episode2-1 切られた開戦の火蓋
声の主はファルクだった。その後共にシェリルが行こうとしてた飲食店に入り、話に入る。
「一体何の用?もう用はないんじゃないの?」
「まあ焦るな。これから話してやるよ。ウエイター、ステーキ定食一つ頼む。」
話があると連れて来つつ呑気なものだ。シェリルは溜息を吐くが、元々空腹で入る予定だった飲食店だ。シェリルもメニューを見て注文を入れる。
「私はこの刺身定食って言うのを一つ。」
「シェリル、俺は奢らねえからな。」
「そんなつもり最初からないから。・・・そういえばあんた、一人なの?リメルは?」
リメル、という名前を出した瞬間笑みを浮かべてたファルクの顔つきが急に真剣味を帯びる。それまでのおちゃらけた喋り方もやめ、声を落とし話し始める。
「・・・俺がお前に声をかけたのはそのリメルについて話があるからだ。・・・リメルがクロスケーションに捕まった。それでお前にはリメル救出を手伝ってもらう。本当ならお前の力なんて借りる必要ねえんだがここに来て情勢が変わった。奴ら、本格的に魔硝石の導入に踏み切りやがった。」
アラフォースの言っていたことが、とうとう現実になったわけだった。
「それでもってアイツらは魔硝石を使うわけだ。ならばこちらも魔術をもって奴らと相手をするしかねえ。」
「・・・最初から魔術が使えて、しかも魔硝石を持ってる私の力が重要ってことね。」
大体話に察しのついたシェリルがファルクの言いたいことをそのまま代弁する。その通り、とばかりにファルクは頷き、さらにこう付け足す。
「あ、もし嫌なら磁界石は俺に渡せ。・・・嫌ってことはリメルがどうなろうと構わないって事になるけどな。」
シェリルに迷いは無かった。リメルは、たった一瞬だったかもしれない。それでも、シェリルと共に行動した仲間であった。見捨てる、という言葉をシェリルは聞き逃さなかった。
「しょうがないわね・・・協力するわ。」
その了承の返事を聞くとともに、店に入ってきたアラフォースがファルクに口を出す。
「それはいいのですが、ファルク、シェリルはリメルの事を詳しく知らないはずです。リメルについて話すべきではないですか?」
「お前誰だ・・・まあいい、話そう。実はリメルってのは俺が勝手につけた愛称だ。彼女の本名ではない。彼女の本名はリメリア。デーロック家の第33代目皇女でスキン皇帝の第一娘だ。」
「・・・成程。ってことはリメルがブラッドエンプレスに入れられてたのってのはクロスケーションが皇帝の動きを操るためね。愛娘が右手一つで首が飛ぶのなら、指示に従って国政を出すしかない。」
アラフォースが、感心した。たった数個のワードでここまで考えを張り巡らせることができた、シェリルの聡明さに。ファルクも驚きに目を見開きつつ、話を続ける。
「・・・よくわかったな。単なる箱入り娘かと思ってたが随分他国のことも勉強してるみたいだな。そうだ、彼女がブラッドエンプレスに入れられていたのはリメリアの生殺与奪を行うことでクロスケーションが皇帝の動きを操るため。お前の言う通り、愛娘が右手一つで首が飛ぶのであれば皇帝といえど言うことを聞くしかないからな。その政府こそが、クロスケーションだ。」
ところ変わって、デーロック議事堂。この建物の三階に、クロスケーション幹部4名が集まっていた。中央の席に座るのは緑髪の男、クロスケーション国家総司令官クロム。
「これで揃うべき幹部は全員揃ったようだな。」
「アルゴンとレ二ウムが来てませんが、そちらの方は?」
「アルゴンにはリメリア、レ二ウムにはシェリルを追ってもらっている。早ければ奴らからも直に連絡があるだろう。・・・セレン、現在の状況の説明を頼む。」
クロムがセレンと呼んだ桃色の髪の女に声をかける。それを聞いたセレンは微かに微笑みを浮かべ、説明を始める。
「魔硝石破壊事件から現在までの流れの説明ですね。かしこまりました。今から三か月ほど前、ある事件が発生しました。それが魔硝石破壊事件です。魔硝石というのは皆さんのご存知の通り、魔力を保持した石の事です。魔硝石、魔術の存在は70年前、ネリティア皇妃の法の下、隠蔽されることとなっておりました。しかし、この事件の犯人は魔硝石の存在を知っており、次元石を破壊したのです。現場の指紋や監視カメラ等の画像の検証より、犯人はシェリルであると断定されました。」
