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銀河騒乱   作者: 村山龍香
第二章 銀河編
47/63

episode16-3 奥義

五日目。ニアの動きは格段に良くなり、ナディアの防御態勢を潜り抜けられるほどにまで上達していた。

「やっぱりセンスあるじゃん。五日でここまでやれるようになるとは流石に思わなかったわ。」

「お褒めにいただきどうも。・・・で?まだあるんだろ?」

「そうねえ、あると言えばあるわね。ただ、命の保証はしないわよ。最後は殺す気でかかるから私を倒してみなさい。」

そう言うと、ナディアは全速力で剣を引き抜き、ニアに襲い掛かる。銃剣で咄嗟に防御態勢を取るが、その衝撃はかなり強く、後ろに押し戻される。

「おっ、お前!いきなりそれはねえだろ!」

「いきなりもクソもないわよ!敵がわざわざ襲うなんて言って襲うと思ってるの!?」

衝撃に押し倒されたニアだったが、ナディアの腹を蹴り上げ瞬時に拘束状態から抜け出す。ナディアが咳込むが、ニアも容赦なく今度は突っ込んだ。

「んじゃ殺さねえ程度にはしてやるからこっちも全力で行かせてもらうぜ!」

「自分が死なないように気をつけなさいな!!」

ニアとナディアは激しく武器をぶつけ合い、金属音が響く。その大きな音に、連日修理に当たっていたアストラが飛び出してきた。

「ニア!ナディア!何してるの!?」

「うるせえ!」「うるさい!」『真剣勝負だ!!』

最早、それは修行のレベルを超えたものになっていた。ナディアが振り下ろした剣をニアが銃剣で避け火花が散り、隙を見てニアも攻撃を加える。まさにこれは、真剣勝負。心配そうに見つめるアストラに、下で見ていたシェリルが話しかける。

「アストラ。何してるの?修理は終わったの?」

「もう殆ど終わってるけど・・・あれは何?」

「殆どってことはまだ完全じゃないのね。まぁ最初のうちはナディアが稽古つけてた感じなんだけど・・・ニアが実力発揮するうちに本気になっちゃったみたいね。まぁ心配しなくてもいいわよ、死ぬ前にはちゃんと回復してあげるから。」

「うゆー、できるのー?」

「ガイアで最強の魔術師よ、私。エレデアスの医療と同じくらいのことはできるわ。」

そうしてる内に、決着が着く。ナディアが彗星の様に剣を高速で繰り出し、ニアの銃剣を払い飛ばすと勢いのままニアを突き倒し、馬乗りになってニアの首元に剣先を突きつける。武器を跳ね飛ばされたニアは今度は成す術もなく両手を上げる。

「参った!」

「今日はこんなことしてたら夕方になっちゃったわね。・・・一応言っとくけど、相手が私じゃなくてエスカだったらあんたこれで死んでるからね。殺意を持った敵を相手にするってこういうことだから。」

しかし、ナディアは気づいていた。ニアの修行を付ける前には、あんなキレのある技を使えなかったことに。知らず知らずのうちに、彼女もまた実力を上げていたのだ。

(あの技、彗星裂破斬って名前にしようかしら)


翌日、また全力で戦う。しかし、全力の手合いはまだまだナディアの方が上。この日もニアは劣勢に追いやられた。『命の保証はないし、死んでも責任は今度は取らない』と宣告した通り、ナディアはニアが血を流しても、容赦なく攻撃を続ける。死ぬ一歩手前には攻撃をやめて回復に専念するつもりらしいが、手加減は感じられなかった。ニアが瀕死に陥りかけた、その時だった。

「うおおおおおおお!!」

ニアの黄金色の目が血の様に赤く染まると思えば、どうしたことだろう。明らかにナディアが優勢に見えたところから、急激にニアが圧し始めたのだ。力の差は、歴然だったというのに。

「ちょっちょっちょ!何よ、いきなり!こんな力あるなら最初から・・・!!」

そうすると、ニアが凄まじい勢いで突きを繰り出すと、隕石のような強烈な圧を持ってナディアを襲う。その凄まじい衝撃波は、後ろにある小高い丘をも消し飛ばした。ナディアも堪え切れず、その場にひっくり返った。

「・・・何よ、アレ・・・。」

ニアは、ナディアが戦闘不能になってもなお攻撃をやめようとしない。理性が、完全に飛んでいるようであった。そんなニアを止めたのは、シェリルだった。しかし、その髪は鮮やかな桃色で透き通った紫色の瞳はこれまた青く変わっている。

「はいはい。それ以上やったら死んじゃうから。・・・お眠りなさいな!!」

そうすると、シェリルの指先からは強烈な磁力が発されニアを押し潰す。気絶させるに十分な圧を持ったそれは瞬時にニアの気を失わせ、瞼を閉じたニアの瞼を開く。その時のシェリルは、元の姿に戻っていた。

