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銀河騒乱   作者: 村山龍香
第二章 銀河編
51/63

episode18-2 悲劇

「では、今後の計画について話そう。」

「次元移動計画についてですね。」

「そうだ。具体的な予算の話をしよう。」

「それでは皆さん、お配りした資料の30ページを開いてください。」

日を改めて翌日、同会議室ではガイア全体のタイムワープ、次元移動計画と名付けられたその計画の話がされていた。エスカも傍聴が許されており、発言はできないもののエスカも聞いていた。

「うへー、なんだこりゃ。」

「エスカフローラ君、静かに。・・・さて、本計画の実行に当たり予算は既に試算されている。全星民を転送した際にかかる公社の損失は900兆フォッグとなっている。これを何らかの形でカバーしなければならない。」

「失礼ですが総裁、星民は言うならばガイアの資産です。転送を行わなければガイアの資産がすべて焼失するのですよ。」

「わかっている。あくまで試算だ。しかし現状それを補えるほどの予算は公社としても存在していない。」

議場は沈黙に包まれる。900兆フォッグと言うのは、あまりに巨額なのはハーヴァと言えどわかっているからだ。そしてヴェバートが口を開く。

「予算を減らすのは可能だよ。・・・取り残される人間がいてもいいならね。」

「ローゼンべリア君、転送人数を減らすのは最終手段にするべきだと思います。他にはありませんか?」

しかし、アインソフはハーヴァのそれを聞き入れなかった。ヴェバートの話が、最も効率が良いと感じたからだ。

「いや、それで行こう。損失を叩いてでも利益が出る人材のみを転送すれば問題はない。止むを得んだろう。我々に全員を転送する必要などないからな。」

「おいちょっと待てよ!それじゃ全員助からねえじゃねえか!」

「総裁!何卒他の方法を・・・!」

エスカとハーヴァが異を唱える。しかし、議場の人間はそうではなかった。

「他の方法なんてねーよ。最善の方法なら900兆。そうでなきゃ人数減らす。」

そして、淡々と帳簿を眺めたアインソフがヴェバートに尋ねる。

「ヴェバート。30兆ならどうにかなりそうだ。30兆フォッグで何人転送可能だ?」

「確実なのは140万人程度。まぁ希望込みで150万。」

「そんな!それではガイアの全星民の100分の1にも満たない!そこまで多くの民を見殺しにする気なのですか!」

しかし、アインソフは無情にも採決を続ける。140万人の転送での計画は・・・拍手喝采であった。可決ということだ。

「なあ!総裁!あんた間違ってるよ!!」

「・・・エスカフローラ君、五月蠅いぞ。退室を命ずる。ハーヴァ君、君も私語が過ぎる。立場をわきまえるのだ。」

エスカは、つまみ出された。


休憩室に、エスカはいた。このままでは、ガイアの民のほとんどが死んでしまう。エスカは公社の人間であり一等保安士と年齢の割にはまずまずの地位にいるのでまず間違いなく置いて行かれることはないであろう。しかし、それでも。エスカは納得ができなかった。

「なんだよ、金、金って・・・。畜生・・・。」

打ちひしがれていると、ハーヴァが休憩室に入ってきた。会議が終わったのだろう。

「・・・エスカ君、いる?」

「元帥さん?」

「美味しいコーヒー貰ったのよ。一緒に飲まない?」


「苦ぇ!」

ハーヴァは砂糖を入れていたが、エスカは何故かそのコーヒーを何も入れずに飲んでいた。無理してエスカは飲んでいるが、明らかに苦そうに飲んでおり、ハーヴァは苦笑する。しかし、話はどうしても次元移動計画の話になる。ハーヴァは軍部の元帥というニアを子供扱いできる立場であり彼女が助からないというのはエスカ以上に有り得ない話であった。しかし、腑に落ちないのは彼女も同様だった。

「・・・もう一度掛け合ってみましょうか。絶対に助けてみせる。」

「元帥さん・・・できるのか?さっきの会議でも押し負けてたじゃねえか。」

「私を信じて。元帥の権限を使ったら、一対一で話してみたら話は変わると思うから。だから・・・。」

「わかりました。・・・これ。」

そうしてエスカが渡したのは少額の現金だった。しかし、エスカの当時の給料からしたら結構な額であった。

「もし金がーとか言われたらこれ叩きつけて『金ならここにあるわ!』くらい言ってやってください!」

「・・・クスッ。ありがとう。エスカ君。私は貴方の味方よ。思いつめないでね。」


そうして、ハーヴァは総裁室に向かった。

「総裁、次元移動計画についてですが。」

「何かね、ハーヴァ君。」

「やはり、全星民を助けることはできないのでしょうか?」

しかし、アインソフはやはり動かない。

「しつこいぞ元帥。全星民を転送する予算など出せない。金の無駄だ。助けて利益になる、君のような人間だけを助ければよいのだ。」

「しかし、そうするとガイアの存続が・・・。」

「ふん。我々はそんな後進的な国家ではない。消滅した星民など保存されているDNAでいくらでも再生可能だ。技術と遺伝子さえ持ち出せれば種の滅亡などしない。」

「でも、それでは民衆が!」

「ハーヴァ君、我々は我々で開発した技術でビッグクランチを避けようというのだ。それに協力しなかった民衆が転送されないのは当たり前だろう。・・・もういいだろう。今さら議決を変えることはない。私も忙しいのだ。退室してくれ。」

