Last episode 5 フィナーレ
...次元転送に成功した。
「...やった!やったよニア!成功したよー!!」
「アストラ!よくやった!でもちょっと待て、他はどうだ?」
セラフィスノ本体は次元転送に成功したものの、各惑星がどうなってるかはまだわからなかった。
「とりあえずサーヴィルかペラルナか行きましょうよ。」
「エレデアスは?」
「あんたバカね、そもそもエレデアスを転送するためのプログラムなんだから他が転送成功してるならエレデアスは転送が成功してるに決まってるじゃない。うちのお姉ちゃんに限ってやることの手を広げようとして1番しちゃいけない失敗したりしないわ。」
そうしてると、フェクトが出てくる。揺れが収まったのを見て部屋から出てきたようだ。
「ああ、俺とジェルをサーヴィルで下ろしてくれ。...俺とジェルの思考がハッキリしてるってことは閣下は無事ってこった。ならサーヴィルの転送はほぼ間違いなくできてるだろう。」
フェクトの一言もあり、先にサーヴィルに行くことになった。
「閣下、帰還いたしました。ビッグクランチの収束及びエスカフローラの打倒、成功しました。」
「御苦労、よくやったフェクト。そちらのエレデアスの軍部の皆にも礼をやらねばならぬな。」
サーヴィルのノーベルジェヌン邸にフェクトとジェルのサーヴィル組、それと軍部の重鎮、セイバーとナディアがそこにはいた。
「このけったいな板がノーベルジェヌンか、こんなだとは思わなかったぜ。」
「ニアに負けず劣らず失礼な奴だな。」
「うるせえ!そんなことより俺様は冷戦関係の終結の取り付けに来たんだ!これでもうエレデアスに手出しはしねえな!やることは俺達はやったぞ!」
「...とても友好的な態度とは言えんがまぁこれで我々としてもエレデアスを攻撃する理由はなくなった。冷戦関係、及び攻撃姿勢を取る理由もない。完全停戦しよう。」
「よーし!その言質が取れりゃ十分だ!仲良くやろうぜ、ノーベルジェヌンさんよ!」
こうして、長きに渡るサーヴィルとエレデアスの冷戦関係に終止符が打たれた。
「随分とあっさり許すのだな。いいのか?」
「おうよ、俺様はラブアンドピースだからな」
そしてジェルとフェクトを置いてエレデアス本土に帰還した。ペラルナ、セフィロトの健在を確認してだ。
「これで、みんな解決かな?」
ニアが保安部に戻ろうとセラフィスノをあとにしようとする。しかし、それを許さないのが2人。セイバーとナディアだった。
「おうバカニア、まだ終わってねえぞ」
「あんた、保安正でしょ?」
「この不始末、片付けんの手伝ってやるからどうにかしろ」
軍幹部がやれば、と投げ出せる空気でないことはセイバーの殺気立った目が物語らせていた。
...それから、十何年かが経った。
エレデアスは技術部、軍部、保安部が再び統合され、嘗ての宇宙開発公社のようにひとつの政府機関として動くようになっていた。接近したナルグドにも積極的な技術提供を行い、発展を促している。
軍部では合同演習が行われている。それを監督するのは、以前元帥を務めていた巨漢の男ではなく軍服を脱いでしまえば女優とでもファンションモデルとでも通じそうな美貌を持った女性。
「ちんたらしてんじゃないわよ!」
軍部元帥になったのはナディア=フィケーションだった。前元帥のセイバー=アスタリスクは先の戦いでの故障を理由に元帥の座からは退き、現在はナディアの後見人として隠居している。二人は、まだ結婚はしていない。しかし、十分に幸福と言える関係であった。
そしてもう一方。
「ニア!」
貯めてきた資産で自宅を購入したニアの寝室に、技術者とは到底思えない美しい顔立ちの女性が入ってくる。
「ふぁぁぁ...っとやべぇ!こんな時間!」
「そうだよニア!今日は保安部司令の着任式でしょ!当のニアが遅刻じゃ示しがつかないでしょ!」
呼びに来たのはアストラ=グローレンス。ニアの保安部司令官への就任が決まった時に、ニアが婚約を申し入れアストラは快く快諾した。そして今日は、軍部の演習が終わったあとにニアの保安部司令の就任会見があるのだ。
「急いで着替えねえとな」
そしてニアが着るのは、嘗ての着慣れた保安部の制服ではない。保安部司令官が着る、一等物のスーツだ。
「それじゃあ、一緒に行こうか」
「うん、ニア」
そして会見場にニアが向かうと、そこには嘗てセラフィスノで旅を共にした代表者が揃っていた。
「久しぶりね、ニア」
