episode14-1 ヤーベル鉱山の黒き龍
デオリスの先の荒原を5時間ほど歩くと、そこにまた街があった。カジノがある以外は後進的に見えたデオリスと違い、石畳で綺麗に整備され、発展してる様子がうかがえた。
「ここがナルス大聖堂がある街だよ!」
「なるほどなぁ、広いな。」
今度はエスカは、街を見て回ることもなく、すぐさま一番高い建物に向かう。
「トキファよ、あの一番大きな建物がナルス大聖堂かな?」
「そうだよー。早く行こ!」
「待ってください!ここから先は許可なき人間は通ってはいけないのです!」
気の弱そうな衛兵に止められる。トキファが経緯を説明すると、今度は右の気の強そうな衛兵が食いついてきた。
「エレデアスだと?ちょっと待ってもらおう。」
「ああ。我々はエレデアスから来た。ゼフィリア教皇と面会がしたくここまで来た。」
「・・・賊だとまずいな。ヒース、教皇に確認に行ってくれ。貴方達がアレファスリですか。確かに変わった格好ですが。」
その後、服装について気の強そうな衛兵と話しているとヒースと呼ばれた気の弱そうな衛兵が戻ってきた。
「ど、どうぞお通りくださいなのです!ゼフィリア教皇からは会食はどうか、とのことでした。」
「5名分の食事が用意できれば会食で構わんよ。」
「わかりましたです。ゼフィリア教皇に伝えてきますので戻ってきたらついてきてくださいなのです。」
そう言うと、ゼフィリアは走って行った。ニアは、一抹の不安を覚えた。
「毒仕込まれてたらどうする?」
「大丈夫だよ。僕が毒物センサー使うから。あれ色々出るけど本当に入ってたらまずいものが混ざってたら音が鳴るから。今はナディアの歌が流れるようになってるけど、他のにする?」
「おいおい・・・ってか何をセンサーの音にしてんだよ。」
「流してあげよっか」
そして流されたナディアの歌手としてもやっていけるのではないかと思われるほど非常に綺麗な歌声で、またニアは彼女に驚かされたのだった。
「あの人ほんとなんで軍部に行ったんだ?多才すぎねえ?」
「あははー、何やってもすごくて僕もついていけてないかなー。」
そうして、ヒースの案内で食堂まで通された。ゼフィリアと呼ばれている教皇は赤い髪で白いローブで首元近くまで隠していた。しかしなぜだろう、どこかで見た気がするとニアは感じていた。
「ようこそ、エレデアス代表エスカフローラ=ヴァレンス殿。そのほか同行されいる方々も。我がナルス教教皇、ゼフィリアだ。隣にいるのが兵士長、ティミセカだ。」
「貴方に会えて光栄だよ、ゼフィリア教皇。・・・さて、本題を説明したい。今のエレデアスとナルグドの状況の説明だ。アストラ、頼む。」
そして、アストラにより現在ナルグドとエレデアスは歩いて移動可能な距離内にあるということ、それがサーヴィルという敵対勢力によりもたらされたことが説明される。
「成程・・・即ちそちらは敵対戦力との戦闘の被害によりナルグドを破壊するかナルグドと融合するかの二択を迫られて融合を選んだ。その結果として現状、エレデアスは我々の方から歩いていける距離にあるという認識で間違いないわけだな。」
「はい。現状エレデアスは歩いて行ける範囲にあります。」
「貴様らが自爆していればよかったのだ。なぜ我々が・・・」
不服な様子を見せる金髪の男、ティミセカにゼフィリアが釘を刺す。どうもこの様子を見るによくあることのようだ。
「失礼。血の気の荒いやつでね。・・・こちらから聞くことはあまりない。よくわかった。ところでそちらからは何か我々の事で聞きたいことはあるかな?」
「そうですね、ナルス経典にあるエレデアスの伝説の事について聞きたいのですが。」
「それか。あれは1000年前にさかのぼる伝説でな、この星に銀色に光る船が落ちてきた。その船に乗っていた人間の体は欠けていて神に忌み嫌われ子を授かれなくなった者であった・・・。」
1000年前に落ちた船、というのでアストラがはっとした顔をする。1000年前に落ちた船は、アストラのよく知る人物が乗っていた宇宙船だった。
