episode15-2 制御
メインシステム部位に辿り着いた。やはりフェクトがいた。
「フェクトだ!覚悟しろ!」
「覚悟もクソもあるか!お前らと戦い続けないといけない理由があるんだ!」
そうフェクトは言う。抜いた武器を止め、セイバーは問う。
「ほお、なんだいその理由は?」
「お前らのやり方は間違ってるって言ってるんだ!」
それを聞くと、抜いていた武器をセイバーもナディアもしまってしまう。エスカのみが、武器を出したままで。
「なあ、そこのナルグドのお偉いさんよぉ!あんたはエスカに騙されてるぞ!」
「・・・どういうことだ?」
「おかしいと思わなかったか?エスカはお前らナルグドのトップを潰してナルグドを乗っ取ったんだぜ?」
そうフェクトが言うと、魔法陣が現れる。そこから、紫髪の男が出てきた。
「彼の言うことには一理ありますね。エレデアス・・・エスカフローラの目的は思想の統一による平和の維持です。人間の洗脳を行い、エレデアスの敵ができないように仕向ける。これが、彼らのやり方です。」
その男に、エスカが声をかける。恐らく追っていた脱獄者なのだろう。
「ふっ・・・誰かと思えば脱獄者じゃないか。アラフォース、何が言いたい。」
アラフォースと呼ばれたその男は、エスカの方に向き直り言葉を返す。
「脱獄者ですか。ならば私は貴方の事をこう呼びましょう。独裁者、とでも。エスカフローラはガイアやエレデアスの人々にマインドコントロールを施したのです。」
ニアは、衝撃を受ける。セイバーとナディアとウィルは気まずそうに視界を外す。
「え・・・?事実なんですか、局長?」
答えたのは、エスカではない。ナディアだった。
「・・・事実よ。」
「ああ。それでエスカは俺達サーヴィルにも洗脳を施そうとしててだな、それが今のエレデアスとサーヴィルの戦争の原因になったっつうわけだ。ナルグドはまだ洗脳はされてねえみたいだが今のエレデアスの支配下にある状況じゃ、間もなく全員洗脳されるだろうな。」
「マインドコントロールと言えば印象が悪いが、争いのない治安維持と言えばいい。これにより人は物事を不快に感じることもなく、平和に過ごせるのだ。」
エスカはこう答える。ニアには、もう乾いた笑いしか浮かべることができない。自分の築いてきた世界が、足元から崩れていく感覚がした。
「ははは・・・冗談ですよね?」
そんなニアに、アラフォースは話しかける。更に残酷な事実を告げるために。
「ニア、やはり貴方は何も知らないようですね。」
「可哀想ね・・・。」
ナディアも言う。ナディアは、ある程度真実を知ってるのだろうか。
「ナディア・・・どういうことだ?」
「ニア、あんたはね。エスカのモルモット第一号・・・つまりこのマインドコントロール、正式名称思考制御システム遠隔操作の初期の被験者なの。そこにいるルーアちゃんも同じ。」
「冗談も大概にしてくれよ・・・!!俺はこうしてなんともないじゃないか!!ナディアもそこのお前も何が言いたいんだよッ!!俺がコントロールなんてされるわけが・・・!!」
錯乱するニアに、ナディアは頭を抱えながらさらに続ける。
「あんたはね。でも、ルーアちゃんは?おかしいと思わないの、自分の妹を。」
「何がッ!」
「あんな壊れたお人形さんみたいな、静かな子だったの?あんな泣きも笑いもしない、冷たい子だったの?」
そう言われ、ニアはハッとする。フェクトはナディアの言いたいことがわかったようで、取り次いでいく。
「そういうことか。まぁ頭ん中身ド派手に弄り回すだろうからな。その時に感情を司る部分に傷でも入れちまったんだろ。」
「前頭連合野に損傷を与えてしまったのですか。」
「俺らはモノセルだから人体の頭脳とかは詳しくはわからねえが、多分アラフォースさんとやらが言ってる通りだろう。」
そして、ニアは思い返す。あの時の事を。不思議とジャミングされるようなエレデアスにいた時の感覚はなく、すっきりと思い出せる。
「嫌っ!離して!助けてよお兄ちゃぁぁぁぁん!!」
「ルーアァァァァァ!!」
そうだ。ルーアはこんな壊れた人形みたいな少女ではなかった。あどけない顔で笑い、時には感情を露わにして怒り、ペットが死んで悲しむ、どこにでもいる普通の少女だった。
