episode1-1 スラム街の盗賊団
・・・と言ったここまでの話をシェリルは目の前の茶髪の青年にした。勿論、魔術を使った話はうまく伏せてだ。
「・・・成程な。それでお前はスキンから追われる身になったわけか。魔硝石や魔術やらその辺りは信じられないがな・・・わかった。その魔硝石とやらを取り返すの、手伝ってやるよ。・・・そういえば、お前、名前は?」
ある程度信じてもらえたようだった。スキン嫌いということもあったのだろう。スキンならという言葉を用いていたあたり、この青年が反スキンであることは、シェリルには容易に想像が追い付いていた。
「・・・シェリル、シェリル=コンスタンティウスよ。貴方は?」
「俺はクレイバーだ。よろしくな。」
そうして、二人はスラム街へと向かった。
そうして、クレイバーとシェリルは、マルクセングの中央街で矢を買い足した後、スラム街へと向かった。
クレイバーは、魔術の事をほぼ間違いなく知らない。ブラッドエンプレスはそれどころではなくなったために何度か使ったがラドンが国家機密だと言っていた。祖母にも使うな、と言われてたこともありラドンは本当の事を言っていただろう。そのためシェリルはどんな状況になっても魔術は使わないように進んだ。もっとも、クレイバーの銃剣の腕前は大変に優れている。使わざるを得ない状況に陥ることもなく、本拠地と思しき建物まで進んだ。
「やい、お前ら!ここはシーフズデンジャラスだぞ!子分ども、恐ろしさを思い知らせてやれ!!」
そのシーフマスターのアナウンスと共に一斉に子分らしきチンピラが何人か襲ってきた。
「・・・やれやれ。」
そういうとクレイバーは銃剣を出し、事もなげに体を捻り一気に銃剣に円弧の軌跡を描かせチンピラどもを屠った。閃光殺輪、と呼ばれるその技の前に全員が倒れた。
「・・・あれ?あっさりやられた??とにかくここから出ていけ!命令だ!」
子供のようなことをシーフマスターが言うが、それではここへ来た意味がない。当然のようにクレイバーが言い返す。
「出てくわけねえだろ。お前の部下が盗んだ宝石を取り返しに来たんだ。」
更にシーフマスターは子供のように言う。
「そんなこと聞いてねえっつーの!とにかく出てけ!命令だ!」
今度はシェリルが言い返す。
「なんで私たちが貴方の命令を聞かなきゃいけないの・・・大体、貴方が原因を作ったんじゃない。石さえ返してくれるなら今すぐにでも出ていくわよ。」
「我々はお前らの圧力には屈しない!お前らの傲慢が争いを生むんだ!さっさと出てけ!」
そう言い、シーフマスターはさっさとマイクを切ってしまった。二人は溜息を吐き、奥まで進むことにした。
格闘術を心得たごろつきや刀を持ったチンピラを外にいた連中と同じように倒し、シェリル達は一番奥の部屋にたどり着いた。
そこにいたのは、ブラッドエンプレスにいた商人、モルコスフィアだった。
「あ、シェリルじゃないか。また会うとは奇遇だね。」
「ファーレンス君か。・・・なんでここにいるの?」
そういうとモルコスフィアは断言した。
「レア物を求めてさっ!わかるかい、この商魂と情熱!」
シェリルは変なものを見るような目で軽く言う。
「ごめん、わからない」
しかし、こういった一つのものに対する情熱は素晴らしいと彼女は思った。確かに変な人間ではあるかも知れない。それでも、こうして一つのものに対してどこまでも情熱を捧げられるのは並大抵の人間にはできないだろう。一つ、彼女はモルコスフィアに尊敬の念も持った。ただ、クレイバーは
「わかる方がすごいだろ。」
と一蹴した。シェリルはその後、モルコスフィアが石を握ってることに気づき、声をかける。
「あれ、ファーレンス君、その石・・・。」
