 長男エルファーは銀髪金眼の珍しい容姿で、父である領主自慢の息子でした。騎士としても優秀で、頑固な面もありますが真面目な性格で皆に慕われおります。

 次男カナデは東方の巫女との間に出来た子であったため、拠点をゼルドガイアに置かず遠い東方の地で過ごしていました。黒髪青眼の異国の風貌で、文武両道の心優しい青年です。


 三男と四男は二卵性の双子で、金髪碧眼の賢者がヒストリーア、亜麻色の髪に栗色の眼を持つ錬金術師がアルダーです。

 三男ヒストリーアは賢者として学術研究に勤しむ気難しい若者でしたが、その儚げな風貌から女神ガーネットの一番のお気に入りとされていました。一方、四男アルダーは女遊びの噂が多く真面目とは言えませんが、世情に詳しく最も社交的な男だったと伝えられています。


 五男のクルーゼは領主からすると遅く出来た子で、アルダーと同じく亜麻色の髪と栗色の瞳を持つ可愛らしい少年です。サナが乙女剣士の命を受けた時点では歳若く、婚姻出来る年齢ではありませんでした。

 ですが五人兄弟のうち婚約者がいないのも末弟にあたるクルーゼだけで、魔法国家設立を急がないのであればクルーゼが大人になるまで待つ方法もありましたが……。



『どうせ帝国から離脱するとなれば、その筋のご令嬢とは婚約破棄するのが当然! サナと長男のエルファーと婚約させよう』


 世間から婚約破棄と批判されるのも厭わず、領主は長男エルファーと乙女剣士サナを婚約させてしまいます。

 案の定、帝国独立と婚約破棄により敵が増えたゼルドガイア一族は……長男エルファーが挙式前に殺され、次男カナデも毒殺され……。新国家設立を阻むためなのか、サナと婚約したゼルドガイア一族の男達は帝国側の暗殺者の手にかかり、次々と命を落としました。


『ゼルドガイア一族の男は新国家設立の野心を抱いたため皆、死んだ……。何が乙女剣士だっ! 純潔を捧げる前に夫が皆死ぬとは……あぁ呪わしい……!』


 サナは呪われた乙女と呼ばれるようになり、天使様の聖堂で祈りを捧げる日々を過ごしました。

 夢物語に終わったと思われた新国家設立でしたが、最初の婚約者エルファーの死から二十年以上経ったある日、生き残りの末弟クルーゼが魔法国家ゼルドガイアを設立します。妻は聖堂で修道女生活を送っていたはずのサナ、既に子供にも恵まれていました。これが本来の魔法国家ゼルドガイアの歴史です。



 * * *



 あまりの伝記の内容に思わず身体をベッドから起こし、クルルの肩を掴んで話を止める。だってあまりにも世に伝えられている伝記の内容と異なっていたから。


「ちょっと、待ってよクルル。私が知ってる乙女剣士の伝説と何か違うわ。初代乙女剣士はゼルドガイア一族の賢者様……つまり三男ヒストリーアと結婚して子を成したはずよ」

「えぇ……歴史は捻じ曲げられているんですよ、女神ガーネット様の手によって……。本来ならば辛い時代を生き抜いたクルーゼとサナが、どのように愛を育んだのかを伝記として遺すべきでしたが、それを女神様は気に入らなかった。何故だか分かりますか?」

「……」


 私は返答に困り、黙るしかなかった。

 心の奥底では理由に気付いてしまったが、クルーゼの生まれ変わりであろうクルルを目の前にして理由なんか言えなかった。


『三男の賢者ヒストリーア様こそ、乙女剣士の夫に相応しいお方でした! だって、あんなに儚くて美しい男性……他にいないっ。ヒストリーア様が、彼こそが……女神である私ガーネットの分身たる乙女剣士の夫になるべきだったのですっ。せめて、物語の中だけでも……サナをヒストリーア様と……! さあ書くのですっ。ヒストリーア様と乙女剣士の……愛のシナリオをっ』


 ――何処からともなく女性の泣きじゃくる声が聴こえてくる……伝記を作ろうとする修道士たちを叱り、自分の願い通りに改変した女神ガーネットの声が。


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* 2023年04月30日、連載完結しました。 * 主人公紗奈子が異世界に留まるか地球へ戻るかが不明瞭だった当作品ですが、結論を出してからのエンディングとなっております。 * ここまでお読みくださった読者様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i907577
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