ハーヴァは、アインソフに背を向けた。そのハーヴァの肩は震えていた。自分の無力さに、涙を流して。

「・・・エスカ、ごめんなさい・・・。」


エスカが結局何も変わらなかったのを知るのには、そんなに時間がかからなかった。ヴェバートがエスカのいる休憩室に行き、次元移動計画は草案のまま実行に移されると報告したからだ。

「なっ・・・元帥さんは・・・ハーヴァは・・・俺を騙したのか・・・?そういえばお前も総裁の肩を・・・!」

「金がかかるのは事実だし。僕は頼まれて作ってるだけだし、嘘ついても仕方ないし。文句なら総裁にでも言って。」

総裁に文句を、と言う台詞でエスカは動く。エスカがそこにあった自分の剣を腰に携えたのは、ヴェバートにはすぐわかった。

「・・・そうか。なら俺はアインソフを倒す。このままじゃガイアの皆は皆殺しにされるんだ。」

「・・・ハッ。公社のセキュリティを抜けれると思ってるの?まぁ僕は協力してやらんでもないぞ。金さえもらえるならな。」

「・・・ここでも金か。まぁいい。金なら出してやるさ後でいくらでもな。」

そうして、エスカは剣を持ち公社の上層部のフロアに侵入する。IDなど下級のものでその人間が武器など持っているのだから、すぐにセキュリティが反応した。

「これだからバカは困る。まぁ後で金貰えるし、バカを想ってセキュリティは止めてやろう。」

「一言多い。・・・とにかくやってくれ。」


そして、会議室。悲痛な面持ちで、ハーヴァはそこにいた。ドアが開くと剣を抜いたエスカがいたのだ。ハーヴァは慌てて立つ。

「エスカ君!?」

「元帥さん、いやハーヴァ=アスタリスク。お前はガイアを裏切った。」

「私は止めようとしたわ、でも・・・」

エスカは、ハーヴァに言葉を繋がせない。真正面から戦って勝てる相手ではハーヴァはないからだ。虚を突いて倒すしかなかった。凄まじい勢いで飛び込み切りかかったエスカをハーヴァは止められず、喀血し倒れる。

「そんな言い訳は聞きたくない。俺は総裁も殺す。」

「エ・・・スカ・・・ごめんなさい・・・で・・も・・・私を殺しても・・・ガイアは救え・・・ない・・・の・・・よ・・・。」

そう言うと後は息絶えるまで壊れたように謝罪の言葉を繰り返す。

「・・・謝るくらいなら。なんで・・助けてくれなかったんだ・・・。」

エスカは、一瞬罪悪感に苛まれる。しかしそれも束の間。人を一人殺した以上、後には引き下がれないのだ。すぐさまアインソフの部屋に向かう。

「エ、エスカフローラ?ハーヴァは?ハーヴァはどうした!?」

「ハーヴァ=アスタリスクは俺が裁いた。お前も俺が裁く!!」

そう言うと、ハーヴァと同じ要領でエスカは思い切りアインソフに切りかかる。同じように虚を突かれたアインソフは一撃の下倒れた。

「ヴェバート。見てるか?どいつもこいつも、自分の行動に責任もとりゃしねえ。自分の都合だけを考えて動くんだよな。その繰り返しだ。・・・腐ってやがる。俺はこの繰り返しを止めたい。」

「で?どう止めるのさ。」

そうして、エスカは人道に反した制御方法を切り出す。

「ヴェバート。人の思考を制御できる機械って作れるか?勿論金は出す。」

「・・・人が信用できないなら、皆機械にしちゃえばいいんじゃない?」

「そんな話は聞いてねえ。できるかできねえかだけ言ってくれ。」

「別にできるよ。そのくらい余裕さ。金だけは出してくれよ。」


そして数年後。エスカフローラ=ヴァレンスは公社の解散と共にバラバラに分かれた保安部、軍部、技術部のなかで保安部の局長となった。

「俺が惑星保安部の新局長、エスカフローラ=ヴァレンスだ。皆が知っての通り、前局長や軍部は民衆を見殺しにしようとした。だが俺は違う!俺達は違う!俺は民衆を見殺しにしたりしない。ガイアの皆でビッグクランチを超えるんだ!そして新しいガイアを作ろう!今ここに、新たなガイアの名前をエレデアスと名付ける。古きガイアを捨てて、新しい秩序ある世界を作り上げるんだ!!」

新局長の演説に惜しみない拍手が送られる。しかし、冷めた目で見る人間が二人。ヴェバートと、新陸軍元帥のセイバー=アスタリスクだった。彼はハーヴァの逝去に伴い前元帥の弟と言う立場と陸軍での実績が認められ元帥に昇格したのだ。

「ふーん秩序ある世界、ねぇ。」

「・・・何がエレデアスだ・・・。姉貴が一体何をしたってんだ・・・!!エスカフローラ・・・てめぇは死んでも許さねえ・・・!!」


「・・・なんだ、これ。」

「セイバーさん・・・だからエスカをあんなに・・・。」

ナディアは、セイバーをこの中で誰よりも長く見てきている。エスカとセイバーの確執も、だ。見てしまえば明らかである。肉親をあの男に殺されたのであれば、必要以上に過剰に反発するのは致し方ないことであっただろう。自分があのサーヴィルの戦艦でアストラを殺されていたら、などと考えると身の毛がよだつ。勝てないとわかっていても飛びかかっていたであろう。

『エレベーターロックが解除されました。』

そうしていると、アナウンスが入る。恐らく、ロックをヴェバートが解除したのであろう。

「・・・先生?」

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