episode11-1 インフェニティー
・・・そして、本来の出勤時間になり。
ニアは、目覚めた。
「ニア、起きてる?」
「おう、起きてるぜ。」
「局長が会議があるって言ってる。今から10分後。」
ルーアが言葉少なく簡潔にニアに会議の旨を伝え、部屋から出る。
「時間に局長厳しいからな。すぐ着替えるか。」
そして会議室。ナスカがすでにいた。
「早くないか?今五分前だぜ?」
「私は一時間前にはいたわよ。そもそも定時五分前出勤なんて貴方重役にでもなったの?」
「それが早すぎなだけだし五分前で重役出勤扱いとか厳しすぎるだろ。・・・そもそも俺達、階級は保安正なんだからそこそこ立場はあるだろ。」
「エスカ局長直々のお話よ。そんな階級お飾りじゃない。」
などと駄弁っていると。エスカが入ってきた。
「エ、エスカ局長!おはようございます!!」
「・・・三分前だが全員そろっているな。いいことだ。少し早いが始めるとしよう。・・・ちょっと厄介なことが起きてしまってな。諸君らに対応に当たってもらいたい。」
保安部内でも、ニアとナスカはそれなりの実力を持っている。その二人とルーアを加えた三人で対応に当たる、というのはかなり厄介なことであろうとニアにはすぐ察しがついた。
「サーヴィルが大挙して脱走しましたか?それともインフェニティの大量発生ですか?」
「後者だ。」
インフェニティ。それは金属を捕食し、自らのコピーを作りながら活動していく兵器。単純に壊そうとしても自己修復能力で再生してしまい、普通の手段ではどうやっても破壊が不可能な兵器であるという軍部、保安部に勤めてれば当たり前に持っている知識だ。
「・・・俺達、インフェニティの活動を停止させる方法なんて知りませんよ?」
「そう言うだろうと思ってたよ。俺も専門の知識がないから人数がいても会議にならない。・・・だから今回は専門家を呼んでいる。安心しろ。入ってくれ。」
そう呼ばれると、青色の髪の頭にバンダナを巻いた女性が入ってきた。非常に可愛らしい女性で、とても技術職を本職に持つ女性には見えなかった。
「はじめまして!今回保安部の皆さんに協力することになりましたアストラ=フィケーションです。よろしくお願いします!」
ニアは、うっかり見惚れてしまった。
「ニア、鼻の下伸びてる。」
うっかり表情が弛緩してしまったことをルーアに指摘され、せき込む。表情を作り直し、ニアは椅子に座りなおす。
「・・・えーと、専門家ですよね?」
「はい。僕の専門は半導体、情報システム、兵器の設計です。今回インフェニティの駆除ということで呼ばれました。」
「・・・戦えますか?」
「サーヴィルの戦艦に乗り込んで解析とかはしたことありますけど。・・・ごめんなさい、戦えないです。」
そうすると、ドアが再び開き、もう一人女性が入ってくる。アストラによく似た顔で、若干年下だろうか。アストラ同様髪は青く、可愛らしい顔からは八重歯も見えた。しかし、アストラ同様の可憐な姿には似つかわしくなく服装は軍部で支給されている袖のないアンダーシャツと迷彩柄のズボンであった。軍部の人間なのだろう。そして腰には、これまた可憐な容姿には似つかわしくない、武骨な剣が佩かれている。
「お姉ちゃ~ん!」
「ナ、ナディア!?軍部はどうしたの!?」
「えー、セイバーさんに聞いたら『アストラちゃんの護衛ならオッケー』って言ってたからー。」
「・・・あの人・・・ほんと・・・。」
そして、話の腰を折られたアストラが話を戻す。
「・・・軍部の仕事を受けないわけにもいかないので。お仕事だし。この妹もいるし・・・。」
「まぁ、今となっては雇える技術者の中ではアストラが最も優秀だからな。軍部もアストラを雇うのは当たり前だろう。」
言葉に、若干不満に感じるところがあったのだろうか。アストラは、少し顔をしかめた。
「・・・コホン。今回君達にしてもらう仕事は、フィルノアコーポレーションの廃墟に大量発生したインフェニティの駆除だ。」
突然入ってきたアストラの妹、ナディアも会議室にそのまま留まり話を聞いている。どうやら軍部の仕事を投げ出してきたらしいナディアも、この仕事に協力するようだ。
「まずインフェニティの性質も本で読んだだけだし実物も見たことがないので対策のしようがないですね。」
「私も実物は見たことないわね。アストラちゃん、どうすればいいの?」
口々にアストラに質問する。そうすると、アストラは袖から虫のような形をした機械を取り出した。
「聞かれると思いましたので、サンプル体を作ってきました。無害なので安心してください。・・・えーと、まず普通に叩きます。」
そうすると、工具箱からスパナを取り出し疑似インフェニティを叩く。一撃でバラバラになった。が、すぐに体を組み替え元に戻る。
「ご覧の通り、普通に叩いて壊しただけじゃすぐに元に戻ってしまうんだ。・・・色々としゃべりたいんですけど長くなっちゃうので要点だけに絞るね。とりあえず皆は普通に叩いて壊してくれれば大丈夫。後ろで私がこのウイルスチップをばらまきます。これでインフェニティは完全に活動しなくなります。」
そして、もう一度叩いて壊したそれに、チップを投げる。その疑似インフェニティは活動を止め、そのまま元に戻ることもなく砂鉄と化した。
「このような手順を取らないと、インフェニティは壊せません。・・・何体いるかわからないので工具を持って僕も行きますけど、さっきも言った通り僕は技術者で別に戦えないので護衛お願いします。別に人工知能も積んでない旧式だから僕を狙ってきたりはしないと思うから」
「人工知能を積めるの?」
「積めるよー。でもそれは僕が作ろうとしてるものだからね。」
「じゃあなんで積んでるのもあるの?資料にはあるって」
「えーと、それは先生が・・・。」
「ヴェバートか。あいつはお前より優れた技術者だったよ。軍部は何を思ってかお前の方を評価してるみたいだがな・・・。俺の目はごまかせん。」
アストラの師匠に当たるであろう人物の名前をエスカが口に出すと、露骨にアストラは不快感を露わにした顔に変わる。工具をすぐまとめると、ニアたちに会議室から出るように促した。
「で、三人で守りながら戦わないといけないわけだが・・・」
「四人よ。私を勝手に抜かないで。このために来たんだから。・・・というかサボる口実にお姉ちゃん使ったらセイバーさんにこっぴどく絞られるし。」
「えーと、この子はナディア=フィケーション。大体皆わかってると思うけど僕の妹。・・・僕と違ってすごく強いよ。軍部で大将の階級でセイバーと衛生兵士長のウィルと一緒に何時も最前線で戦ってるから。」
「ぐ、軍部!?ちょっと近づかないで!セイバーの野蛮な臭いが移る!」
ナスカが煙たがると、ナディアが脅しのつもりか剣を引き抜きナスカの首元で止める。ナスカの髪が数本落ち、ナスカは血の気が引く。ニアも認識できないほどの抜剣の速さで、アストラの言うことは嘘ではなく本当である、ということがすぐにわかった。
「次、セイバーさんの悪口を私の目の前で言ったら許さないからね。・・・私は軍部の人間ってこと忘れないで。」
しかし本人もこんな場所で人を殺す気はないのだろう。すぐに剣を収める。
「さて、こんな所で仲間割れしてる場合じゃないでしょ。行こうよお姉ちゃん。」
「うん。・・・えーっと、ナディア優しいけどものすごく短気だから気を付けてね。フィルノアコーポレーションは南だよ。」




