episode18-1 ビッグクランチ
監獄惑星セフィロト。
隔離された機械の人工惑星であり、そこにはエレデアスから転送された犯罪者が入れられてる・・・はずだった。
「これは・・・ひどいことになってるよ。」
「何が?」
アストラの呟きに答えるかのように、聞き慣れた機械音が響き渡る。監獄房を見ると、インフェニティーが巣食っていた。聞こえてしまえば明らかだ。最早ここは、エレデアスの監獄ではなくインフェニティーの楽園。
「インフェニティの群れ。」
「エレデアスにはセフィロトがこんなになってるなんて報告はなかった・・・。どういうことだ?」
「奥には昔投獄された先生がいるんだと思う。先生が報告を改竄してるんだよ。」
そして、監獄房の奥に転送システムはあると考えられた。しかしそれは、このインフェニティの大群を倒しながら進まなければならないことを当然意味している。
「しかしこの機械ゴキと戦いたくねえな。他の行き方探そうか。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「あんたねえ・・・。」
ナディアが呆れたようにニアを見つめる。冗談のつもりでニアは言ったのだが、普段の言動が言動故本心だと思われてしまったらしい。
「・・・冗談だよ。わぁってるよ、んじゃあ行くか。」
おびただしい数のインフェニティーを駆逐していくと、エレベーターに辿り着く。曲がりなりにも保安正であるニアはセフィロトの構造をある程度理解しており、最深部は地下五階であることを知っていた。しかし、何故かセキュリティーロックがかかっており地下三階までしか行けなかった。
「あれ?地下三階までしか行けねえ。セキュリティーコードはっと・・・ダメだ。セキュリティーコードまで変えられてやがる。とりあえず一度降りるしかねえな。」
そうして地下三階で降り、調べると古ぼけた一枚のブルーレイディスクが見つかる。文字はかすれていて、よくわからなかった。
「アストラ、これ読めるか?かすれてて読めねえ」
「うゆー・・・?ああ、これローゼンべリアって書いてあるね。ヴェバート=ローゼンべリア。先生のディスクだね。何かの記録みたい。」
「ヴェバートの記録!?それを見れば何か掴めるのではないか!?」
「・・・うん。何が記録されているかにもよるけどね。」
「見てみればいいんじゃないかしら。クレイバー、部屋の鍵閉めてインフェニティが入ってこれないようにしてくれる?」
そう言われたクレイバーは黙ってシェリルの言う通り鉄格子の鍵を閉める。それを確認してアストラが目の前の再生機にディスクを入れる。若かりし時のヴェバートらしき少年の声が流れ始めた。
『あーあー。・・・この映像はビッグクランチ回避計画、次元移動プログラムの記録のための録画です。趣味で作ったので細部が雑だけれども気にしないように。あと、バカが所々紛れ込んでるけど気にしないように。』
「これは・・・?」
「ビッグクランチの時の映像みたいでありますね。」
「ってことは若い時のセイバーさんも!?」
口々に好き勝手なことを言う中、アラフォースとシェリルは至って静かだった。
「これは貴重ですね。」
「ニア、見ておきなさい。これがすべての始まりよ。」
・・・今から5000年近く前。その惑星ガイアの中枢は、宇宙開発公社という会社が担っていた。
そこには惑星保安部、惑星軍部、惑星技術部と言った大きく三つに分かれており、金髪の少年エスカフローラ=ヴァレンスはその惑星保安部に所属していた一等保安士であった。休憩室にエスカ少年が入ってきた。そこには若くして惑星技術部の実質的なトップを担っている天才少年、ヴェバート=ローゼンべリアがいた。
「もうすぐ、会議始まんだろ?ヴェバート、なんでこんなところいるんだ?」
「今、歴史に残る重大事件の記録の準備をしている。邪魔しないこと。・・・あと、歴史に残る重大なバカの記録も。」