「あ、この石欲しいんでしょ!買って買って!」
さっきの尊敬取り消し、と言わんばかりの目を向けた。もっとまともにその商魂を生かしてほしいものだ。
「その石は盗られたの・・・最初から私のものなのになんで買わないといけないの。」
「あ、そうなんだ。・・・返した方がいいよね。」
ちゃんと常識的な判断もできるようだ。実に喜ばしい。
「ファーレンスだっけか?それはシェリルのもんだ。返した方がいいぞ。」
「盗ったら僕が泥棒だしね・・・わかった、返すよ。」
シェリルに石が渡ろうとしていた矢先、シーフマスターが現れた。
「てめえら何してやがる!」
「見つけたぞガキ。とっとと盗品返しやがれ。」
シーフマスターが名乗る間もなく、クレイバーは冷静に要求を突きつけた。もちろん、シーフマスターは最初から話を聞くわけがない。
「うるせえ!というか俺はお前らに出てけと言っただろ!なんで出ていかなかった!おかげで俺の休息時間が削られただろうが!」
自分勝手にもほどがあった。もちろん、クレイバーは言う。
「・・・お前らがシェリルの石を盗んだせいで俺の休憩時間も削られたんだが。これはスルーか?」
「ならさっさと帰って休めばいいだろ!さっさと帰れ!」
「誰が帰るか。石を取り返すために来たんだ。このまま帰るわけないだろ。」
お互いに武器を構えた。戦いが始まる。盗賊だけあり、なかなか素早い。
「シェリル、俺が行く。弓じゃアイツに手傷を負わせるのは難しいだろう。銃剣のがやりやすい。」
「へっ、盗賊団長シーフマスター三世様をなめんなよ!」
そういうとシーフマスターの影が三つに分かれた。
『さて、どれが本物かわかるかな!!』
こうなるとどれが本物かを把握するまではクレイバーに不利であった。しかし。
「もうちょいクオリティーの高い分身をするんだな。」
残念なことに影が分身には全くなかった。酷い落ち度の部分があったためにクレイバーがどれが本物であるかを見間違うこともなく、クレイバーのバヨネットグロウと呼ばれる技の一突きは、シーフマスターの足を抉る。
「げえええ!なんてことしやがる!!」
そんな聞き苦しいシーフマスターの叫びを無視し、ここぞとばかりにシェリルが矢を放ってシーフマスターを固定し、動けなくする。
見事な連携プレーでシーフマスターを封殺した。
「あっ、シーフマスター倒したんだ。じゃあここにある宝全部僕がもらうからこの石はシェリルに返すね。」
「戦利品はファーレンス君がもらうってことね・・・いいよ、お金には困ってないし。」
穏やかに話がつき、シェリルは石を取り返した。シーフマスターが「俺を無視するな」だの「鬼!悪魔!」だの言っているが、それも聞かないことにした。そのまま帰ろうとすると、
「・・・!ちょっと待て!そこにいるのは誰だ!出てこい!」
クレイバーが銃剣を突きつけ、叫ぶ。そうして姿を現したのは漆黒の外套を纏った、紫色の髪の男だった。
「やっと気づいていただけましたか。まあ、時期的には丁度良かったですね。魔硝石も取り返したようですし。」
「・・・貴方は?」
「まさか・・・ゲーリフェントス!?」
「違います」
「ゲーリフェントスって誰だよ。」
口々にモルコスフィアに突っ込み、紫色の髪の男がシェリルに改めて声をかける。
「私は魔硝石についてを説明しに来ました。シェリル、貴女にね。」
シェリルの名を出し、シェリルを男は驚かせた。
「なんで私の名前を?なんで私に魔硝石の事を?」
魔硝石、という言葉にはクレイバーが反応した。
「魔術?何言ってるんだお前?」
「魔術などないと言いたいのですか?ですが魔術は実在します。魔術の存在は隠蔽されているだけなのです。そして、魔硝石を使うことにより魔術は扱うことができるようになるのです。・・・最も、シェリル、貴女は例外ですが。私はアラフォース=レクイエル。シェリル、貴女と会うのは久しぶりですね。」
