episode0-2 少女
「死刑囚シェリルだ!!侵入者共々倒せ!!」
兵士長と思われる男が兵士達に叫ぶ。
「こんなモラルの欠片もねえ連中が真面目に働くわけねえだろ」
ファルクはそう毒づき、兵士の数人は腹が立ったのか一斉に斬りかかるが、実際その通りだ。
人使いが荒いだの安月給だの言っている時点でこの手の下手したら死ぬ可能性がある仕事を真面目にやるほどの忠誠がないのは見え見えであった。事実、シェリルが脅しに一発腹に矢を放った時に大半の兵士は腰が引けていた。
半分以上を倒したと同時に、兵士たちは散り散りになって逃げていった。
「これが本当に無敵の監獄なの?」
「名前にビビって侵入する奴がいないから無敵だったんじゃねえのか」
毒づきつつ二人は進む。ある程度進んだとき。
「やあ、君たちが侵入者かい?」
橙色の髪をし、ゴーグルをつけた男が声をかけてきた。兵士の仲間かと思っていたら違うらしい。
「この最新鋭のライフルが10000コイン!!どうだいお兄さん?」
・・・どうやら商人らしい。ファルクとシェリルに最新鋭のライフルだの、使いやすいボウガンだの、色々勧めてくる。
しかし。
「・・・フォッグしか持ってねえな」
そう、この国スキンエンパイアではマルクセングとコールルピックで使用できる通貨であるフォッグは使えないのだ。
この国で使われている通貨はコイン。シェリルはフォッグであっても小遣い程度しか所持していないがファルクは「技術者としてマルクセングで名は売れている」と言うとおり、実際売れているのだろう財布には大量の紙幣が挟まっていた。しかし、それも全てフォッグである。のんびりしてたら捕まると踏んで買い物する気はなかったからコインは宿賃一日分しか持ってきてない、と言った。
「流石に法に触れる商売はしたくないからね。まあなら仕方ないか。」
「こんな所に入ってる時点で法に触れてると思うけど・・・。」
「まあ、君たち僕のいいお得意さんになってくれそうだね。名前なんていうの?」
「・・・シェリル。」
「そっかシェリルか。僕の名前はモルコスフィア=ファーレンス。また会った時よろしくね。それと、この先に重要人物が捕まってるらしいよ。」
「・・・それがリメルだな。」
そう言ってファルクは歩を進めた。
「そんなに重要な人なの?」
「ああ。まぁ早く行くぞシェリル、事が進む前に・・・な。」
言葉少なくそう言って彼はそのモルコスフィアが言っていた方向の号棟の前に立つ兵士を、シェリルの檻の前にいた兵士同様、殺さずに抵抗できないようにして侵入した。
重要人物が幽閉されている、とモルコスフィアが言っていた号棟に侵入して30分。その牢にたどり着いた。
「よお看守さん。そこをちょっと開けてもらえねえか」
ファルクは看守らしき男に声をかけた。もちろん、開けるかという問には答えない。
「侵入者か!」
「この方の開放が目的なら、黙って見過ごすわけには行きませんね。」
二人の男が襲いかかってきた。
「どうやら本当に開放させる気はないようね・・・。」
シェリルは冷静に言いつつ弓を引く。しかし剣を持った看守が圧倒的なスピードで近寄りそれを妨害する。
(速いッ)
ファルクの援助を待つがファルクはいつまで経っても援助をしない。
実際はできなかった。斧を持った方の看守もスピードに関しては剣を持った看守に比べれば劣るものの、斧による一撃を喰らったら重傷は免れない。敵を攻撃するために弾を込めている間に攻撃されて攻撃できなくなってしまうのでは、本末転倒というものであろう。
「シェリル!そいつはてめえでどうにかしろ!」
「かと言ってどうするの・・・」
途中で言葉を切った。どうにかできる方法。一つ思いついた。祖母に使うなときつく言われていた、一つの力。
「・・・まぁ、生きるか死ぬかってなったら仕方ないわね・・・はぁぁぁぁ!!」
彼女が右腕に力を込めると一つの炎球が生まれる。その火球がファルクと対峙している看守に一直線に飛ぶ。
「ぐあああああ!!」
後ろからの突然の攻撃に対処ができず皮膚の焼け爛れる嫌な臭いとともに看守は倒れた。斧を持った看守は、そのまま動かない。
そのまま剣を持った看守に二人で立ち向かう。弾を装填し終えたファルクが一斉に弾を放ち剣を持った看守を狙う。その狙い澄まされたファルクの弾丸は正確に剣を持った看守の踝を貫き、素早い動きを見せていた看守の動きが一気に鈍る。
「帝国に反逆するものは・・・排除する!!」
足を撃たれてもなお立ち向かう看守だったが、無意味だった。素早く動き相手を翻弄するタイプの戦士にとって足の怪我は致命的。シェリルに向けられた剣はなんのことはなく躱され、ファルクに銃把を叩き落とされその場に倒れた。
「何なんだシェリル?さっきのは」
「何でもいいでしょう。さっさと助けるわよ。」
何でもいいでしょうと言った彼女はこれだけは知っていた。これは、魔術。
70年前に封印された、原子単位で事象を操り攻撃や回復に転化させるもの。
もちろんこの70年前に封印された、という件は彼女は知らない。しかし彼女の祖母に、魔術のことは口に出すなと厳しく言われていたため、口には出さなかったのだ。
「・・・?まあいいか。」
「あなたたちは誰ですか?何故ここに?」
「リメル。俺たちはお前を『クロスケーション』から救出しに来た。スキンエンパイアを脱出し逃亡する。・・・ほれよっと。」
そう言いつつファルクはシェリルを救出した時と同様に簡単そうにリメルの檻の錠を外した。
そこから出てきたのは金髪碧眼の、一人の少女。思わず見とれてしまいそうな美しい顔をしているが、さっきまで牢屋に入れられていたためかその表情は若干強張っていた。
「逃亡?どこにですか?」
「マルクセングだ。あそこまで逃げればスキンエンパイアの追手は来ないだろう。」
そうファルクが言った瞬間、リメルは声を荒げ立ち止まる。
「マルクセングに!?それはダメです!そんなことしたらお父様の身に何が起こるか・・・!」
「それはない。クロスケーションはお前の親父には手を出せない。もしそんなことをすればスキンエンパイアは混乱に陥るからな。」
「でもマルクセングは・・・!」
「安心しろ。マルクセングはお前たちを敵視していない。マルクセングの敵は『クロスケーション』だ。お前はクロスケーションではないだろう。」
観念したのか、彼女は声を元に戻し、静かに言った。
「・・・わかりました。マルクセングに亡命します。ところで、そちらの女性は?」
「私はシェリル。」
「シェリル?確か我が国の国宝を破壊した方も・・・?」
やはり私がやったことになってるのか、と嘆息しシェリルはリメルに言った。
「私は冤罪。どこの誰だか知らないけど全く迷惑な話だわ。」
「そうですか」
「まあこいつの言葉を信用するかしないかはリメルの勝手だ。因みに俺は一切信用してないぜ」
ファルクが笑いながら言った。信用してないならなぜ開放したのかと聞こうとしたがやめ、ブラッドエンプレスの出口へとシェリル達3人は向かった。