episode18-3 天才
そして、地下五階。やはりそこにいたのは、ヴェバート=ローゼンべリアその人であった。怪しげな機械を動かし、ロボットを組み上げているその姿はヴェバートがどんな人間であるかを知らないニア達にとっては非常に不気味な物だった。
「久しぶりだな、アストラ。」
ヴェバートは真っ先にアストラに声をかける。それはそうだ。彼女以外の知り合いなど、この中には一人もいないのだから。
「先生・・・なにしてるの?」
「見ればわかるだろう。インフェニティの開発だ。折角機械の星を貰ったのだ。インフェニティで乗っ取ろうと思うのは普通だろう?」
常人には理解できない考えだった。成程、エスカやアストラの話通りの技術力以外は捻じ曲がったサイコパスという評価は正しいわけだ。
「俺にはわからねえな。何がしたいんだ?」
「アレファスリの様なバカには理解ができんだけだ。俺の作るニューフェニティは人工知能を搭載して進化し、我々アレファスリの思考を超える。無知無能なアレファスリは滅ぶ運命にあるのだ。実に喜ばしい。」
とことん屈折した考えを持った男だった。しかし、アストラはそれを毅然と否定する。一人の弟子として、今のエレデアスの一番の技術者として、ヴェバートの考えを認めるわけにはいかなかった。
「先生。それは違うと思うよ。僕はアレファスリの知能を・・・先生の知能をインフェニティが超えるとは思わない。人工知能が人間を超えることはないよ。人工知能が得る答えは人間が導き出した最適解だからね。」
「・・・アストラ?お前何を言っているのかわかっているのか?自分が作っているものをお前は否定しているのだぞ?それに入力されていない知識を取得させたいのであれば、機械自身に取得する情報を選ばせれば良いだけだ。」
「じゃあ、その所得する情報を選ばせる基準を作るのは誰?その基準の基準を作るのは誰?結局全部製作者なんだよ。そしてその機械の意図は作った製作者の意図に基づいて動くんだ。だから、インフェニティが先生を超える日は絶対に来ないよ。僕だって全ての情報をスケープにでも入れてみたいさ。でも、世界のすべてを人間が知ることはできないし、機械もすべての情報を得ることは不可能なんだ。だから僕はその限界を見つけるために機械を組んでるんだ。ちょっとでも限界に近づくために毎日!」
そしてアストラの話を聞き終えると、半開きになっていたヴェバートの右目が開かれる。くすんだその目は狂気を孕み、どこまでも禍々しい。
「・・・ならば、お前はその限界で諦めていろ。俺は限界を超える。否、既に超えたのだ!見せてやろう、俺の叡智の結晶、ヴェバートブレインを!!」
そういうと、傍らに置かれていたヴェバートを模したと思われるアンドロイドが動く。ナルグドを支配したドラゴンを作り上げた開発者だけあり、スケープとは段違いの機能を有していた。
「ちょっちょっ!こんな動けるのアンドロイドって!?」
ナディアがスケープとは段違いの動きをしたブレインに驚きを隠せない。
「僕が作ったスケープを参考にして機能を上げたのが先生のアンドロイドだからね。・・・逆に言えば、動きがいいスケープだよ。」
その言葉の意味は、ナディアにはわからない。しかし、ニアにはわかったようだ。ブレインは火器の部類もスケープ以上に搭載されており、ニア達を苦しめる。
「・・・所詮、スケープと同じ動きだろ?ならなあ・・・。」
そういうと、ニアは壁を蹴る。
「ナディア!連携だ!!」
「・・・ええ!」
その蹴りの動きの意味は分からない。しかし飛び回る二人に、ブレインは困惑する。その動きを止めたのは、ルーアだった。
「私を斬っていい。・・・怪我はシェリルに治してもらう。」
羽交い絞めにされたブレインは火器を発動もできず悶える。そのブレインに、二人から思い切り剣による一撃を食らう。しかし、ブレインはそれでも機能を停止しなかった。
「おいおい、丈夫過ぎねえかコイツ!?」
