episode16-2 格闘
翌日も続く。ようやっとナディアが動かせるようにはなったものの、後ろを取るところまではまだ来ていない。
「とりあえず動かした分のご褒美はあげるわ。でもまだ後ろは取れないみたいね。・・・何が悪いか、教えてあげよっか?」
そうすると、ナディアは一蹴りでニアの後ろに回り込む。そして、首に強烈な手刀をお見舞いする。
「痛え!!何しやがる!!」
「やっぱり耐久性とかは全然あるわね。気絶したら仕方ないって思ってやったんだけど。・・・無駄が多いってのはフットワークよ。相手に一直線に近づくんならワンキックで移動すれば体力の消費も少なくて済む。小走りで近寄るなんて無駄しかないわ。」
なにくそとばかりにニアは、油断してるナディアの足元をはらう。完全に油断をしていたナディアは、無様に転げる。
「油断したな。これで後ろを取るのもクリアだろ。」
「・・・ちょっとズルいけどいいわ。油断を突けるのも大切なスキルだからね。んじゃ今から武器を持って実践練習よ。」
「はぁ?スパーリングは?」
「今やってもいいけど、多分死ぬわよ。・・・んじゃあ挨拶代わりに一度お手合わせしてみる?死なないようにシェリル連れてくるからちょっと待ってて」
そして、回復魔術の使えるシェリルの立ち合いの元、スパーリングが行われた。結果は言うまでもない。
ニアに攻撃もさせずにナディアが足の腿骨を叩き折り、一撃で沈めた。
「シェリル!骨の形が変にならないうちに回復させて!」
「はいはい。・・・こんな為に使われるとはね。」
そう言いながらもシェリルは魔術の詠唱をあっという間に完成させ、魔術による癒しの光はニアの折れた骨をあっという間に癒着させ、折れた痕跡すらも感じさせず元に戻った。非常に強力な魔力を持つとクレイバーが言っていた通り、その魔力は確かなものであるようだった。
「ナディア、まだこれやるの?」
「勿論。ニアを私と張り合えるくらいに燃料が来るまでにするんですもの、時間なんてもっと欲しいくらいだわ。・・・そうそうシェリル、私貴女とも話したいからさ、今日の分終わったら貴女の部屋行っていい?」
「構わないわよ。女の子と話す機会って仕事柄全然無くてね。」
そして一日が終わった。その後、一本でも銃剣での攻撃がナディアに命中すればという条件で練習を続けていたが当然クリアができず終了。疲れ果てたニアは、自室で泥の様に眠りこけている。
そしてナディアはシャワーで汗を流し、楽な格好でシェリルの部屋にいる。シェリルも、クレイバー以外の男を入れているわけではない為下着に近いかなり軽めの格好をしていた。
「先が思いやられるわねえ。」
「とか言って結構面倒見てるじゃない。で、話したいことって何?」
「そうそう、貴女、六月革命を起こしたシェリル=コンスタンティウスさんよね?」
「へえ、こんな何光年も先の宇宙でも伝わってるんだね。そうよ、それで?」
ナディアは、とんでもないことを聞く。通常、アレファスリには有り得ないことだ。
「ニアさ、どう思う?」
「どう思うって?好き嫌いの事じゃないでしょう?」
「察しがよくて助かるわ。なんか私達と違わない?アイツ。」
そう言われると、シェリルは目を細める。その違和感に、異常な魔力を持ち誰よりも魔力に敏感な彼女はすぐに気付いたからだ。他のアレファスリになくて、ニアとルーアにはあるもの。それは。
「そうね。確かにおかしいわ。・・・アレファスリがあんな濃密な魔力を持ってるはずないもの。」
翌日、朝食を食べるなり今日も外に出て修行に励まされるニア。昨日は一切息を切らせず余裕でニアの銃剣を避けていたナディアだったが、疲れが取れてキレが良くなったことに加え、どうしたことだろう。適当に振ってるように見えるニアの銃剣は、ナディアの回避が難しい箇所に的確に来ていた。やがてそのうちの一発が、ナディアの脇腹に命中する。
「キャッ!・・・合格よ。あんた本当に筋良いわね。こんなに早くやられるとは思わなかったわ。ご褒美は三日分溜まってるから今日にでも全部やってあげるとして・・・午後からは実戦に移るわ。まぁ最初は素手だけど。剣を抜いて戦うのは最後になるわね」
ナディアは、軽々ニアがクリアしていくのを見て優しく笑った。師匠としての、優しい笑みだった。