「瞳は・・・うん、私と同じね。気絶させれば強制的に戻せるみたいね。さて、ナディアを回復させてあげないと。」


「何なの、アレ?」

その日、ニアに重傷を負わされたナディアは夜シェリルの部屋に行った。燃料が届かなければ明日もやるとはニアには伝えたものの、フェクトが燃料の発送がなされたと言っていたので明日にはサーヴィルから燃料が届く可能性が非常に高い。明日模擬戦をやる可能性は限りなく0に近いだろう。しかし、あの鬼神の様な力を見せたニアが気になり、シェリルの部屋に聞きに行ったのだ。あのニアを止めたのは、間違いなくシェリルなのだから。

「アレ?アレね、リストブレイク、っていう私は魔力のオーバーフロー現象だと思ってる状態なの。ああなると気絶させないと止められない。突入契機は人それぞれっぽいけど、かなりの魔力がないとそもそもああはならないわね。」

「シェリルは?なれるの?」

「私?私はできるわよ。ダークチャージって魔術があるんだけどそれを重ね掛けすれば自力でなれるわね。ただ、やりすぎると魔力が止まらなくなってニアみたいになるから時間気を付けてやる必要があるけど。・・・まぁあれね、命を懸けるなら程々に、ってことよ。次からは気をつけなさいな」

概要を聞き出せたナディアは、得心すると礼を述べ部屋を後にした。

そして翌日。朝一番に、サーヴィルから燃料が届いた。燃料を補給すると、今後の話し合いが行われる。

「んでよ、アストラ今後どうするんだ?」

「とりあえずサーヴィルに三日くらいは滞在するよー。完璧に動かせる状態にはペラルナの材料だけじゃできなかったからね。サーヴィルで完璧に動かせる状態にしたらエレデアスに直接的にではない形で乗り込む方法を考えるって形になるかな。」

「エレデアスに直接じゃダメなのか?」

「それは無謀だと思うなー、あはは…。」

「そうね、間違いなく保安部の船団に複数でちゃかぽこ撃たれて蜂の巣になるわよ。それでいいなら正面から突っ込めばいいんじゃないかしら」

ナディアが、相変わらず中途半端に頭の足りてないニアに突っ込む。そして話し合いが終わり、四時間後にサーヴィルに着くという話を聞きニアはまたシェリルに呼び出されたのだった。

「シェリル、今度はなんだ。」

「言い忘れたことがあってね。ニア、エスカを倒すことを貴方は正義だと思う?」

その返答に、ニアは自信満々に答える。

「ああ!ルーアも俺もエスカに滅茶苦茶にされたんだ!特にルーアはな!責任取らせてやらねえと!」

その返事を聞くと、シェリルは高々と笑う。前の様にニアを肯定した笑みではなく、ニアを嘲笑する笑いだというのは、ニアにはすぐわかった。

「あんた、面白いわねえ。・・・いい、よく聞きなさいニア。甘ったれてんじゃねえぞ、クソガキ。」

笑いを止めたそのシェリルの目は、非常に冷たかった。その瞳は、人を殺し続けてきた人間の目だった。今までの温かい表情から一変させたシェリルは、ニアの肩に手をかけ続ける。

「いい?あんなことを聞かされたあんたがエスカを殺したいほど憎いのはわかるわ。・・・でもね、人を殺すってのはどんな理由があろうと等しく悪よ。私がダクトナーレを殺したのもそう。どんな理由があろうと正義になんかなりはしないわ。それだけは忘れないで・・・言いたかったのはそれだけよ。自分の部屋で何が目的でエスカと戦うのか、よく考えなさい。ただただ復讐したいって気持ちだけで戦っても、何も生まれないわ。」

その言葉には、ニアには恐ろしい程の説得力があった。ニアが自室に戻っても、そのシェリルの冷たい目が頭から離れることはなかった。


その数分後。シェリルの元に、3人目の客が来た。茶髪にMZBの軍服、クレイバーだった。

「シェリル、ニアになんかきつい言葉をかけたな。かなり青い顔してたぞ。」

「いやね、老婆心ってやつかしらね。…ちょっと心配だったのよ。覚悟もなく間違った正義感だけで人を殺しちゃわないかなって」

そういうシェリルは、もう先程の冷たい目はしていない。彼女は目に見えるものを救いたいと思う優しさを持ちながらもニアに語った通り、人を殺している。しかも実際には一人ではない。

不要に語らないだけで国に仇なす者の命を奪うための書類へのサインは社長業の傍らでしてきたし、そもそも六月革命の道中で何人も道を遮る者やMZBの元の上役を抹殺している。

「…私みたいになってほしくないってことか。」

「そういうことよ。誰も咎めないだけでここ何年かの私がやってきたことは紛れもない重罪よ。こんな血に染まり切った手をした女を知ってて踏み入ろうとする人はいないわ。」

「俺は違うけどな。」

「そりゃ貴方は共犯者だからね。大体、私がやらなきゃ貴方がやってたでしょう?…それなら私の考えてることももう少しわかるでしょう?」

「ああ。ああいう奴は、俺らが道を違えないようにしてやらないとな」

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