母さんはアイドル4
時間が来るまでの間、この格好で走るのに慣れるよう家の中を少し歩いたりしたのだが、やはり俺が走って逃げるには慣れないスカート(しかもコスプレ姿)で、難しいと言うことになり、そして父さんが母さんを抱えて逃げてる方が周りの連中も違和感が無いのでは?という事で、俺は父さんに抱えられながら、2人で逃走するという事になったのだ。
相談をしつつ時間を待っていたら、あっという間に決行の時間になってしまった。
まだ、この格好に落ち着かない。
それでも時間になってしまったのだから、俺と父さんは外に行って逃げる大役を果たさなければならないのだ。
「カルド行くぞ!ちゃんとしがみついてろよ?」
「母さんだと思って、優しく扱ってくれよ!」
「・・・ムリだな、周りの連中が変に思わない程度にはするが、何が楽しくて息子を嬉しそうに抱きかかえなきゃいかんのだ?」
はぁー、っとデッカイのため息をつかれた。
いや、ため息つきたいのはこっちだから!
そんな感じで玄関に向かい、玄関前で父さんに抱えられる。
お互い頷きあい、覚悟を決め玄関を開けると、外にいた連中の1部が父さんを罵倒する。
「なっっ!イリニアちゃんを離せ〜」
「お前とイリニアちゃんが結婚してるなんて認めないからな!!」
「いやぁぁぁぁ、イリニアちゃん(号泣)」
それでも結界の中には入って来られない彼らは、悔しそうに父さんを睨みつけていた。
が、俺扮する母さんを抱えた父さんが近づき、結界を出たその一瞬の間のあと、走り去る俺達を怒涛の如く追いかけてくる集団。
怖ぇぇぇ〜
でもこれで、引きつけはOKだろう。
このまま父さんが体力の限り、離れ過ぎず引き連れ逃げて、30分後には新しい家に向かえば大丈夫なはずだ。
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一方家では、俺達を追いかけて居なくなった外を家族で注意して見つめていた。
もしかしたら、まだ1人2人残っている可能性を考えて、よーく目を凝らしめて外を観察する。
「よし、成功したようね、みんな追いかけて行ったみたいだし、この隙に新しい家に向かいましょう」
ミーファさんの言葉で、ふぅと息をし胸を撫で下ろした母さんと妹達を兄達が守るように連れて新しい家へと急いで向かっていったのだった。
ちなみに母さんは、念の為に俺に扮していたが、こんな時なのにウキウキと楽しそうだったと後で兄さん達が教えてくれた。
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30分後、父さんとそろそろ良いかな?と新しい家へと向かったのだが、家が見えてきたくらいで俺はポーイっと追いかけてくる集団の中へと放り出された。
「え?」何が起こったのかわからず、宙に浮いた身体が変な角度で落ちるのを阻止しようと、くるりと捻るとそこには母さんだと思っているファンの皆の唖然とした顔、それに助けようとする大勢の手。なんとも恐怖を覚える光景がそこにあったが、為す術もなく集団の中に落ちていく俺。
「じゃぁ、がんばれよ、カルド!」
そこに響き渡る父さんの声に、集団の目つきが変わり助けようとしていた手は1部引っ込められたが、父さんの言葉を瞬時に理解出来なかった人らの手の中へと落ちた。
そして、手の中の俺を見て理解したのか、凄い形相になっていた。
俺は、ボコボコにされるかもと恐怖で凍りついた顔を必死に動かし、これからは母さんを観ることのできる劇場なような場所を作ること、そして街長にしっかりとルールを認定してもらうので守って下さいねっと言い放つと、一目散で新居へと逃げ込んだ。