「・・・会ったことないわよ?」
「生まれて間もない頃なので、覚えてなくても仕方がないですね。・・・話が逸れました。私が伝えに来た理由を説明しましょう。では、まず魔硝石について詳しく話しましょう。魔硝石とは人知を超えた魔力の結晶体のことです。しかし、魔力と言う言葉は70年前に姿を消したのです。いや、消されたと言った方が適切ですね。」
そこでクレイバーが突っ込む。シェリルは魔術が使えるため、アラフォースの話の後半以外の話、魔力についての話を大体理解している。しかし、予備知識も何もないクレイバーには到底理解のできない話であった。
「待てよ。たったの70年前に使える奴がいたならば文献は相当に残ってるはずだろう。しかし俺は今までそんな文献見たことないし、あるとも思えない。お前がでたらめ言ってるようにしか思えないな。魔術だとか魔力だとか魔硝石だとか、そんなこと言われても信用できるはずないだろう。」
「さっきも言ったでしょう。その言葉は世界によって隠蔽されたと。恐らく、70年前の管理者達はこれが社会を乱す原因になると考えたのでしょう。そして、当時のスキンエンパイアの后妃により、世界から魔術と言う言葉が抹消されました。後に、魔硝石は何人かの人間に管理されることとなりました。その内の一人が、ルサナ=コンスタンティウス。」
シェリルの祖母の名前だった。
「ってことは・・・?」
「はい。ルサナは魔術の存在を知り、魔術を扱うことができました。」
「おいおい・・・俺はまだ魔術の存在を信用してねえぞ。本当に使えるなら今すぐ使ってみろよ。そしたら信じてやるさ。」
そのためにシェリルが火球を作り、誰も怪我しないように壁に打ち付けた。
「これが魔術だと!?シェリル、それはどうやって出したんだ!?」
「ブラッドエンプレスの話でちょっと隠してたけど、これを使って私は脱走したわ。おばあさんにきつく言われてたこともあってこれだけはちょっと伏せてたけどね。私は魔硝石が無くても魔術が使える。・・・と言うわけよ。魔術ってのは、実際に存在する。使い方は教えないわよ。というか教えてもらってできるものでもないし。」
そうシェリルが言った後、アラフォースが続ける。
「・・・信じてもらえたようですね。魔硝石を使えば魔術を簡単に使えるのですがまぁそのあたりは後で教えましょう。・・・シェリルはこれを覚えたら別の応用の仕方ができそうですけどね。さて、魔術と魔硝石の話に戻しましょう。魔術とは物質の原子を自在にコントロールし、あらゆう現象を起こすための術のことを言います。属性は主に八つあり、その八属性全ての魔硝石が存在します。」
「魔硝石は八つあるってこと?」
「いえ、八属性とは主な属性の事です。その上にそれを総括する宇属性というものがあります。その魔硝石は最強の魔硝石と言われています。」
ここまでの話が長かったのか、クレイバーがまとめた。
「要するに魔硝石には属性が九つあってその属性全てに魔硝石がある。そのうちの一つがシェリルの持つ磁界石。そういうことか。」
「なかなか理解が早いですね。その通りです。」
そこまでの話を聞き、クレイバーはもう一つの疑問を投げかける。
「一つ疑問がある。お前はなぜ、俺たちに魔硝石のことを教えたんだ?」
「それは、スキンエンパイアが魔硝石の回収を目論んでいるからです。」
「スキンエンパイアがこんな危険なものを!?何を考えてるんだ!?」
「スキンエンパイアに魔硝石を回収させない方法はただ一つ。誰よりも早く、魔硝石を回収することです。・・・シェリル。今後、貴女には魔硝石の回収をしてもらいます。」
「・・・え?」