今のルーアはどうだろうか。与えられた仕事に冷静に対処し、泣きも笑いもせず犯罪者を冷静に捕まえ必要とあらば銃撃で殺害し、何が起きても激昂し怒鳴り散らすこともない。・・・まさに壊れた人形のような少女であった。
「ルーア・・・?」
「・・・私は。別に感情など必要じゃない。」
「そうだ。こいつはどこにでもいる普通の女の子だった・・・!こんなどっか頭のネジの飛んだような機械みたいな奴じゃなかった・・・!!なのに、なんでッ!!」
「ニア。これでわかったでしょう。エスカフローラがどういった男なのか。」
そして、エスカが口を開く。もう、隠す気もないようだ。
「・・・よくしゃべるな、ナディア、アラフォース。しかし思考制御をすれば記憶を消すなど容易いことだ。」
「てっ、手前!!都合が悪くなりゃそうも簡単に記憶を消すってか!?」
しかし、ニアの記憶が消えるようなことはない。他の人間も、何も感じていないようだった。
「エスカフローラ、忘れていませんか?ここはエレデアスではありません。遠隔操作の妨害をすることなど容易いことですよ。」
「おっ!流石だなアラフォースさん!アレファスリと同種だと思って舐めてたぜ!」
「本来フェクト、貴方がやるべき事なんですがね。」
痛いところを突かれ、フェクトは黙りこくってしまう。しかし、エスカは諦めなかった。
「クソッ・・・!アストラ!システムを復旧したまえ!あれはヴェバートが作ったシステム。君にも復旧できるはずだ・・・!!」
しかし、その間にはナディアが入り込む。
「ちょっと、エスカフローラさぁん?お姉ちゃんは今セイバーさんにお金貰って軍部の仕事をしてるんですよ?保安部の貴方が何勝手に他人の仕事邪魔してるんですかぁ?」
「今は非常事態だ。アストラ、やりたまえ。」
しかし、アストラは首を縦には振らなかった。彼女は、エスカフローラを明白に拒否したのだ。
「エスカさん、もうやめようよ。いくらエレデアスが一番最初に誕生した惑星だからってその後生まれてくるもの全てを支配する権利なんてないと思うよ。・・・こんなことをしなくてもほかにいくらでも方法はあると思います。」
それを聞き、エスカは高笑いを上げる。今までニア達が聞いたこともない、不気味な笑いだった。
「くッ・・・ハハハハハハ!!くだらん。貴様らはもう全員粛清せざるを得んようだな。アストラ。君には心底失望したよ。奴のほうがまだ見所があった。・・・君たちが生きている理由はない。粛清だ。」
そこに、赤髪のスーツを着た女が現れる。エレデアスの軍服とはまた違う軍服を着用した男も、一緒に駆けつけてきた。
「アラフォース!エスカフローラ以外のアレファスリの人も!早く逃げなさい!!本当にエスカフローラは皆殺す気よ!!」
赤髪の女が、逃走を促す。全員、一目散に逃げだした。ニアを除いて。
「局長・・・そんな・・・。」
「ボサっと立ってる場合じゃねえだろ!さっさと逃げろ!」
もう一人来た軍服の男に、首根っこを掴まれニアも逃げさせられた。
「逃がさん!!」
しかし、そのエスカをセイバーが止める。
「待ちなぁ、エスカ。」
「元帥殿、そこを退きたまえ。君もエレデアスを滅ぼすつもりか?」
「べぇつにぃ?アストラちゃん含め部下を守るのは上司の仕事、ってだけだぜ。」
その赤髪の女に連れられ、転送位置まで戻る。
「そこのOLさん!どうやって逃げるんだ!?」
「私たちの宇宙船で逃げるわよ!」
「いや、貴女達の宇宙船じゃエレデアスの宇宙船の性能に勝てないわ!セイバーさんに許可は取ってある、セラフィスノで逃げましょう!!」
そして、皆がアストラとスケープによってどんどん転送されていく。エスカが、その転送に割り込もうとする。
しかし、エスカのみは乗れなかった。後ろから来たセイバーの鉄球が、エスカの足止めに必要な程度の力でぶつかり、エスカを転倒させたからだ。
「エスカ、手前何軍部の戦艦乗ろうとしてんだぁ?」
「元帥殿か。その船に俺の部下が乗り込んだのだ、邪魔をするのはやめたまえ・・・!!」
しかし、その返答にもセイバーはイエスの返答を出すことはない。
「何言ってんだぁ?ニアは乗せる、ルーアちゃんも乗せる、アストラちゃんも乗せる、ナスカも乗せる。手前は乗せねえ。それだけの話だ。」