「それよりもルーアちゃんが・・・!」
そう、ブレインを羽交い絞めにしたルーアもまた二人の刃による一撃を受けている。そのルーアが立ち上がった。腕が折れているのに、それを全く感じさせない妹にニアは衝撃を受ける。
「ルーア、お前腕が!」
「大丈夫ッ!!」
ルーアに似つかわしくない大声に、一同が驚く。そして彼らが驚いたのはそれだけではない。ルーアが折れた方の腕に力を籠めると、完全に折れていたのがウソのように一発で修復される。そしてルーアの白銀の髪が、人外の存在を感じさせる桃色に突如として変わったのだ。
「うあああああああ!!」
そして突如変貌を遂げたルーアが、ブレインの傷に思い切り拳を叩き込む。ナディアの剣もを跳ね返したその機械は、たったの一撃で易々と打ち砕かれ、機能を停止した。
「な、何!?」
「ルーアを止めるのは任せて!」
そう言って出てきたシェリルが右手を振りかざすと、ルーアの姿がみるみるうちに元に戻り元のルーアに戻る。
「・・・何?」
しかし、少女の驚きよりもヴェバートの驚きは大きい。こんな簡単に、自らが作った機械が敗れ去るとは思わなかったからだ。
「先生、さっき言ったよね。機械に情報を集めさせれば製作者を機械が超えるって、そうすれば機械が成長して人間を超えるって。先生の敗因はそれだよ。機械に成長をさせたいって考えは僕にもわかるよ。でもそれは、親が子供に言葉を教えないのと同じだよ。先生は自分が作った人工知能に頼る内に機能向上の本質になる改良を怠るようになっていった。そんな先生に、ニア達に勝てるわけがなかったんだ。」
しかし、教え子の言葉にヴェバートは笑いを浮かべる。
「・・・クククッ!成程な、まだ限界を超えるところにはたどり着かなかったか。まだまだ改良すればお前たちの手のつけようがなくなるということか。・・・その時が来るのが楽しみだなぁ・・・ハハハハハハ!!」
そういうと、ヴェバートは転送機能を利用し消えてしまった。セフィロト内の別の場所に行ったのだろう。今さら、彼にとっての天国と化したここを離れる理由はない。
「なんて野郎だ・・・あ?アストラ、アレが転送装置じゃねえか?」
ニアがそれっぽい機械に気付き、指示されたところをアストラが調べる。間違いなく、エレデアスへの転送装置だった。
「・・・ニア、ビンゴだよ!これがエレデアスへの転送装置だ!・・・っと。よし!これで転送できるよ!転送先は惑星エレベーターの最上階の静止衛星軌道、思考制御システムについてもジャミングするようにしたから大丈夫。ただ・・・。」
「ただ?」
「9人以上は送れないね。あと戻れないから送った8人以外はセラフィスノで別途待機、僕を抜いた7人でエスカと戦うって感じになるね。僕は機械操作のために行くとして・・・。」
「俺が決めよう。とりあえず、まずは絶対行きたいって奴を優先させよう。」
そうすると、ナスカとルーアが手を挙げる。
「ニア、私は連れて行って。私は・・・あの方の傍にいながら何もできなかった。だから・・・。」
「わかった。ルーアも当事者だからな。あと4人は・・・ナディア、お前は来てくれ。」
「勿論。寧ろセラフィスノになんか残されても困るわよ。私宇宙船の操縦とか専門じゃないし」
「後はシェリル、フェクト。お前らも来てくれ。ガイアとサーヴィルの代表でな。」
「わかったわ。」「当然だな。」
「最後の一人は・・・ゼフィリアだな。お前はナルグド代表だ。」
「わかった!着いてゆくぞ、ニア!!」
そして、残ったセラフィスノ残留組のリーダーにはウィルを指名した。
「ウィル、お前はエレデアスにバレない程度に近づいてくれ。もしもの時は転送機能を使ってセラフィスノに戻してくれ。使えたらだが。」
「了解であります。では、残った皆さんは戻りましょう。」
そして、8人はエレデアスに向かっていった。残ったメンバーは、急いでセラフィスノに戻って行った。ある、一人を除いて。