「・・・多分先生の船だ。・・・その船に乗っていた人物の名前は、ヴェバート=ローゼンべリアではないですか?」
「よくわかったな。何故だ?」
「ヴェバート先生は、僕に機械を教えてくれた先生です。」
「1000年前にここに来た人物と知り合いだというのか?」
「はい。僕たちアレファスリは多分そちらの種族よりずっと長生きで1万年以上は生きられますし、時期的にもピッタリですし・・・。」
ゼフィリアは、相当驚いた様子であった。無理もない話であった。目の前にいる若々しい人間が、自分の何代も前の人物の弟子であり、生きているのを生で見ている、というのだから。
「驚かされてばかりだ。そしてヴェバートは初代ナルス教皇ナルスと友好を結び、このナルス大聖堂ができた・・・というのが伝説だ。」
そして、エレデアスの面々の質問が終わる。そして、ナルグド側の席に座っていたトキファが、ゼフィリアに英雄になりたいことを申し出た。
そして、ナルグドと融合したためにゼフィリアはエスカに英雄をエレデアスからも何人か出してほしい、と申し出た。しかしエスカはそれに対しては、非常に冷たかった。
「すまないな教皇、それは首を縦に振れん。・・・我々に生贄を出す文化はないのでね。」
「ふざけるな!我々のみで英雄を出せというのか!!」
激昂したのは、ティミセカだった。それに対してエスカは、こう切り返す。
「我々はドラゴンなどには平服しないと言うことだ。・・・我々はドラゴンが生まれる前から生きている。負けることなどあり得ぬことだ。」
「馬鹿な!見たこともないだろう!」
「ならば我々が倒せば問題がなかろう。どちらからも致命者を出さず、非常に建設的だと思うが・・・。教皇、どうだろうか?」
ゼフィリアは頭に血が上り、冷静な反論もできなくなっていた様子だった。そしてゼフィリアからは、ティミセカにとって更に驚く発言をされる。
「・・・そう言えば我は教皇の身でありながらヤーベル山のドラゴンを見たことがないな。兵士長、我もこの者たちに同行し龍を直接見てみようと思う。倒せそうならば倒してしまうが。」
「猊下!何をおっしゃられているのですか!22章6節によればドラゴンを愚弄するものは食い殺され地獄に落ちて奈落の底で苦しみ続けるとされております!猊下が亡くなったら誰が教皇を務めると言うのですか!」
「その時はお前がやれ。お前ほど敬虔な教徒もおるまい。血筋も身分も問題ないだろう。」
「・・・わかりました猊下。そこまでおっしゃるのであれば。」
「決まったな。」
しかし、どうしたことだろうか。教皇が死ぬかもしれない、という決断を下したのにティミセカは不思議と笑みを浮かべていた。
こうして食事も終えた一行は、食堂を後にする。この服装で出るわけにはいかない、とゼフィリアは私服に着替えるため、隣にある自室に入った。
「龍か。どんなんなんだろうな。」
「おっきいんじゃない?火を噴いたりして。」
「我々の脅威ではないだろう。何せ平民を生贄を出させるわけにはいかんからな。倒してしまうのがベストだろう。」
・・・そういったことを口々に話していると。ゼフィリアの部屋から人が出てきた。・・・昨日のデオリスの宿屋にいた、謎の高圧的な給仕だった。
「昨日の謎のメイドそっくりだな・・・失礼します。教皇ですか?」
「うむ。ゼフィリアだ。・・・そういえば昨日会ってたな。エレデアスから伝えられた服装でな。『モ・エー』と言うらしいが。」
ニアが法衣に身を包んだゼフィリアを見てどこかで見たことがある、と思ったことの答えが出た。それはそうであろう。昨日会ったのだから、見覚えがないはずがない。寧ろいざ着替えるまで気が付かなかったことに驚きが隠せなかった。
アストラは頭を抱えていた。自分の師はこんなところまで来て何を教えていたのだろうと思ったからだ。
「あー・・・一般的ではないです。」
「そうなのか?まぁ我はなかなか気に入っているが。誰にも気づかれぬしな。」
そりゃあそうだろ、と全員に突っ込まれその後一行はヤーベル鉱山に向かった。