「何か言ったか?」
「重大バカエスカフローラ=ヴァレンスの記録と言った。」
訂正もせず物怖じもなく言い放ったヴェバートに、エスカは苦笑いするしかなかった。そうこうしているうちに、ヴェバートの準備は整ったらしく会議室に向かう。そこには、サングラスをかけスーツを着た一人の男がいた。この男こそ宇宙開発公社の総裁、ガイアのトップに立つ男アインソフ=グローレンスその人だと知らない人間はガイアにはいない。
「来たか、エスカフローラ、ヴェバート。」
「はい!保安士エスカ、到着しました!」
「総裁、バカを連れてきました。重傷です。」
相変わらず減らず口を聞くヴェバートにエスカが飛びかかろうとする。それをアインソフが止めてると一人の女性が入ってくる。緑色の長い髪に豊満な身体。しかし右腕にはその美麗な外見に似合わない甲冑があてがわれ来ている服も武骨な軍服、何より目を引くのは派手な金属音を立てる大きな鉄球。彼女が惑星軍部のトップ、ハーヴァ=アスタリスクである。この華奢な見た目で底なしの大酒飲みだったり元帥と言う立場通りの鬼神の如き怪力を誇っていたりするのだから、人は侮れない。
「はーい、こんにちはー。」
「あっ、元帥さん!お久しぶりです!」
挨拶をすると、エスカはデレデレと鼻の下を伸ばす。ヴェバートはそれを見て嘲笑するかのように笑い、またエスカがムッとした表情を見せる。そんな二人を見つめつつ、ハーヴァは話をする。
「・・・はい、んじゃあ今回の話の説明をするわね。エスカ君、ビッグクランチって知ってる?」
「いや、知らないっす。」
「ビッグクランチっていうのは宇宙の収縮の事。宇宙の終わりと言ってもいいわね。・・・それが今、私達のいる宇宙に起こっているの。」
いきなりとんでもない話をされ、エスカは面食らう。そんな報道は、ガイアのどの報道機関でもなされていなかったからだ。一般人に近いエスカには、当然の話であった。
「えっ!?」
「それで、私達はそれをどうやって超えるか話し合ってきたの。」
「いやいやいや!宇宙自体消えちゃうのにどうしろって言うんですか!」
しかし、ヴェバートにはまるで慌てる様子がない。
「これだからはバカは困る。・・・ビッグクランチを避ければいいだけの話。ガイア全体をタイムワープさせてビッグクランチが終わった後の宇宙に飛ばせばいいだけ。」
「そういうことだ。終わった後の宇宙に転送すれば事は終わった後だからな。」
口々に言われ、エスカは納得する。仕組みを聞こうかとも思ったが、どうせ自分にはわからないだろうと聞かなかった。話の腰を折られてしまったハーヴァが、続きを話す。
「・・・コホン。それでエスカ君には私達の警備に当たってもらいます。非常に危険度が高い会議をするので情報漏洩を防ぐためですね。勿論、さっき話したビッグクランチの話とかは外部に漏らさないこと。時間厳守は当然の話です。わかりましたね。」
「了解しました!」
「はい、元気でよろしい。それではこの場は解散!」
解散を言い渡され、ぞろぞろと人が出ていく。アインソフとヴェバートを除いて。
「ヴェバート、ちょっといいかね?話したいことがあるのだが。」
「はい?なんですか?」
「うむ、単刀直入に聞こう。君はあの技術で全星民を移動させることが可能だと本当に思っているのかね?」
ヴェバートは自信をもって答える。自分の技術と知識に、一点の間違いもないと信じているから言えることだ。
「考えてます。」
「失敗する可能性は?」
「0です。失敗とかありえませんし。」
「そうか。星民の転送人数を減らしたほうが成功率が上がるのでは?と考えていたのだが・・・。」
「別に大丈夫です。全星民100%移動させられますし。」
「・・・そうか。わかった、ありがとう。」
ヴェバートも話が終わると、眠たげに部屋を出ていった。