「誰だ、このおばさん」
後ろにいたナディアに拳骨を食らう。
「痛ぇ!何すんだ!」
「何すんだじゃないわよ!シェリルよ!」
そう言われ、もう一度見直す。顔こそ老けているものの美しい赤色の髪、豊満な四肢、高い知性を感じさせる透き通った紫色の瞳。目の前の壮年の女性は、確かにシェリル=コンスタンティウスその人だった。
「あっ、マジでシェリルだ!しかしだいぶ変わったなぁ!」
「あれから十年くらい経ってるのにまるで老けてないあんたらが化け物なのよ...そうよ、思い出してもらえたわね。アストラがもし来て欲しい時にすぐ来れるようにって送り届けるついでに社長室にトランスポーター付けてくれたのよ。まぁ私も本業が忙しいしここまで来れなかったけど」
「そうか。しかし、ほんとにお前おば」
もう一度ナディアがニアの頭に拳骨を飛ばす。どこまでも失礼な男だった。
「痛ぇな!」
「あはは...まぁ叩かれても仕方ないと思うな...」
「あのねぇニア、女におばさんとデブとペチャパイは禁句ってのを学びなさい」
「そんならお兄ちゃんとくらい呼んでくれてもいいんだぞ義妹なんだから」
「誰が呼ぶか!」
「やれやれ、なんでこんな所で痴話喧嘩してんだか。」
呆れた顔で見つめていたのはフェクトだった。
「喧嘩をするほど良好な仲と言うことではないか!ところでフェクト、何故血が繋がってないナディアがニアのいもうとなのだ?」
「それ、モノセルの俺に聞くか?」
フェクトの隣にいたのはゼフィリアだった。彼はアーシィとヒースを代理人に立てて混乱状態に陥っているナルグドの鎮静に務めていた。ニアやナディアの協力もあり現在ナルグドの混乱は収束に向かいつつあった。
「ところでニア、ルーアはどうしたの?」
「ルーアか。あいつは感情が壊れた原因もわかったし長期休職させて静養と通院させてる。まだ数年かかるらしいが...」
ルーアは、先の戦いの後ニアに説得され長期の静養と脳外科医、精神科医への通院をしていた。保安部の仕事が多忙になり、たまにしか会えないがルーアには笑顔が戻り以前とは違いよく喋るようになった。いや、あるべき姿に戻ったと言うべきか。しかし、担当医の連絡によると年には明らかに見合わない振る舞いも多く見られるそうだ。
「...何年もあのイカれたシステムに時間を取られたんだ。仕方ないさ。」
そう語るニアには、先程までの明るさはない。しかし、彼にはあの壊れてしまった彼女をそのままにして置くなどということはできなかったのだ。判断を誤ったとは、絶対に思いたくない。
「...悪いこと聞いたわね。」
「いいさ、ルーアが元に戻ってくれれば俺はそれで。」
その後も居合わせたメンバーで、近況報告をする。しかし、時間はすぐに過ぎていく。
「さて、ニア。そろそろ時間だしこんな雑談はこの辺にしといて私達は会場行くわよ」
「そうね。じゃあねナディア、パーティーの時間になったら呼んでね。私達一緒の部屋で待ってるから。」
「そうだな、行こうかアストラ」
「うん!」
「ちょっと待てー!私を置いていくな!」
そして、軍部元帥ナディア、技術部総務部長アストラ、保安部新司令官ニア。
三名による新たな時代の幕開けが、そこにあった。
それから長い時が過ぎ、謎のブラックホールが現れたのを覚えている人間は当事者達しかいなくなった。当のニアやアストラ、ナディアがそれを語ることはもう少ない。しかし、そのニアとアストラの話を十分に噛み締め、あのような悲劇を繰り返さないようにしようとする人間が、そこにはいた。
「皆さん、私が新司令官のクラエス=グローレンスです。」
彼女の名前はクラエス=グローレンス。ニア=グローレンスとアストラ=グローレンスの間に生まれた娘だ。年老いたニア=グローレンスの退官に伴い、新たな保安部司令官として指名された。非常に優秀な働きぶりから彼女の保安部司令の就任に親子贔屓等と難癖をつける人間はほとんどいなかった。
「嘗て、憎しみが憎しみを産む悲しい戦いがありました。それが原因で多くの人が、多くのものを失いました。今、皆さんはそれを覚えていないでしょう。ですが忘れてはいけません。憎しみは憎しみしか産みません。争いは争いしか産みません。先日退官された父、ニア=グローレンスは争いを産まないための努力を全力でして参りました。平和を願った父の思いを受け継ぎ、私も尽力して参ります。光ある世界を、争いなき銀河を共に創り上げましょう」
〜銀河騒乱 完〜