「ちょっと待て。シェリルが双子って可能性はねえのか?」
ラドンが疑問を持ったらしく、クロムとセレンに質問する。
「例え一卵性双生児であろうと指紋は完全には一致しない。捜査の常識だ。それに、担当はセレンとスズだ。その様な軽率なミスをする可能性はほとんどないだろう。」
そのクロムのセレンに対する厚い信頼が窺える言葉にセレンは顔を綻ばせる。
「ありがとうございます!今後も何なりとお申し付けください!」
「セレン、今は緊急事態だ。説明を続けろ。」
「あ、申し訳ございません!では、続きを説明いたします。これがその事件の映像です。」
そして事件の動画が流れる。スズが、ここで違和感を覚える。
「・・・シャドウサーベル?ラドン、確かにシェリルは魔硝石は持ってるって聞いてたけど白っぽかったとか言ってなかったっけ?」
「ああ、確かにシェリルは魔硝石を持ってたがあれは磁界石だった。少なくとも暗黒石じゃねぇ。セレン、やっぱり間違ってたんじゃねえのか?」
「・・・続きを流しますね。シェリルはライフルを構え・・・魔硝石を破壊しました。」
「やけに簡単に壊れてんな。」
「シェリルは魔硝石の扱い方を知っていました。破壊方法も知っていたと思われます。」
「収監されたシェリルは魔硝石の扱い方を知ってる様子はなかったぞ。魔術は使えるみたいだがその筋だとだいぶ矛盾してないか?もしあいつがシャドウサーベルなんか使えたら俺は大怪我なんてもんじゃ済んでなかったぞ。」
ラドンが持ち込んだ証言には、いくつもの矛盾がその動画とはあった。『次元石を破壊した』シェリルは暗黒石を持っていた。だが『ラドンが相対した』シェリルが持っていたのは磁界石。魔硝石の使い方を『次元石を破壊した』シェリルは知っていた。だが『ラドンが相対した』シェリルは、魔硝石の扱い方をわかっていなかった。大いなる矛盾が、存在していた。
「・・・そのあたりは改めて調査しましょう。それで、シェリルはもう魔硝石の使い方を調べている可能性があります。ラドンの報告によると魔硝石無しでもシェリルは魔術を使えるようですが、どちらにせよシェリルを捕らえるには我々も魔硝石を用いる必要があると思われます。・・・以上で説明を終わります。」
セレンの説明が終わるとともに金髪の男によって荒々しく会議室のドアが開けられる。そこに放り込まれた女性はリメルであった。
「戻ったか、アルゴン。どうやらリメリアを捕らえることに成功したようだな。」
リメルは反抗的な目線をクロムに向け、怒鳴る。彼女らしからぬ態度であった。
「クロム・・・!貴方たちはいったい何をする気!?」
「我々は一つの目的に向かって行動しているだけだ。そして、お前にはその計画のために協力してもらうぞ。リメリア。」
そうして、リメリアをカードとしクロスケーション総司令官クロムが皇帝に出させた命令。それは、宣戦布告の号令をかけろというものであった。
ところ変わり、MZB陸軍基地。
銀髪の男と、クレイバーが話していた。
「スキンが魔硝石を回収か・・・魔硝石と言う単語ならMZB幹部なら知りえることだが・・・なぜお前が知っている?」
「知り合いに魔硝石の保有者がいましてね。」
「その知り合いの名前は?魔硝石の属性も教えてくれ。」
「リトラート元帥。個人を特定できる質問には答えかねます。」
「そうか。・・・話が変わるがクレイバー、デーロック議事堂に潜入してもらえないか。お前は正式に陸軍には所属していない。そこでお前に第三者として潜入してもらいたいのだ。」
「行動時の制限については?」
「MZBとの関わりについては絶対に知られるな。これは絶対だ。」
「イエッサー。」
そしてシェリル達。
「クロスケーションを止める手段はスキンエンパイアに突入しクロスケーションに直接働きかけることだ。それ以外スキンの暴走を止める手段はない。」
「随分と無謀な話ね・・・まあ私もやるって言ったからね。きちんと最後まで付き合わせてもらうわ。・・・自分で決めたことですもの。」
「よし、決まりだな。目的地はスキンエンパイア。スラン平原を突っ切り、スキンに乗り込むぞ!」
この時、シェリルは知る由もなかった。
知らず知らずのうちに、魔硝石を全て集める旅がここから始まっていたことに。
そしてこれから自分が世界を揺るがすほどの大革命を起こし、同時に大きな十字架を背負うことになることに。